花形スタァと癒しの君

和泉臨音

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番外編(ライル視点)「満ちた夜の話」

第一話

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 気持ちがいいならそれでいいや。そんな風に思ってた。
 ロマンチックな恋愛は芝居の中だけで十分。
 だからセックスなんて言ってしまえば運動と同じで、イッた時の達成感はあるけどあとは身体が気持ちよければいいって感じ。

 こんな廃れた認識なのは、オレの生活環境に起因してるのは明らかだ。

 オレはそもそも貴族の庶子というやつだ。お屋敷の旦那様がメイドに手を出して生まれた子ってやつね。
 ちなみにこの旦那様、ジジイになっても精力旺盛酒池肉林。オレはジジイが70歳超えてからの子らしい。
 そんなわけで異母兄弟なんて何人いるかわかったもんじゃない。ただ、五人くらいは旦那様の子どもとして家に縛られてるってのは知ってる。
 なんでかって言えばその一人が母親が死んだときにオレを迎えに来たし、屋敷で半年くらいは一緒にいたからだ。

 母親はずーっとオレは「好きな男との間に出来た子だ」って言ってた。その真意はわかんないが、母親の方は旦那様が好きだったんだろう。
 王都から離れた中規模都市で、母親は身を売りながらオレを育ててた。
 母親は綺麗な女だったから馴染みの客も多くて、変な相手は取らなかったから、客のオレに接する態度も普通の近所の兄ちゃんみたいな感じだった。たまーに五歳にもならないオレに悪戯しだす奴もいたけど、そいつらは母親が鬼女のように怒って殴って蹴りだしてた。お蔭でオレは自分の意志でヤリたいって思うまで清い身体でいられたわけだ。

 アンアン喘ぐ母親の声と、犬のうめき声の様な男の声と、ギシギシとベッドが軋む音がオレの子守歌だったと言っても過言じゃない。

 そんな環境で育ったオレが10歳の頃、母親が流行病で死んだ。
 「王都から迎えが来るから面倒見てもらえ」というのが母親の遺言だ。死にそうな母親を放置するのに来るわけないと思って聞いてたが、実際はちゃんと迎えが来たから驚いた。

 で、王都の貴族の屋敷に移り住んだけどさ、貴族生活に慣れるわけがない。
 オレの演技力はこの時代に培ったんだなって今では思うけど、まあとにかく生活が窮屈すぎてオレは半年足らずで家出した。
 その後は衣食住が欲しくて、王立歌劇団の入団試験を受けた。母親に似て見た目の良かったオレは見事合格。第三歌劇団員となった。

 この頃の第三歌劇団は男娼みたいな役者が多かった。
 有力貴族や先輩役者と寝るのも仕事のうち、従者は性欲処理の道具、そんな場所だった。
 それをぶち壊したのが同じ時期に入団したシャクナだ。
 王立でありながら退廃していた第三歌劇団の内情を新聞社に売りやがった。お蔭で風通しが良くなって、一気に健全な場所っていうにはちょっと乱れた風紀はあるけど、以前に比べれば段違いに清浄化された。

 シャクナに対して思ったのは「凄い奴」と「馬鹿な奴」だ。
 自分が正しいと思える勇気は凄いと素直に思った。だけどそれで恨まれる事や保身が大変になることなんか考えてない辺りは馬鹿だと思った。
 身体使ってのし上がることしかできない先輩達は、始終シャクナを貶めることだけ考えてた。シャクナが女みたいに綺麗だったのも狙われた要因だろうけど、そのお綺麗な容姿が幸いして新聞記者に追っかけまわされて、先輩たちも手が出せなかった。
 シャクナの傍に居れば当然注目される。オレはそれを利用して知名度を上げさせてもらった。シャクナの心が折れない様、程よい距離を保ち周りから守ってやった。そこはギブ&テイク、お互い様だよな。
 お蔭で今やシャクナと共に押しも押されぬ第三歌劇団のトップスタァだ。

 と、こんな生い立ちのオレなので、初体験なんて母親よりも年上のオレのパトロンになってくれるっていう貴族夫人だった。最初から利害関係のセックスだ。
 その後も誘われれば誰彼構わずノったしノられたりもして、複数人で楽しんだこともある。
 それに対して別に何かを思ったことはない。

 病気なんてのも気にする必要なかった。貴族連中は高い薬や奇跡っていう一般人じゃ使えない方法をいくつも使えるから死ぬことはない。
 不潔なやつを相手にする時用のセックス薬だってそれはもう色々ある。家畜相手に開発された薬があるって聞けばお察しだろう?

 好きだの愛してるだの囁いたって、そんなのリップサービスだ。
 本気にする相手は面倒なので、二度と会わないことにした。

 こんなオレの価値観をいきなり砕いた奴がいた。
 セリスターニャ・ティアーネ。
 人ごみに紛れたら探し出せる気がしない、目立たない男だった。




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