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本編
(16)手を握って・1
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俺は部屋に戻りベッドに腰を掛けるとため息をついた。
そしてそのままベッドに身体を倒したが、胸の上に何か乗ってるような感覚がして飛び起きる。
もちろん胸に何も乗っていない。あの時叩かれた胸部と蹴られた腹部に痣は残っているが……それのせいでこんな感覚に襲われているのだろうか。
ふとその可能性に思い至り、シャツのボタンを外せば前を開けて、治癒魔法を施すことにした。
そのタイミングでノックの音と、レーヴンの声がしたので入るように促す。
「失礼す……って、着替え中か? それなら出直してくる」
ドアを開けて中に入って来たレーヴンが慌てたように、回れ右をして出て行こうとする。
着替えは王宮では使用人が手伝ってくれていたから、他人に肌を見られることに抵抗はない。むしろ相手が不快に思うかどうかを俺は気にするべきだろう。
「いや、すこし治癒をしていただけだ。問題ない。そこにでも座ってくれ」
部屋の中にはベッド二組と簡単な机と椅子がある。俺はベッドに座ったままレーヴンに椅子をすすめた。
レーヴンは大人しく椅子に腰を下ろす。
「治癒? いつ怪我したんだ?」
「この前山で罠にかかった時だ。ただの痣だから自然治癒させようと思ってたんだが、これのせいで悪夢をみるのかもしれないと思って」
「悪夢?」
俺の着替え、ではないが、を見てはいけないと思っているのか、視線を顔ごとドアの方に向けていたレーヴンが訝し気にこちらを向いた。
「痣って……おい、それ結構酷い打撲じゃないのか?」
「骨や内臓、筋肉に異常はない。王宮で剣の訓練をしていた頃の方が打ちのめされていたから、これくらいは痛くもない」
「いや…え、ちょっと……」
自分が怪我をしたような、痛そうな顔をレーヴンが作っているので、これは見えない方がいいのだろうと判断する。俺はシャツのボタンを留めて、治癒魔法はあとで使う事にした。
「話はこれのことじゃない。これから竜の渓谷に向かう間、眠り薬を服用しながら行くことは可能だと思うか?」
「……どの程度の薬かにもよる。眠りにつきやすくなる程度のものなら問題はないと思うけど」
「それは物音で起きたりするだろうか」
「起きる。むしろそうでないと何かあった時に対応できない」
「そう、か」
足の方は暫くすれば治ると思う事もできるが、眠る方はどうにも改善出来る気がしない。
それなら薬に頼ってみるかと思ったが、眠れてもそれではすぐに起きてしまうだろう。
「困ったな」
「いや、だから、ちょっとまてヴェル王子。順を追って話してくれ。なんで眠り薬がいる? 誰が飲むんだ?」
「眠れないから、俺が飲む」
「眠れないって、いつからだよ」
「この前レーヴンが一緒に寝てくれた時が、眠れたと俺が自覚できた最後だ」
「??! それってもう四日前だぞ?」
「ああ、そうだな。ここに泊まってからは眠れた記憶がない」
「なに……言って。なんでもっと早く……いや、気付かなかった俺たちにも問題があるか」
「早くと言われても、本当に眠れないのか確認する必要もあるし、俺が言わない以上お前達が気付かないのは仕方ない。俺の問題だ」
レーヴンの顔が痛そうな表情から、驚きの表情に変わり、絶句して、今は頭を抱えている。
俺は二年前であってもここまで表情豊かではなかったな、とぼんやりと思った。
「えっと、触っても……大丈夫か?」
顔を上げたレーヴンが悲痛そうな顔で俺をみる。なんでそんな顔をしているんだろうか。
「かまわない」
俺が感情なく答えれば、レーヴンは椅子を移動させて俺の正面に座ると、そっと俺の肩に手を伸ばして、触れた。
そしてそのままベッドに身体を倒したが、胸の上に何か乗ってるような感覚がして飛び起きる。
もちろん胸に何も乗っていない。あの時叩かれた胸部と蹴られた腹部に痣は残っているが……それのせいでこんな感覚に襲われているのだろうか。
ふとその可能性に思い至り、シャツのボタンを外せば前を開けて、治癒魔法を施すことにした。
そのタイミングでノックの音と、レーヴンの声がしたので入るように促す。
「失礼す……って、着替え中か? それなら出直してくる」
ドアを開けて中に入って来たレーヴンが慌てたように、回れ右をして出て行こうとする。
着替えは王宮では使用人が手伝ってくれていたから、他人に肌を見られることに抵抗はない。むしろ相手が不快に思うかどうかを俺は気にするべきだろう。
「いや、すこし治癒をしていただけだ。問題ない。そこにでも座ってくれ」
部屋の中にはベッド二組と簡単な机と椅子がある。俺はベッドに座ったままレーヴンに椅子をすすめた。
レーヴンは大人しく椅子に腰を下ろす。
「治癒? いつ怪我したんだ?」
「この前山で罠にかかった時だ。ただの痣だから自然治癒させようと思ってたんだが、これのせいで悪夢をみるのかもしれないと思って」
「悪夢?」
俺の着替え、ではないが、を見てはいけないと思っているのか、視線を顔ごとドアの方に向けていたレーヴンが訝し気にこちらを向いた。
「痣って……おい、それ結構酷い打撲じゃないのか?」
「骨や内臓、筋肉に異常はない。王宮で剣の訓練をしていた頃の方が打ちのめされていたから、これくらいは痛くもない」
「いや…え、ちょっと……」
自分が怪我をしたような、痛そうな顔をレーヴンが作っているので、これは見えない方がいいのだろうと判断する。俺はシャツのボタンを留めて、治癒魔法はあとで使う事にした。
「話はこれのことじゃない。これから竜の渓谷に向かう間、眠り薬を服用しながら行くことは可能だと思うか?」
「……どの程度の薬かにもよる。眠りにつきやすくなる程度のものなら問題はないと思うけど」
「それは物音で起きたりするだろうか」
「起きる。むしろそうでないと何かあった時に対応できない」
「そう、か」
足の方は暫くすれば治ると思う事もできるが、眠る方はどうにも改善出来る気がしない。
それなら薬に頼ってみるかと思ったが、眠れてもそれではすぐに起きてしまうだろう。
「困ったな」
「いや、だから、ちょっとまてヴェル王子。順を追って話してくれ。なんで眠り薬がいる? 誰が飲むんだ?」
「眠れないから、俺が飲む」
「眠れないって、いつからだよ」
「この前レーヴンが一緒に寝てくれた時が、眠れたと俺が自覚できた最後だ」
「??! それってもう四日前だぞ?」
「ああ、そうだな。ここに泊まってからは眠れた記憶がない」
「なに……言って。なんでもっと早く……いや、気付かなかった俺たちにも問題があるか」
「早くと言われても、本当に眠れないのか確認する必要もあるし、俺が言わない以上お前達が気付かないのは仕方ない。俺の問題だ」
レーヴンの顔が痛そうな表情から、驚きの表情に変わり、絶句して、今は頭を抱えている。
俺は二年前であってもここまで表情豊かではなかったな、とぼんやりと思った。
「えっと、触っても……大丈夫か?」
顔を上げたレーヴンが悲痛そうな顔で俺をみる。なんでそんな顔をしているんだろうか。
「かまわない」
俺が感情なく答えれば、レーヴンは椅子を移動させて俺の正面に座ると、そっと俺の肩に手を伸ばして、触れた。
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