偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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番外編(レーヴン視点)・君の笑顔が咲く場所を俺は永遠に守ると誓う

(5)罠

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「あれはなんだ、魔性って奴なのか……」

 俺がうなだれていればグリは楽しそうに小さな声で笑った。

「王子様、自分の魅力判ってないからね。オレみたいに武器にしないならホルフみたいに忍ばせないと、無駄な事故に巻き込まれちゃうよ」
「お前、それさりげなく自分が可愛いって言ってんのか?」
「やだ、レーヴンのえっちっ」
「……で、ロアがなんだって」

 可愛くしなを作ったグリは無視し、にこにこと俺達のやり取りを見ていたホルフに向き直る。
 川辺でヴェルとロアが遊んでおり、それをエールックが見ている。俺達三人は昼食の準備をしていた。

「ロアが竜の気配を感じると言っていました。近くにルハルグ様がいらっしゃるんだと思います」
「そんなことまでわかっちゃうんだ」
「ある一定の魔族は言葉以外でも意志の疎通が出来るみたいです。というか……できます。僕とロアは可能でした」
「え?? そうなの? ホルフ凄いじゃん!」
「僕がというよりロアが凄いんだと思いますよ」
「じゃあ、とりあえずヴェルとロアを一緒にしておけば、ロアがルハルグ様に助けを呼ぶこともできるってことか」
「おそらく。ヴェルヘレック王子は竜の加護者ですし、無下にはしないでしょう」
「それならとりあえず安心だね、エールックが仕掛けてくるならそろそろだと思うし」

 グリはエールックが俺達三人の誰か、あるいは全員をヴェルの前で殺すんじゃないかと言った。
 考えすぎじゃないか? と俺は思ったが、あの変態はそれくらいやるよ、とグリに言われれば警戒する必要はある。
 たしかに、俺達が死ぬのを見たヴェルの精神状態は相当ひどいものになるだろう。
 エールックからすれば邪魔者も消えるしヴェルが錯乱するのも見られる。一石二鳥だ。

 そんな話をしていた矢先、事態は動いた。

 グリとロアが川に流され、とっさにヴェルをそちらに向かわせる。
 戦闘に慣れていないというのも勿論あったが、グリの読み通りエールックが仕掛けたのだとしたらヴェルが居なくなれば俺とホルフの安全は確保されると判断した。
 ホルフが言うロアの能力を信じるなら、ヴェルの身も安全だ。

「おい!! レーヴン! どういうつもりだ。ヴェルヘレック様にもしものことが遭ったらお前はどう責任を取るつもりだ!!!!」

 虫を退治した直後、エールックに襟首をつかまれた。交戦中でなく終わってから詰め寄ってくるあたり、エールックのヴェルだけへの執念が見えて苦笑しそうになる。
 ヴェルが居なければ俺達は共闘仲間で、殺す価値は無いのだろう。交戦中なら後ろから襲う事も可能だったと思うがそれをしなかった。

 グリを虫に襲わせたのは間違いなくコイツだ。
 虫を引き寄せる罠用魔道具があるのは知っていたし、見たこともあった。だから何気なくそれを川に蹴り入れたエールックを見た時、確信に変わった。

 いっそここで殺してしまったほうがいいんじゃないか? グリを殺そうとしたんだ。当然の報いだろう。
 そう、沸々とした気持ちが湧いてくる。

 だけどこんな相手でも、死んだらヴェルが悲しむ。
 それが判ってるから、我慢するしかない。
 邪魔だからと手にかければ、それこそ目の前のこの男と同じだ。

「どうもこうもないし、俺だけで責任が取れる問題でもない。だけど、ヴェルもグリも弱くないしロアだっている。無事なはずだ」
「とにかく二人とも、虫よけはそんなに持ちません。移動しましょう」

 俺が怒りを抑えるため奥歯を噛んでエールックを睨むと、ホルフが何かを察したのだろう、すぐに間に入って取り成した。
 虫よけはエールックが所持していたものだ。用意周到、どれだけの魔道具をコイツは持っているんだか想像もつかなかった。

「エールックさん。ここはもう竜の渓谷の入り口です。ヴェルヘレック王子にもしもがあればルハルグ様が力を貸しくださいますよ。僕たちも先を急ぎませんか?」

 ルハルグ様の名前が効いたのか、エールックはその後は特に何も言う事もなく、黙々と竜の渓谷、ルハルグ様の住処を目指した。
 半日も経たず、俺達はヴェル達と合流したが、そこで俺は自分の人生を覆されるような事実を知ることになる。

 俺がまさか、王子だなんて……それはあり得ないだろう。

 自分では冷静なつもりでいたが、さすがにその事実に俺は判断力を失っていた。
 だからまた、エールックの企みに気付けなかった。
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