偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(19)やすらぎ

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 竜の加護を得るために強くなろうと思ったとき、俺は悩まず剣を学ぼうと思った。

 理由は簡単だ。剣を自分の身体のように自在に扱うセダー兄上や、王宮騎士たちが俺にとっては「強さ」の象徴だったからだ。

 その裏に、どんな恐怖や責任があるのかなんて、今まで気付いていなかった。
 死を目の前にしたら恐怖する、それすらも俺は理解も想定もしていなかった。
 王宮で俺は本当に大事に育ててもらっていたんだと思う。

 指示を出し決断をすることも、俺は王子として当たり前に行う事だと思っていた。
 さすがにその場で生死の判断をする時は判るが、決断した物事の先で、人の生死が関わる可能性があることを考えたことがなかった。

 魔族の討伐をする時、王宮では俺達王族の決断が優先される。実行する騎士たちは俺達の決断に従ったという大義名分で自分の心を守るのだろう。意にそぐわなくても命令だ、逆らえないから仕方なかったと。
 そして俺達は直接手を下さないから実感がない。とても安泰だ。だから残酷な命令や決断ができる。
 多くの者はそうやって心との折り合いをつけて、剣を握っているのだろうと納得した。

 冒険者すべてがそうかはわからないが、少なくともレーヴン達は、決断する責任も実行する責任もメンバー全員で平等に分担しているのだろう。実際はレーヴンが決断をしているように見えたが、グリムラフもホルフも決定をレーヴン一人の責任とはしていない。王族として育った俺には持ちえない感覚だった。

 この旅において、レーヴンは俺に王族ではなく旅の仲間の一人として参加すればいいと、教えてくれたのだと思う。
 本物の王子でない俺には、なんともありがたい申し出だと思うのは自嘲だろうか。

 だけどレーヴンのその態度に、このまま他国に行って冒険者として生きるのもいいかもしれないと思えるほど、俺の心が救われていたのは確かだった。


 目が覚めると俺は一人でベッドに寝ていた。ちなみに昼前に寝たはずなのに夜中だった。
 ベッドの横の椅子にレーヴンは座っていて、地図を広げてなにやら唸っていたが、俺が目を覚ますとすぐに気付いてくれて準備してあった軽食を勧めてきた。
 眠れなかったのが嘘のように爆睡していたのか、レーヴンが離れたのも気付かなかった。ちなみに彼の寝癖は直っていたので、この部屋を出ていた時もあったのだろう。

 俺は起き上ると、今後の進路などをレーヴンと打ち合わせした。なんでも村長から山を越えずにこのまま村の街道を行き、竜の渓谷へ向かうルートもあると教えてもらったそうだ。三日位多く時間がかかるが、その方が平野を行けるので俺の足の負担にならないのではないかと提案された。
 俺はどちらがいいのだろうかと、山道や森の中を歩くことを想像してみたら、ぞくりと背筋が冷える感覚に襲われた。それを見たレーヴンが「街道を行こう。今無理する必要はない」と安心させるように微笑んでくれた。
 眠れない症状も意識すると焦ってしまうから、気にしない方がいいと言われた。誰かが傍に居て眠れるならそれで対応すればいいと。大したことでもないように言うレーヴンに、俺はとても安堵していた。

 その後、寝るまで傍に居てくれると言ったが俺はすぐには眠れず、なんとはなしにレーヴンの小さい頃の話を聞いた。
 母上の故郷では母上が王妃になられたこともあって、国営施設は資金が潤沢に貰えていたんだそうだ。なのでレーヴン達の孤児院も四季折々の祭りも祝えたし、服も一人三着持っていた、と嬉しそうに話してくれた。
 俺は服を何着もっていたか……気にした事がなかった。どう反応したものかと思ったが、いつもの無表情のまま「そうか」と返すことしかできなかった。

 俺は話を聞いていただけだったが眠れなかったので、試しにレーヴンに「一緒に寝てくれ」と依頼した。
 このままだとレーヴンも寝ないで朝になってしまう。それはよくない。
 なんだか複雑そうな顔をされたので「レーヴンが抱いてくれたら眠れると思う。試してほしい」と言ったら、何故かレーヴンは真っ赤な顔になって、テントの時のように毛布の上から俺を抱きしめて寝かしつけてくれた。

 驚くことに、これで俺は眠る事が出来た。
 レーヴンの身体からは、こう、眠くなる成分でも出てるんじゃないだろうか。
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