49 / 55
番外編(レーヴン視点)・君の笑顔が咲く場所を俺は永遠に守ると誓う
(7)救出
しおりを挟む「――……てめえええ!! エールック!!!!!!!!!!!!」
ルハルグ様の力に感謝した。
油断をしているというより、目の前のヴェルに夢中だったエールックを殺すなど造作もなかった。だけど俺がそれをせずに留まることができたのは、激しい感情を封じてもらったからだろう。
怒りは覚えるが、我を失う事はない。
ヴェルヘレックは俺に立ち止まるよう叫ぶ。それに気を良くしたのかエールックはヴェルの姿を俺に見せつけるようにした。
感情が制御できるから、ヴェルに拒絶されても俺は絶望しないですんだ。
手を拘束され、強引に下半身を弄られているのは確認をしなくても判る。それをヴェルが望んでいるとなぜそんな事を言えるのか。俺にはエールックの気持ちが、まったく判らない。
これでヴェルもエールックの非道さに気付いてくれただろう。
自分の置かれている危機に気付いてほしかった。だけど、こんな風に傷つけたかったわけじゃない。
まずはヴェルの安全を確保して……と二人の様子を伺っていればヴェルが抵抗を始めた。
指輪がどうとか騒いでいる。グリがあげたという仕掛け指輪のことだと俺は気付いた。
だから、ヴェルが抵抗しているのは仕掛け指輪からエールックを守ろうとしているからなのかと……驚愕した。
だけど、それがヴェルヘレックなんだ。
切り捨てる決断力がない、そう言ってしまえばそれまでだけど、たぶんそうじゃない。
ヴェルはなんでも許すんだ。許して自分が追いつめられても、それを誰のせいにもしない。
とても優しくて、潔くて、危うくて、弱いくせに強い。
エールックがこちらにヴェルから取り上げた指輪を投げて来た。
そんな上手く事が進むとは思ってなかったが、エールックは指輪に仕掛けられた罠にかかった。
白目をむいてエールックがヴェルに倒れ込む。ヴェルは小さな悲鳴を上げて覆いかぶさって来たエールックから逃れた。
ヴェルがエールックを拒絶したのを見て、俺は安堵した。エールックとの関係をヴェルが望んでいないと判って、嬉しかった。
自分勝手だと言われたっていい。それが俺がその時思ったことなんだから。
それからルハルグ様の力を再び借りてエールックを拘束し、怯えるヴェルを連れてグリたちの元へ戻った。
腕の中で泣きじゃくるヴェルを見て、俺はいろんな感情がごちゃ混ぜになった。
守り切れなかった申し訳なさや後悔、それに反して俺を頼って身を預けてくれたことに対する高揚感。
不安や辛い時だけしか、俺はヴェルを腕に抱いていない。
高望みだとは判っていたが、何事も無いときにこの腕の中にヴェルの熱と、花咲くような笑顔を感じたいと思った。
俺の代わりに王子として生きてきたこの少年が、愛しくてたまらなかった。
1
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。
だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。
全2話。
転移した異世界が無茶苦茶なのは、オレのせいではない!
どら焼き
ファンタジー
ありがとうございます。
おかげさまで、第一部無事終了しました。
これも、皆様が読んでくれたおかげです。
第二部は、ゆっくりな投稿頻度になると思われます。
不遇の生活を送っていた主人公が、ある日学校のクラスごと、異世界に強制召喚されてしまった。
しかもチートスキル無し!
生命維持用・基本・言語スキル無し!
そして、転移場所が地元の住民すら立ち入らないスーパーハードなモンスター地帯!
いきなり吐血から始まる、異世界生活!
何故か物理攻撃が効かない主人公は、生きるためなら何でも投げつけます!
たとえ、それがバナナでも!
ざまぁ要素はありますが、少し複雑です。
作者の初投稿作品です。拙い文章ですが、暖かく見守ってほしいいただけるとうれしいです。よろしくおねがいします。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
婚約破棄されて捨てられたけど感謝でいっぱい
青空一夏
恋愛
私、アグネスは次期皇后として皇太子と婚約していた。辛い勉強に日々、明け暮れるも、妹は遊びほうけているばかり。そんな妹を羨ましかった私に皇太子から婚約破棄の宣言がされた。理由は妹が妊娠したから!おまけに私にその妹を支えるために側妃になれと言う。いや、それってそちらに都合良すぎだから!逃れるために私がとった策とは‥‥
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる