花形スタァと癒しの君

和泉臨音

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番外編(後日談、ライル視点)「好き好き、大好き、愛してる」

後編

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 力尽き気絶したセリの体を洗って、バスローブに包めばベッドに運ぶ。
 一緒に横になりセリを抱き締めて首筋に顔を押し当てれば、さらりと髪を撫でられた。そのまま大人しく撫でられているとセリのかすれた声が降ってきた。

「ライルさん……なにかあった?」

 返事がわりにぎゅーっと抱き締めれば、撫でていた手が頬に降りてくる。

「……なんでそう思うの?」
「なんか、今日……いつもよりも激しいっていうか容赦ないっていうか……えっと、つまりいつもとなんか違う気がしたから、何かあったのかなって。僕が記者の人に余計な事言ったから、気にさわったとか?」
「ううん。セリのおかげでコラムの仕事きたし、むしろ感謝してるよ」
「そうなの? ならよかった」

 セリの手にキスしてから体を起こして顔を覗き込む。
 さっきまでトロトロに惚けて気持ち良さそうにしていた顔が真剣な表情をしてる。

 バレるほど態度に現したつもりはなかったけど、セリにはバレたんだろう。何て言うか、こういうところ本当に侮れない。

 余裕なく抱いたカッコ悪い理由はわかってる。

 セリがオレの「恋人」だって言いたくないのでは? と不安になったからだ。オレの恋人だと言うのを嫌がる理由は考えれば色々ある。

 そしてなによりその事をセリに確認するのが怖いという、自分のヘタれ具合に呆れた。食事中にさりげなく聞こうと思ったのに、出来なかった。

 激しく抱かれて余裕なんてないはずなのに、セリはオレのちょっとした変化にも気付く。
 そんなセリを信用してない訳じゃない。だけど信じてたって怖いものは怖い。

 あー、だけどせっかくきっかけをくれたんだ。今が聞くチャンスだろう。
 セリには気付かれないようオレは小さく深呼吸して気合いをいれた。

「……新聞社の奴がセリのこと家政婦って言ったんだ」
「へ? そうなんだ」
「……セリがそう言ったの?」

 キョトンとしたセリに、思わず少し威圧して尋ねてしまった。余裕がなくてみっともない。そうは思うけど反応を見逃したくなくてセリを見つめる。

 セリはそんなオレの気持ちに気づいてるのかいないのか、視線をそらし何か言おうとしたが一度言葉を飲み込み、ややあって視線を戻してじっとオレを見つめた。

「えっと、僕は恋人だって言ったんだけど、やっぱり信じてもらえてなかったんだね。話してる時にそんな気はしてたけど」

 セリがオレから視線を逸らさずに苦笑して言う。
 オレを恋人だと明言してくれた事にほっとしつつも、オレの中の何かがぷつんと切れた。

「わかった、その新聞記者に抗議する。名刺もらってる?」
「え、や、いいよ大丈夫、顔怖いよ落ち着いて」

 オレの顔をセリが慌てて撫でる。その手をとって掌にキスした。

「ちゃんとオレの恋人だって、セリのこと言ってくるから」
「ううーん、それはいいかなぁ目立ちたくないし」

 セリの言葉に更にオレの顔が険しくなったんだろう、セリが慌ててさすさすとオレの頬を撫でている。
 撫でても人の表情なんて変わらないと思うんだけど、変わると思ってるのかセリは一緒懸命真剣な顔で撫でる。こういうバカっぽいところ本当に可愛い、力が抜ける。

 思わずセリの頬にキスすれば、セリの表情が安堵に変わった。ふにゃりとした笑顔を浮かべてオレを見つめる。

「僕だってララの恋人が僕みたいな奴だって言われても信じられないよ。だから信じてもらえないのは仕方ない」

 オレの頬から頭に手を移動させて、小さい子にするようになでなでと撫でてくる。

「それに、僕は別に誰がどう思っててもいいやって思う。感じ方は自由でしょ。ライルが僕のこと大事にしてくれて、僕もライルが好きで、お互いが恋人だって、大事な人だってわかってる。それで充分だと思う」
「……本当にそう思ってる?」

 自分が無いものみたいに世間に扱われているのをセリは寂しがっていたはずだ。

 じっとセリを見つめれば、セリがキラキラした瞳で見つめ返してくる。赤子のように淀みのない綺麗な宝石は穢れることがない。

「思うよ。ライルの恋人に相応しいって、他人がどう思うかじゃなくて、ライルが決めることでしょ? だからライルが僕のこと、その、えっとぁぃして、くれ……てれば他はどうでもいいかなって」

 自分で言って恥ずかしくなったのか、えへへっと照れ笑いしながらもじもじしだす。

「……それってつまりオレがいればいいってこと?」
「う、極端に言えば、そう。……ライルさんは……違うの? 僕以外にも恋人が必要?」

 解ってた、知ってたけど、セリは本当に第三歌劇団のララトップスタァではなくて、ライルが、オレがいればいいのか。
 なんだかよく分からないけど、じんわりと胸が言い様のない熱い気持ちで満たされる。思わずセリを抱き締めた。

「いらない。セリ以外、要らない」
「ふふ、良かった。それにね、僕がララの恋人だって人に認めてもらうの、すっごい大変だと思うんだ。そんなことに時間使うなら僕はライルのこと甘やかしたいよ、うん」

 そういいながらセリがオレの背中に手を回して、優しくて撫でてくれる。

「だから、ええと、大丈夫だからね。僕が恋人じゃないって言ったんじゃないからね?」
「うん」
「ライルのこと大好きだよ」
「うん」
「本当に本当にほんとーに、大好きだからね」
「うん」

 優しいセリの声とキスがあちこちに降ってくる。オレはひたすら頷き、小さな子どもみたいにセリに甘やかされたまま眠りについた。

 セリの腕の中は暖かくて、大好きな声で好き好き言われながら微睡むのは、それこそ夢心地だった。
 ふわふわした甘い砂糖菓子みたいなこの幸せを、セリも感じて欲しいって思う。オレの幸運を導いてくれるセリならば、きっとずっとオレのそばにセリが居てくれるように、奇跡を起こしてくれるんだろう。
 それはつまりオレたちはずっと、幸せでいられる、そういうことだ。たとえ不安に思うことはあってもそれすらも甘い時間に変えて。




 ―― ところで、身から出た錆、という言葉がある。


 ベッドに移動した後すんなり寝たオレだったが、翌朝体調が悪いのではないかとセリに心配された。

 たしかにソファーでしかやってないけど回数はまあまあやったし、甘やかされて心身ともに充分に満たされてた。気持ちよかった。
 セリも別に足りなかった訳じゃないだろう。いつも通り腰がだるいとベッドの住人なのだから。だけど思い出せばベッドでオレのこと呼び捨てにしてたよな……。

 可愛い恋人を不安にしておくのはよくないだろう。

 さっそくオレは心配してくれた優しいセリを安心させるために、欲望を抑えることなく、朝からセリの体に甘やかしてもらうことにした。




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