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番外編・お風呂に入ろう
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しおりを挟むレーヴンはいつもよりきつく俺を抱きしめると、髪に顔をうずめてくる。俺はされるままに立ち尽くした。
通常なら俺よりもレーヴンの方が頭半分くらい背が高いが、俺がヒールを履いているのでほぼ身長は同じだ。
「悪い、そんなに不安になってると思ってなかった。いや、うん、ヴェルは行動と感情は切り離れてるって知ってたはずなんだけどな。いつも通りだから大丈夫だろうって、思い込んじまう」
「……っ!」
レーヴンはそういうと身体を離して俺の顔を覗き込む。
優しい笑顔がそこにあって、思わず息を飲むのと同時に横抱きに抱き上げられた。
そのままソファーに運ばれて、静かに下ろされる。
その横にレーヴンが座ると肩を抱き寄せられた。サロの村で教えてくれた話やすい体勢だ。
レーヴンの肩に寄りかかる。体が触れている部分から安心が俺の中に広がっていく気がする。
「ヴェルの周りは不埒な奴も多いみたいだけど、信頼できる人も多い。そういうのも探りたかったし、俺が子爵になるとか慣れないこと多すぎて、ちゃんとヴェルに気が回ってなかった。また辛い思いさせて……ごめん」
「……謝罪は要らない」
「うん、えーっと……なにから説明するかな。とりあえず俺はそんな簡単にヴェルと結婚させてもらえるとは思ってなかったから、あの時は納得できた。セダー王子も王が俺に会うまで認めない、と言っただけで会ったら認めるとは言ってないしな」
「あ……」
レーヴンは俺を抱き寄せると、こめかみにキスを落とす。
「俺がそれこそ最高位の冒険者だったら認めてくれたんだろうけど、そうじゃないし」
「そう、だけど……」
「セダー王子は俺とヴェルが一緒に居られるように考えてくれている。ただの冒険者が王宮に出入りなんてそう簡単に出来ないけど、爵位持ちの王宮騎士なら話は別だ。来月にはラビが新しく隊を作ることになってて、俺はそこに配属される」
「? ラヴァイン兄上が? 王宮にもどられるのか?」
「ああ。といっても外交用の部隊になるらしいから、国内待機はするけど任務中はほぼ海外だな。国内の警備任務よりも遠征するほうが手柄は立てやすいだろ? 俺が早く出世してヴェルと一緒に居られるよう、セダー王子が画策してラビが手伝ってくれるんだそうだ。俺達を……ヴェルを本当に大事に思っている人も王宮には多くて、安心したよ」
「ラヴァイン兄上と……一緒に……」
「ヴェル?」
ラヴァイン兄上のことは好きだ。尊敬もしている。
だけど、最近、もやりとする。
多分、これが嫉妬というものなのだろう。
「レーヴンはラヴァイン兄上とは湯浴みをするんだよな?」
「は? あ、ああ。入ったことあるな。といっても二人でじゃなくて大衆浴場でだけど……え、と、ヴェル? 顔が怖いけど?」
「ラヴァイン兄上に言われた。風呂に入って裸の付き合いをすれば仲も深まるから、レーヴンをあの湯殿に誘うといいって」
自分もそうやってレーヴンの信頼を得て、仲が良くなったと。
「ラヴァイン兄上とは良くて、なぜ俺だと駄目なんだ? 仲を深めたくないのか?」
「いやいやいや、ちょっとまて! まってヴェル、落ち着け、俺の上に乗るな!!!!!」
レーヴンにまた逃げられてはたまらないので、俺はレーヴンの太腿にまたがるようにソファーに乗り上げて向かい合った。
行儀が悪いが今は俺達しかいない。
足の上に座るのはさすがに悪いと思い、立ち膝で居るとレーヴンの顔を見下ろす形になる。
「レーヴンがいつも逃げるからだ。これなら逃げられないだろう?」
一気に真っ赤になったレーヴンの顔を見下ろしながら、俺は得意げに笑う。
いつまでも大人しく逃げられている俺ではない。
今までは何かを手に入れたいと思うことがほとんどなくて、俺の前から立ち去るものは見送るだけだった。
だけど、レーヴンは絶対に逃がしたくない。
「ううっ……ヴェルが自分のこと判ってなさ過ぎて怖い……っ」
レーヴンの言っている意味が解らなくて首を傾げる。
「? だから重たいだろうと思って座ってはいないだろう?」
「体重の話じゃないし! ヴェルが乗ったくらいじゃ重たくない。ああ……もう、ほんと、可愛いな」
レーヴンの手が俺の腰に触れ、足の上に座るように促してくれるので大人しく腰を下ろした。
レーヴンの緑の目が近くなる。
「しっかしラビの奴……余計なことをヴェルに教えて」
赤い顔のまま不味いものを食べたような顔をするレーヴンに、胸が苦しくなる。
俺と出会うよりも前から兄上達とレーヴンは知り合いで、特にラヴァイン兄上とは親密なのも聞いている。
「ラヴァイン兄上との仲を……秘密にしたかったのか?」
「え? いや、そっちじゃない。ヴェルに聞かれて困る様な関係じゃないし……あいつはヴェルに俺の前で裸になれって言ったのも同然なんだぞ、それって」
「…? 湯浴みをするんだからそうだな?」
俺が首をさらに傾げると、レーヴンが盛大に息を吐いた。
「まさか、とは思うけどヴェルは精通してないとかないよな?」
「せいつう?」
「あー……っと、子ども作る為に、えっと、男の股間が硬くなる、あれだ」
こういった話題はレーヴンは苦手なのだろう。以前俺を助けてくれた時、俺の下半身をグリムラフがレーヴンにも見ればと言ったのを嫌がっていたのを思い出す。
今も珍しく俺から視線を外して言葉を選んで説明している。
「ああ、精通か。している。俺を幾つだと思ってるんだ」
「えーっと、同じ歳だよな。その、だから、俺はヴェルの裸みたら……その、反応するんだよ」
「俺の裸をみるとレーヴンの股間が硬くなるのか?」
「――~~~~~~っ!!!! そんな純粋な顔でそういうこと言わないでくれ!!!」
「っひゃ!」
俺がレーヴンの言ったことをまとめたら、照れ隠しなのか思わずの反射なのかレーヴンが足を揺らした。
俺は尻を軽く蹴り上げられ、間抜けな声を出しバランスを崩して後ろに倒れかける。
倒れると思った時にはしっかりとレーヴンに背に手をまわされ支えられていた。
「悪いヴェル、大丈夫か?」
「あ、ああ……俺こそすまない。ありがとう。それで股間の話だったか」
「……妙なところに真面目なんだよな、ヴェルは」
「こういう俺は嫌いか?」
俺が聞けば、レーヴンは瞬いてから笑う。
「どっちかというと好き」
その言葉が嬉しくて、俺はレーヴンの唇に啄ばむように何度もキスをした。
その後、股間についての話を続けようとしたが、夕食の時間だとべリアンが呼びに来てくれて、結局うやむやなままこの話は終了した。
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