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番外編(ライル視点)「満ちた夜の話」
第四話
しおりを挟む「セリスターニャ・ティアーネ? どうしてお前が彼を知っている」
ちょうど劇場に来ていたアリオンを捕まえて楽屋に引きずり込む。
お堅い第三特務隊の分隊長様は腕を組んでオレを見下ろした。
「昨日知り合った」
「まさか寝てないだろうな?」
仕事モードの低い声で聞いてきたが、なんだろ、特務隊じゃ役者と寝ちゃいけないとか決まりは……ないな。いたもんなネた奴。
「寝た。めちゃくちゃよかった」
「おいっ!!!!」
いきなり襟首掴まれて持ち上げられてビビる。
恋人でも寝取られたような形相の異母兄に蹴りを入れかけてぐっと堪えた。
「なっ、んだよ。お前にはダンテが居るだろ??」
「そういうことじゃない! ことと次第によっては警備隊に突き出すぞ!」
「まてまて、ちゃんと同意だから。強姦じゃない」
「……信じていいんだな? 信じるぞ?」
酔わせて食った、わけじゃない、と思う。たぶん。
「そこは信じとけよ。あっちだってガキじゃないんだ。気分が乗ればセックスくらいするだろ」
「お前と一緒にするな。普通の人はそんなに俗物じゃないし、彼はそういう人間じゃない」
釈然とはしてないようだけど、とりあえず手は放してもらえた。解放されて俺は軽く咳き込む。
オレのこの下半身旺盛でいわゆる遊び人なのは、完全に旦那様ともしかしたら母親の血だ。そんでもってこの目の前の異母兄アリオンが、同性の恋人と40歳超えるまで関係を持たなかったのも、可哀想に旦那様の影響だ。
難儀なもんだなと思う。
アリオンは旦那様の子どもとして貴族としてスクスク育ったが、いかんせん恋愛方面は拗らせちまったらしい。女は駄目で、男相手でも勃起しない。好きな相手ができてそれは改善したけど、まあ面倒臭かった。自分は歳だからあーだこーだと、頭でっかちめ。恋人とくっつけるのも結構大変だった。
そんなアリオンが恋人を差し置いてセリとどうこう、ということはないと思うが怒り方が尋常じゃない。いやこれはどちらかというとあれか、娘をとられて怒る父親か?
時間がたって冷静になってから、セリはなんか意図をもって身分証をわざと落としたのでは? と考えもしたが、違うな。
これでもアリオンは隊長と名のつく肩書きを持ってる人間だ。しかも組織内の人間に対して間違った認識をしてることはないだろう。
セリは少なくともオレと寝るような人間じゃないらしい。
「だとしてもお前が怒る必要ないだろ。意味わかんねぇんだけど。なんだよお前の子どもかよ?」
女がダメだって知った上でわざと馬鹿にしたように煽る。
何でか知らないがアリオンがオレよりセリの事を知ってることにイラッとした。そりゃ同じ第三特務隊員だ知ってて当然だろうけど、イラッとするもんは仕方ない。
しかしさすがは堅物だ。オレの煽りに真顔で返事をしてきやがった。
「なにかと聞かれれば彼は天使だ」
「…………」
「窓口の天使」
「…………は? オニイサマ今なんて?」
というか、天使、天使ね? 昨日も聞いたね?
なに? 特務隊は常に天国でも見えてんのか??
「彼は浄化能力者だ」
「なのに事務員?」
浄化能力は奇跡と呼ばれる特殊能力の一つだ。闇から生まれる魔物を消滅、浄化させることが出来る。少しくらいなら持ってる奴も結構いるが、明確に「浄化能力」と認定されるまでの能力を所持している人間は少ない。
その数少ない人間が所属出来るのが、対魔物の組織である王立特務隊だ。
「ティアーネ主任は何もないところで転ぶくらい運動神経が鈍い。浄化能力以前の問題だ」
「あー……」
オレは昨日抱き止めた回数を思い出して遠くを見た。
「浄化能力持ってて天使なら、アリオンもダンテも天使じゃん?」
「違う。ティアーネ主任は………………。第三特務隊での噂話をしよう。とある事務員に繕い物をしてもらうと活躍できる、そんなジンクスがある」
「……はぁ? そりゃ可愛いお嬢さんに手を握られるとやる気出るのと一緒か?」
「まあ聞け。その他にも、とある事務員が書類を通すといつもよりも短時間で審議が降りるし差し戻しがない」
「しっかりフォローしてくれてるんだろ」
「その事務員に「がんばれ」と言われれば失敗しない」
「……応援された奴が努力した結果だろ。それで天使?」
なんとも大業な名前を付けられたものだなと思うが。
「話しているとものすごく癒されるんだ」
「く、くそっ……それは同意しかない」
本人を知ってしまうと癒されるというのは凄く判る。
悔しがるオレにアリオンが勝ち誇った笑みを浮かべた。腹立つな。
「本人は自分は不細工だとか、目立たないとか、雑用ばかりでうだつが上がらないって悩んでたけどな」
本人の認識と周りの認識が違うことなんてままあることだ。
というかセリの奴、一日一善とか言ってたけどそもそも良いこと細々として、周りの奴等に感謝されてるじゃん。無意識って怖いな。
つと視線を向ければ、こちらを伺うようなアリオンの視線に眉を潜める。
「なに?」
「いや、ちょっと複雑な気持ちになっているだけだ。余計なことを言いたくないから他に用がなければ行くぞ」
「?」
なんだ?歯切れが悪いな。
てっきり二度と近寄るなとかそんな牽制をしていくかと思ったが。
大人しく出ていくアリオンの背中を、オレは首をかしげつつ見送った。
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