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番外編(レーヴン視点)・君の笑顔が咲く場所を俺は永遠に守ると誓う
(1)故郷
しおりを挟む雑踏の中、掲示板に張り出された仕事を物色する。
庭の草刈り、山中への薬草採取の護衛、湖の洞窟内の石の採取、盗賊の捕縛、商人の護衛……その他もろもろ。
仕事内容と報酬を見比べて、うーんと首をひねったところで知ってる声が聞こえた。
「おー! よかったレーヴン! いたいた!」
俺よりも10センチ位背が高く、濃い金髪に緑の瞳。パッと見どこかの芝居役者か? と思うほど顔もスタイルも良くて声もいい。おまけに腕も立つとなったら天は二物も三物もコイツに与えすぎだろ、と思ったとてバチもあたるまい。
「ラビ? 帰ってたんじゃないのか?」
俺に声をかけてきた男、ラビに視線を移せば問いかけた。
「帰ったよ。そんで戻って来た。レーヴンってさ、自分の親のことわかんないって言ってたよな?」
「なんだよ急に。孤児院で育ったけど?」
「よしよし、歳は15だな?」
「? ああ」
「ついでに出身はどこだ?」
「なにがついでなのか全くわかんないけど、アグリスタだ」
「……~~っ!!!! よっしゃ!!!」
俺が答えるとラビは両手を握りしめて天に突き上げている。いわゆる勝利のポーズとか言われるやつだ。
「なにやってんの、お前?」
「オレの運の良さに感謝してる! さすがオレ!!」
「あー……はいはい、すごいすごい」
「そんなわけでレーヴン、キルクハルグに帰るぞ! ついでだから仕事してくか、あ、この商団キルクハルグ行きだな、お、ちょうど二人までっと。よしこの護衛しながら帰るぞ!」
「は? 何勝手に…」
「荷物全部もってこいよー!」
そういうとラビは勝手に仕事を受けて、半ば強引に俺を引きずり生まれ故郷のキルクハルグ竜王国へ向かった。
ラビと知り合ったのはキルクハルグに隣接する国ヨーシャーレンの冒険者ギルドだ。
俺は生まれ故郷のキルクハルグで冒険者の共通ランクを上げられるだけあげて、隣の国に移動した。というのも一国で上げられるランクの上限は決まっており、数国渡り歩かないとランクアップが出来ない決まりがあるからだ。
そんな制約はあるが、冒険者ギルドの共通ランクはどの国でも使える免許でもあり信頼される身分証明書になる。だから多少面倒であっても仕方ない。
俺は孤児院育ちで身分がない。それに対して引け目などは特にないが、自分を証明できる物があるというのはなんとなく嬉しかった。
「で、俺はなんで拉致られてんですかね? ラビさん」
俺は荷馬車の中で隣に座るラビに聞く。
ラビとは一年ちょっとの付き合いだ。俺がヨーシャーレンに来た14歳の時に知り合った。ラビは俺よりもランクが上だったが、今より全然背も小さくて役に立たなさそうだった俺と組んでくれて、依頼をこなしてくれた。
おかげで15歳で他国に行かなければ習得できない共通ランクの一番下、シルバーランクを習得する事が出来た。
ヨーシャーレンはキルクハルグよりも大きい国だが、その国でも15歳でシルバーの者は多くなく、認定された時はその場にいた冒険者たちに祝ってもらった。
「そいや言ってなかったな。仕事を依頼したいんだ」
「仕事? ラビが?」
「うーん、オレっていえばオレだけど、依頼主はうちの兄貴」
「ラビ、兄貴いたのか? 弟と妹しかいないのかと思ってた」
ラビは良く家族にお土産を買っていた。
特に甘やかしすぎだろというくらい大切な弟がいるらしく、他の兄弟よりも高額な魔法書などを選んでいた記憶がある。あとこの弟を可愛いとか天使だとか笑顔が花が咲くようだとか、それ男に対する表現なのか?? という美辞麗句で説明されたこともあった。
「一人だけ兄貴がいる。あとは弟と妹で今何人だったっけな…オレ入れて七人かな」
「兄弟多いんだな」
「んー、そうだな。お前のとこほどじゃないけど」
「俺のは本当の兄弟じゃないっての。で、仕事って?」
「えっとそれは、仕事受けてもらってからじゃないと話せない」
「は? 何も聞かないで判断しろっての?」
「そこはほら、オレとレーヴンの仲じゃん。とりあえず兄貴に会ってよ!」
確かにラビには多少の恩はある。キルクハルグに来てしまったし、ラビの顔を立てるためにもラビの兄貴に会うだけは会うか、と軽く考えた俺が甘かった。
「ラヴァインから話は聞いているよ、弟がお世話になっているね」
そういって目の前で握手を求めてくる赤髪の美丈夫を知らないキルクハルグ国民は居ないだろう。
それだけ知名度のある人が目の前にいる。
俺は混乱しつつも、身体は勝手に差し出された手を握り返し、握手をしていた。
キルクハルグにつけば仕事の終了を冒険者ギルドに報告して、そのままギルドの応接室へ通された。
応接室を使ったことは何度があったが、いつも使う部屋ではなく豪華な応接室に通された。いわゆる貴族用の部屋だ。
あー……なんとなくそんな気はしていたが、やっぱりラビは貴族なのかと覚悟はしたが。
「ラ、ヴァイン?」
俺は歪んだ荷車の車輪のように、ぎぎぎっと変な音を立てそうな動きで隣に立つラビを見る。
「あっはははーっ」
「もしかしてと思うがラヴァイン、彼に自分のことを伝えてないのか?」
「伝えるわけねぇだろ」
あっさり言うラビに、目の前の赤毛の美丈夫、この国の次期国王になるセダー第一王子がため息をついた。
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