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本編
⑤ 当たり前のようにやってきた災難
しおりを挟む取れなかったチケットが手に入ると言う奇跡的な幸運に出会った翌日。当たり前のように不運がやってきた。
「お前が、セリスターニャ・ティアーネか?」
いつものように受付窓口の仕事をしていれば、警備隊の制服を着た二人組に声をかけられた。僕の上司である課長が二人の後ろに控えている。
「そうですが、なにか?」
僕が席から立ち上がり二人の前にたつ。スキンヘッドと髪の短い警備隊の二人組は、制服を着てなかったら怖い金貸しの取り立て屋にしか見えない。
「一緒に警備隊詰所まで来てもらおうか」
魔物の対応に特化している特務隊と異なり、警備隊は主に人間相手の犯罪に対応する。この声のかけられ方は僕が何かの犯罪に荷担していると思われているのか……。僕が二人の後ろにいる課長に視線を向ければ小さく頷かれたので、大人しく同行することに決めた。
心当たりがあると言えば身分証を悪用されたのかもってことなんだけど、ライルさんがちゃんと持っててくれたみたいだからそれはないと思う。
そうすると僕には警備隊に睨まれるような心当たりはないんだけど、何の用なんだろう。
警備隊詰所のほうが特務隊詰所よりも容疑者を収容する場所が必要な分建物が大きい。
その一角、狭い部屋に小さい窓がひとつ。机を挟んで一人がけの椅子に向かい合わせに座らされる。
特務隊にも似た部屋はある。所謂尋問室だ。
「聞かれたことだけ素直に答えろ」
そんな言葉から始まった聞き取り調査ははっきり言って不快だった。
聞かれたのは週末の行動だ。素直にライルさんを道で助けてレストランに行きホテルに泊まって翌日寮に戻ったことを話した。
肉体関係を持ったとかそういう細かいことは聞かれなかった、いや「何してたんだ」とは聞かれたけど、飲んで話してホテルでは眠ったと言えば納得されたというか、知りたい事はそういうことじゃないようなので細かく話さなくて済んだというのが正しい。
「いきなり出会ったばかりの男と最高級ホテルに泊まるなんてあるわけねぇだろ、本当の目的を話せ」「何の目的で近づいた」「随分と顕示欲が強いんだな」「全部バレてるんだぞ」等々。
これはあれだよな、予定した回答が出てくるまで繰り返し聞き続けるやつだ。最初から僕の話を聞く気がない。それにしても顕示欲なんて僕はどちらかと言えばない方なのに、何を根拠に話しているのか。
「全部わかっているなら僕に聞く必要ないでしょう? これはなんの調査なんですか?」
「お前が知る必要はない」
「開示しないで留め置くのは不当な拘束ではないんですか?」
僕はスキンヘッドの警備隊員をしっかり見据えて、できるだけ低い声でいう。
どうも僕の声は子どもっぽいのかこういうとき意識しないと軽く見られてしまうのだ。しかし僕のそんな態度が気に入らないのか、ばん!と机を叩いて威嚇してくる。
「お前は黙って聞かれたことだけに答えろ!」
僕はこれでもわりと温厚な方だと思う。思うけどこういう理不尽には耐えられない。
「今後は真偽判定書を使用しない限り、黙秘権を行使します」
「ああ??」
凄まれたって怖くない。
「僕も特務隊の末席に名を連ねています。拷問にも耐えられるように訓練はしてます。あまり馬鹿にしないでください」
挑発したら横っ面を張り倒された。
椅子ごと倒れて部屋の中に結構な音が響く。僕よりも扉を警護していた若い警備隊員の方が驚いていてちょっと申し訳なかった。
音を聞きつけた、多分スキンヘッドの警備隊員よりも上司だろうが慌てて部屋に入ってきて、そこでその日の尋問は終了になった。
通された独房はあんまり綺麗な部屋ではなくて、簡素なベッドは埃っぽかった。私服でなくて事務員制服で良かったな、なんて思ってしまう。
「結局、なんで僕は連れてこられたんだろう……?」
平手を食らって腫れた頬を撫でつつ首を傾げる。
僕がライルさんに何かの目的をもって近づいた、と疑われているような気はした。
もしかしてライルさんに何かあったのだろうか? 殺されていて、僕はその容疑者になっている、とか?
ずきりと胸が痛む。子供のような笑顔のライルさんを思い出して、いやいやと首を左右に振った。
いくら何でも突拍子がない。しかもライルさんを勝手に殺してしまった。ごめんなさい。思わず虚空に謝罪する。
判らないことを考えても意味はない。僕は早々に思考を諦めて寝ることにした。
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