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本編
(42)帰国
しおりを挟む俺達は兄上達と同時に出立したが、サロの村を経由して帰国することにした。
ルハルグ様がしばし不在になるし、村長に報告も兼ねてとロアも俺達に同行した。そしてサロの村からは、サロの兄、人熊族のキハロも同行してくれることになった。
キハロはレーヴンよりも頭一つ背が高くがっしりとした体型で、その見た目通り力持ちだった。そしてどちらかと言えば強面だったが、性格はその風貌と違いとても穏やかで優しかった。
そんなキハロが同行したのには理由があって、ホルフがキルクハルグの国境まで俺達に同行した後、サロの村に戻ることにしたからだ。
「レーヴンを見ていたら、僕も自分の出生とか、どの種族の血縁なのか調べてみたいと思いまして。あの村を拠点に暫く活動します」
と、ホルフはなぜか照れながら笑い、伝えてくれた。
その横ではキハロが幸せそうに微笑んでいたし、ロアも大喜びでホルフに抱き付いていた。
ホルフならきっと大丈夫だろう。またキルクハルグに戻ったら王宮にきてくれと伝えると、その前に結婚式には必ず伺います、と笑顔で言われた。
ホルフ達と別れ、キルクハルグ国内に入れば、父上が用意してくださった馬車が待っていた。それに一番先に乗り込んだのがグリムラフだったので、御者や護衛の王宮騎士から怒られていた。
その様子が本当に可笑しくて、声を出して笑っていたら、御者が泣いていた。
な、何か俺は悲しませることをしてしまったのだろうか? と、俺は声をかけようとしたら、レーヴンに肩を抱き寄せられ、半ば強引に馬車に乗せられる。
それを見たグリムラフが声を出して大笑いしていた。
王宮に向かう途中、冒険者ギルドの近くでグリムラフとは別れた。
「またねー!」と今までの毎日と変わらない様子で立ち去っていくグリムラフに笑顔を返して見送る。
グリムラフは今回の報酬を元手に他国に行って、共通ランクのアップを目指すのだそうだ。戻ったら王子様のとこに遊びに行くね、というので土産話を持ってきてくれるよう頼んだ。
グリムラフが降りた馬車の中でレーヴンと二人っきりになれば、席を移動してレーヴンの隣に座る。
ぺたっとレーヴンに身体を寄せて寄りかかれば、寄りかかった身体がこわばっていた。
「緊張してるのか?」
「そりゃするだろ……国王に会うんだぞ。キルクハルグ王だぞ、ある意味冒険者の中じゃ伝説の人だ」
「父上が?」
「ああ。幾つも未踏域と言われていた地下ダンジョンや山岳を制覇してる。竜の加護を使ったから出来たって噂もあるけど、それにしたってすごいんだ」
父上が王として堅実に国を治めていることは知っていたが、それ以外にもすごいことをしている人だとは知らなかった。
「……それに、こんな風に」
「こんな風に?」
レーヴンを見上げればいつの間にか顔が真っ赤だ。良く見えればちょこんと髪の毛が跳ねている。
俺は手を伸ばしてレーヴンの髪の毛を撫でた。しかしそれはひょこんっとすぐに立ち直る。なかなかしっかり癖がついているようだ。
「ヴェ、ヴェル?? なにして……」
俺が身体を伸ばして髪を弄ってるからか、レーヴンが馬車の揺れで俺が体勢を崩さないように腰を抱いてくれた。
「髪の毛、寝癖がついている。王宮にいったら着替えと身なりを整えないとだな」
そもそもこんな埃だらけの恰好ではさすがに父上に会うどころか、王宮内も歩けない。
今までは自分が着飾られるだけだったが、好きな相手を着飾るというのは、想像するだけでこんなに楽しいものなのかと初めて知った。レーヴンが礼服を身に着けた姿を想像すれば、今からドキドキと胸が高鳴る。
父上が侍女が何人もつかなければ着られない服を、母上や俺に着せる理由がわかった気がした。
俺達は話しあった結果、俺が「第四王子」のままでいることに決めた。
レーヴンは王子という立場に興味がなかったし、色々な手続きや、母上や父上の立場を考えるとそれがいいように思えたのだ。俺は幸いにも母上に似ているから、母上の子でないとは誰も思わないだろう。
だけどレーヴンも父上と母上の息子になる。
俺達は結婚することにしたのだ。お互い思い合っているのだから、これは自然なことだろう。
ただ、結婚についてはレーヴンに会うまで認めないと父上は仰った。レーヴンの意志を尊重するのでは? と不思議に思ったが、レーヴンもセダー兄上達も納得していた。
俺は、結婚できなければレーヴンが王宮で過ごせなくなってしまうのではと不安に思った。そんな俺にセダー兄上が「大丈夫だよ」と言ってくださったので、もしもの場合は兄上のお力とお知恵を借りようと思う。
レーヴンと母上達が会うのももちろん嬉しいが、今こうして、いやこれからも、隣にレーヴンが居ると言う事が俺は何よりも嬉しかった。
がちがちに硬直して真っ赤な顔のレーヴンを見れば幸せな気持ちになる。とてもかっこいいのに、こういう時はとても可愛い。
「……っ! ヴェル、頼むからそんなくっつくな、しかもそんな顔で見上げないでくれ……」
「? でもグリムラフもマフノリア様も、出来るだけ触れあっている方が気持ちもつながると言っていたし、嫌なのか? ……俺の顔は嫌いか?」
「いやいやいや、そうじゃなくて! くそ、グリムラフ覚えてろよ」
そう、グリムラフとマフノリア様から、好きな相手に好きって思ってもらうには触れ合いが大事だ、と教えてもらった。
もちろんレーヴンが俺を好きだと言ってくれた言葉を信じている。
だけどもしかしたら俺の立場を考えて、自分を犠牲にしているのではないかという疑心は拭えないのだ。王宮に来たくないかもしれない。
そのことをグリムラフに相談してみたら「それなら王子様から離れられないように惚れさせればいいよ」とあっさり言われた。
確かにその通りだと俺は納得し、日々頑張っている。
「レーヴン」
名前を呼んで、瞳を閉じる。レーヴンとの身長差があるからちょっと上を向く。
すればやや躊躇ったように手を握られて、柔らかくて暖かいレーヴンの唇が俺の唇に触れる。俺からも触れるように何度もレーヴンの唇に唇を寄せた。
腰を抱き寄せられ、俺の肩にレーヴンの額が乗る。
「ほんと、勘弁してくれ……」
「何を言っている。これから結婚しても後悔しないよう、毎日愛し合おう」
弱気のレーヴンを抱きしめて、背中をやんわり撫でる。
「……あー、もう、だから言い方……ほんとに、ヴェルが後悔しても知らないからな」
「だからしないように、こうしているんだろう」
「駄目だ、無自覚に何を言っても無駄だった……」
「? ちゃんと判るように話してくれれば、その、理解するよう努力する」
ため息交じりで言うレーヴンに嫌われたくなくて、俺は抱きしめながら慌てて答えた。
だけどレーヴンからは深いため息が漏れただけだった。
その後もずっと、俺はレーヴンとの関係を後悔することはなかった。
大好きなレーヴンの腕の中は、ぐっすりと眠る時も、そうでない時も、とても心地よかった。
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