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本編
⑪ キスしてもいい?
しおりを挟む「ララ、先に言っておくし、アリオンにも釘を刺されてると思うけど、天使を傷つけたら第三特務隊の過半数を敵に回すと思えよ」
「それ本当に耳にタコだ。んなことするわけないだろ。アリオン待ってるぞ、とっとと行け」
やっぱり天使って聞こえるけど、カーラナーサちゃんの事ではないことは判る。僕のあだ名?
首を傾げていれば少しかがんで僕に視線を合わせたオランジェさんが「今度、芝居について語り合おうね!」と笑顔で言って、手をぶんぶんと大きく振りながら帰っていった。
うん、やっぱり大型犬みたいだな。
「じゃあ、僕もこれで」
「!!!? 待て待て、どう考えてもここでセリが帰る流れじゃないだろ??」
「でも僕何も差し入れとかも持ってきてないし」
ライルさんが主演だって知っていれば花くらい買って来たのに。そんな僕の想いもお構いなしに、扉の中に引きずり込まれた。そこはいわゆる楽屋という部屋なんだろう。壁一面に鏡があって、机と椅子、衣装がいくつかかかっている。あと休憩用だろうソファーとローテーブルにお菓子と飲み物がのっているのが見えた。
「差し入れなんていらない。セリに会いたかった……」
扉を閉めればすぐに場所を入れ替える様にライルさんは扉を背にして、僕をぎゅっと抱きしめる。さらりと王子のマントが僕にもかかって来た。舞台上では月を隠す雲みたいだななんて、夜空は雲で月を隠して他の人に見せなくするんだな、とかロマンチックだなって思ったけど。
「えっと、ライルさん……じゃなくて、ララさん?」
「ライルでいい。ララは芸名でライルがオレの名前だから」
「え、ライルさんが本名なの??」
てっきり偽名を教えられたのかと思ってた。見上げればライルさんの男前な笑顔がある。
「ああ、セリはオレの事を……ララを知らなかったから、本当のオレを知って欲しかったんだ。ねぇ、キスしてもいい?」
いつもは勝手にしてくるのに、確認されるといいと答えにくい。
恋人の分隊長が居るのに浮気だって思ったのは僕の誤解だったけど、今のライルさんは王子様だしそのお相手はあの綺麗な人の方が似会う。
僕はライルさんから視線を部屋の衣装に向けた。
「駄目。したくない」
「嘘だな」
顎をくいっと掴まれて視線を合わせられる。
黒い綺麗な瞳が僕を写している。
僕の目にはかっこいいライルさんが写ってるかな。確認はできないけど、スイっと僕は視線をそらす。
「嘘じゃないです」
「嘘。本当だっていうならちゃんとオレを見て」
言われて視線をライルさんに戻すと、整った顔を寂しげに歪ませて僕を見ている。
僕はこの顔に弱いんだと思う。舞台の上でも似た顔を見たから演技なのかもしれないんだけど、舞台の上ではこの表情は僕には向けられていなかった。
だけど、今目の前にある。ライルさんは僕を求めてる。
「もう一度聞くよ。セリとキスしたい。していい?」
じっと見つめていれば、ライルさんの希望を叶えてあげたくなる。断れない。
「いいよ……んんっ!」
僕が答えればぐいっと身体を抱き寄せられて唇が重なった。
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