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本編
(22)竜の渓谷・1
しおりを挟む俺達はサロの村を出てから一週間後には、竜の渓谷付近に到着していた。
俺の右足は次第によくなり今はもう痛みを感じない。眠ることについてもとりあえず全く眠れない、という事はなかった。
ただ、レーヴンをずっと俺が拘束するのは問題があったらしく、四日目にホルフからロアと一緒に寝てみてはどうか? と提案された。
ロアというのは俺達が助けた妖精族の子どもの名前だ。名前がないと不便だろうと村長たちと協議し名前を付けることにしたのだ。
そう、ロアは俺達と同行していた。
子どもを連れていくのは……と俺は不安に思ったが、あの村ではロアのことを調べきれず、竜のお力を借りれば親元に戻せるのではないか、という話になった。
竜の加護を受けられない俺の話をルハルグ様が聞いてくださるか判らなかったが、俺はその場で何も言う事は出来なかった。
妖精族の子どもというのは成長が俺達とは違うのか、会った時は言葉を話せなかったのに今は片言だが俺達と話すことが出来た。それに魔法も自然と使えるのか、俺とホルフが教えるとすぐ覚えたし、俺達が知らない魔法を知っていた。
俺もホルフと共に魔法を教えたり教わったりしたためか、ロアに懐かれた。
そんなわけでホルフの提案通り、俺はロアに添い寝をしてもらう事になった。
しかし、俺はどうも魔法を学ぶのが好きだったらしい。
ロアと一緒に横になって、魔法のこととか話し出すと眠るのを忘れてロアの言葉をメモしたり、そこから新たな魔法を作れないかと思考してしまった。
これにはエールックだけでなく、レーヴンにも怒られた。
山道でなく街道を選んだおかげか、魔族との交戦もなく今は渓谷に続く川を上流に向かって進んでいる。獣人狩りと交戦した川よりもだいぶ深く、流れも速かった。
先頭にはエールックとレーヴン。その後ろにグリムラフと俺、最後尾にロアとホルフが並んで歩いている。川原に出た時、俺が顔をしかめたのをグリムラフは気付いたようで、さりげなく自分が川側を歩いてくれている。本当にグリムラフは周りをよく見ているし気が利くんだな、と思った。
もう少しで竜の渓谷に入るという時だった。
「あ、しくじった」
俺の横を歩くグリムラフが、ぽつり、と低い声で言った。
その瞬間、地面が揺れた。
「な、なにが?」
「ロア!?」
俺が思わず声を上げるとほぼ同時に、ホルフの声と水に何かが落ちる音が響く。
俺がそちらを見ればロアとグリムラフが川に落ちていた。
いや、正確には川に落ちているのはグリムラフだけで、その頭を水面に押し付けるようにしているロアは、川の上を浮遊していた。
そして、川を流れる二人を見る俺の目の前、さっきまでグリムラフが居た位置に地中からズボッと鈍い音を発しながら柱が突き出してきた。
いや、柱じゃなくて、円柱のヌメヌメした生き物、だ。
俺の身長の三倍位の高さに地中から突き出れば、頂点に触手だか歯だかが生えているんだろう、うにょうにょうごめく影が見て取れた。
「ホルフ!!!壁を!」
「<我は乞う! 風と大地の精霊、自然の驚異を防ぐ壁となれ! 魔法壁!>」
呆気に囚われて見上げていたが、俺の腹にまわったレーヴンの腕によって俺は後方に下がる。それに一瞬遅れて、俺の目の前に魔法も物理も反射する魔法の壁が出現した。
地中から突き出た生き物は魔法壁に身体をこすりつけながら、先ほどまで俺の居た地面に激突しそのまま地中に潜った。
「ヴェル、ここは俺達がどうにかするからグリとロアを追ってくれ!」
俺は急展開についていけずぼう然としていたが、レーヴンに背中を叩かれて我に返る。
「あ、ああ、わかった」
「王子! あの虫は水の中には来ません、水中へ!!」
「なっ……お待ちくださいヴェルヘレック様!」
「エールックくるぞ!!」
俺が返事をすれば、ホルフが叫ぶ。
水中へ? 川に飛び込めばいいのか?
俺は指示通りに川に飛び込もうと走る。
その後ろで再びあの生き物が地中から飛び出て来た気配がしたが、俺は振り向かずに肉体強化の魔法を自分にかけると川に飛び込んだ。
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