偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(33)裏切り・3

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 身体をねじり、どうにか逃れようともがくが、ベルトを掴まれ引き戻される。そしてそのままベルトを外された。

「エールック……なんでこんなこと……を」

 気持ちが悪い、だけどこの前と違って俺は言葉を発せられる。
 相手はしかもエールックだ。こんな状態でも俺はエールックが俺の言葉を聞いてくれると信じている。いや、信じたい。

 ただ今は傷つけてしまって、エールックの怒りが収まらないだけなんだ。俺に少し嫌がらせをしているだけだ。そうだ、きっとそうだ。
 
 あんなに優しかった、王子でない俺のことを認めてくれたエールックが、こんな……。

「何度も申し上げています。私の子を貴方が産むんです。だから竜の加護を欲しいと言ってくださっていたのでしょう?」
「そんな、わけがあるか」

 俺は思わず冷たく言い返す。どんな顔をしたらいいのかわからない。
 冷静に言ったのがよかったのか、正気に戻ってくれたのか、耳から顔が離れた。

「ああ、ああ、そうです。その瞳、その言い方! でもそうじゃないんですよ。痛みに耐え、苦悶に歪み、それでも私を求めた、貴方はその姿が一番、素敵です」

 うっとりと俺を見下ろし、言う男の、言葉の意味が、理解できない。

 ぼう然と見上げる俺に、なぜか気分を良くしたのかエールックはそれはもう幸せそうに微笑んだ。
 ああ、そうだ、この顔は知っている、剣の稽古をしてもらってた時、俺がエールックに勝つことが出来ず、何度も挑んでた時に見た顔。

 諦めずに剣を握る俺を、優しく見守ってくれた。
 だから、何度腹や背に剣を受けようが、酷い打ち身になろうが、立ち向かえた。
 そう、思っていたのに。

「エールック……お前を裏切って……本当にすまない。許してくれ」
「……ええ、そうですね。貴方の為に私は騎士の名誉も捨ててきました。加護のない貴方は子どもも産めない、惨めで下賤な……ああ、いえユアーナ様にこれだけ似ておられるのだから、ご実家の血縁なのでしょう。だが王家や我がシュタイン家に比べれば平民も同じ、大丈夫です、私がずっと愛して差し上げます」

 ずっと傍に居てくれた、優しいエールックの笑顔は、なんだったのだろう。
 今、目の前にいる興奮で息を荒げているこの男も、同じ顔をしている。

「お前に愛されれば……許してくれるのか?」
「なんと、ヴェルヘレック様は私に愛されたいと。勿論です! 貴方が私のモノになってくださるならあの冒険者たちも無傷でキルクハルグに帰らせましょう!」
「無傷……?」
「そうです、この間はグリムラフを殺すのに失敗しましたが、今度はあの家ごと助からないよう罠を仕掛けてきました」
「!! 竜の渓谷に来るときの……あの虫」
「ええ、あの子どもは邪魔するし、貴方まで川に身を投げるし、上手くいきませんでしたけどね。今度は大丈夫です」
「そんなことは……」
「ヴェルヘレック様が気にされる事はないんですよ、だってもう王子じゃない貴方のことなんてあいつらは追ってもこないじゃないですか」

 彼らへの非道をやめさせようと思った。だけど、エールックの言葉に俺は動きを止めてしまう。

「そもそも第四王子など名ばかりで、誰も貴方のことなんて必要としていなかった。だから王宮騎士が、いま、ここに、一人も! いないじゃないですか!! ああ、でもご安心ください、このエールックがお傍におります。私だけが貴方を愛しています」 

 ここに王宮騎士が居ないのは俺が同行を許さなかったからで、父上達は冒険者の力量を買っていたからで。だから、俺が軽視されていたわけでは、ない。

 そう、理解しているのは、俺だけ……だったのか?
 だって、信じたエールックですら、こう、なのだから。

 エールックの手が頬をなでる。ぞわっと全身に鳥肌が立った。

「ああ、その表情の消えたお顔のなんと美しいことか! さあ今すぐもっと愛して差し上げます!!」

 俺の様子に満足げにエールックは微笑むと、俺の下半身に身体を移動させる。そして俺の衣服を脱がし始めた。
 腰を浮かせられ、ズボンや下着をはぎ取られる。それらは足首まで下ろされ足枷の代わりにでもするつもりなのだろう。それを掴みながら俺の胸元に押し付けるようにする。

 自然と膝を曲げて足を広げ、尻の穴もペニスもエールックにさらけ出す形になった。

 そんな無様な格好にされても、俺はもう、何も感じなかった。

「ああ……なんと、そそる……ああ、美しい。ヴェルヘレック様!!」
「……ぅっ!」

 あの時は感じなかった足を掴まれる汗ばんだ手の感触や、鼻息だろうか、熱い風を感じて身震いがする。そしてエールックはもはやおかしいのだろう、俺の尻穴をレロレロと舐め始めた。

 気持ちが悪い。見ていられずに顔をそむける。
 相手の動きを見ていないためか、余計に生暖かくヌメヌメとした寒気のする感触を肌に感じる。今まで感じたことのない場所への熱と刺激に足を閉じようとするが、それが叶うはずもない。

 両足首をエールックに力強く掴まれるとさらに足を折りたたまれ、みっともなく尻をエールックにさらけ出した。

「……ひっ…ぃっ」

 尻の穴に舌が差し込まれたと思えばその周りも執拗に舐められる。続けて玉やペニスも口に含まれねちょねちょねちょねちょと舐めあげられた。

 ――… きもちわるい、こわい、いやだ。

 荒い呼吸の合間に名前を何度も呼ばれ、耳を塞ぎたい。こわい。

 この後に及んで、助けてほしい、なんて思ってしまい、涙があふれる。

 彼のことを思えば、先ほどのエールックの言葉を思い出した。
 王子でなくなった俺など、誰も追ってこない。それはつまり、誰も助けになどこないのだと。

 あの時のように、サロ達を助けた時のように、何も感じなければいい。そう思うのに、上手くできない。
 だってあの時はレーヴン達が助けに来てくれた。それを、期待してしまう。

 恐怖と気持ち悪さと、それらすべてが身体に渦巻くようで、小刻みに体が震える。
 カチカチと硬いものを打ち合わせるような音が聞こえると思ったが、俺の歯が震えで打ち合されている音だと気づく。気持ちの悪い水音や荒い呼吸音よりは、それの方が何倍もマシだと思った。

「……っ!!!」

 抵抗する気持ちも奪われ、されるままにしていれば、ペニスを口に含まれたまま尻穴を撫でていた指がつぷっと体の中に入って来た。
 ぐにぐにと動かれ、それが不快で、気持ち悪くて、動きを止めようと力が入ってしまう。

「ふふ、そうやって咥えこんで……なんて淫乱なんでしょう。そんなに私の指がいいんですか。ああ、でもすぐにもっとイイものを挿れて差し上げます」

 ハァハァと犬のような荒い息を吐きながらエールックが言う。
 さすがに閨の知識が全くないわけじゃない。俺はエールックの物をここに受け入れるのかと、どこか他人事のように思った。

 その時だった。

「――……てめえええ!! エールック!!!!!!!!!!!!」

 地を這うような怒声が花畑を震わせた。
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