39 / 55
本編
(39)家族
しおりを挟む「王の座なんて要りません。俺が欲しいのはヴェルヘレックです」
隣に座るレーヴンに思わず振り返る。
レーヴンの顔はひどく真面目で、冗談などではないようだが、何を言い出しているんだろうか。
「ヴェルは物じゃない」
明らかな不快感をのせて、セダー兄上が低い声で言い放つ。その兄上の返事にレーヴンは席を立つと、ばんっとテーブルに手をついた。
「そんな事は判ってる! もちろんこれは、ヴェルがいいって言わなければ成立しないけど……っ!」
「待てレーヴン、お前急に何を言ってるんだ?」
兄上だけでなくマフノリア様からのレーヴンへ対する視線も冷たくなった。それをどうにかしたくて俺は思わず声をかける。
「グリに、ヴェルが竜の加護についてルハルグ様と話していた内容を聞いた。キルクハルグの王族として生きたいって、言ってたって」
「あ、ああ。それはそうだが、俺は王の子じゃない。俺の考えが浅はかで、竜の加護を受ければ王族になれると思ってただけで無謀な願いだ」
「いや、だからさ、俺と結婚すれば王族になれるだろ?」
「……は?」
「俺、孤児だからかもしれないけど、結婚したら奥さんだけじゃなくて親も出来るし、自分も親になるのかって、すごく家族ってのに夢見てた時期があってさ、それを思い出した。俺と結婚すれば王様だって義理だけどヴェルの親になるだろ? セダー王子だって兄貴のままだ」
「それは……そうだが」
立ったまま、俺の方に向き直りレーヴンが真面目な顔で言う。俺を見つめる緑の瞳に、とくんと心臓が鳴る。
レーヴンの言っていることは、凄く名案に聞こえるが。
「駄目だレーヴン」
「どうして? 俺だと……その、好きになれなさそうってことか?」
まっすぐこちらを見ているのは変わらないが、先ほどまでどこか自信ありげに提案していたのに、今は少し声が小さくなって表情が曇っている。
困った時に眉が寄るのは癖なんだろうな。
「そうじゃない、レーヴンに抱いてもらうと安心するし、俺にとってはこの上なくありがたい申し出だ。だけど、俺はお前を16年間、王宮の外に追いやり、自分が成り代わっていたという罪がある。それは償わないといけない」
「待てって、マフノリア落ち着け!」
俺がレーヴンに説明していると、兄上の声が聞こえた。
何事かと正面を向けばマフノリア様が立ち上がり剣に手をかけている。
な、なぜだ?
「おい、小僧。お前……ヴェルに手を出したのか? 殺すぞ」
「落ち着け、マフノリア! レーヴンはそういう奴じゃない!!」
美人が怒ると部屋の温度まで下がるんじゃないか? ってくらい背筋が凍る。セダー兄上がマフノリア様を押しとどめているが怒りは収まりそうもない。
「マフノリア様……え、あの、なにが……」
「あっ、ああああ! 違います! ヴェルの言った「抱いて」っていうのは添い寝のことで!」
わけがわからず混乱する俺の横で、レーヴンが慌てて説明をする。
「添い、寝……だと?」
「? はい。一時期眠れなくて、レーヴンに毛布の上から抱きしめて寝てもらったんですけど……問題が、あったんでしょうか?」
俺が詳しく説明をするとマフノリア様は落ち着いたのか、剣から手を離して腰に抱き付いていたセダー兄上の肩をそっと叩いている。
セダー兄上はその様子にほっと一息つくと、席に座り直した。
「そう、ならいいよ。話を続けて」
にこっと美しくマフノリア様は微笑まれ、静かに座られる。俺だけじゃなくて、多分レーヴンもセダー兄上も時が止まっている。
「えっと……何の話をしてたんだっけな」
「俺が一応、ヴェルを口説いてたんですけど……」
「え? 俺が口説かれてたのか?」
レーヴンも大人しく席に座る。その顔は真っ赤だ。
そ、そうか。俺は今、レーヴンから口説かれていたのか。そうだったのか、と噛みしめれば、なんだか俺もつられて顔が赤くなってきている気がする。
「結婚するとかしないとかは、まず二人で決めてくれ。父上はレーヴンが王子としての名乗りを上げないのであれば、そのままヴェルが第四王子を名乗ればいいと仰っていたし」
兄上がそんな俺達二人を、薄い目で見ながらつぶやく。絶対に呆れている。
だけどそんな兄上の言葉にどうしても気になったことがあった。
「……そのまま俺が王子を名乗るって、あの、それはさすがに」
「父上はお前が自分の子でない可能性を知っていたんだよ。その上でお前を王子として認め、育てていた」
兄上から聞かされた話は、俺が想像もしていなかったことだった。
12
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
霧のはし 虹のたもとで
萩尾雅縁
BL
大学受験に失敗した比良坂晃(ひらさかあきら)は、心機一転イギリスの大学へと留学する。
古ぼけた学生寮に嫌気のさした晃は、掲示板のメモからシェアハウスのルームメイトに応募するが……。
ひょんなことから始まった、晃・アルビー・マリーの共同生活。
美貌のアルビーに憧れる晃は、生活に無頓着な彼らに振り回されながらも奮闘する。
一つ屋根の下、徐々に明らかになる彼らの事情。
そして晃の真の目的は?
英国の四季を通じて織り成される、日常系心の旅路。
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる