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本編
(15)不調
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食堂にはグリムラフとエールックが別々のテーブルについていた。四人掛けなんだが……。
俺は食堂の従業員に飲み物を頼むと受け取り、エールックの前に座ることにする。
「おはようございます、ヴェルヘレック様。お加減が優れないようですが」
俺に気付くとエールックは立ち上がり一礼をする。それを軽く手で着席するよう促すと、俺の顔を見てとても清々しそうな笑顔を向けて来た。
ベッドで続けて寝れるのも久しぶりだから、エールックたちの疲労は回復できているのだろう。とても良いことだ。
俺はいつも通りエールックに視線を送り、無言のままこれ以上追及をしないように命ずる。
「グリムラフ、今日のレーヴンの予定は聞いているか?」
「うん? 今日? まだ寝てたからそろそろ起きてくるんじゃない? あ、ほら、来た」
グリムラフの言葉通り、俺が降りて来た階段からレーヴンが眠そうに欠伸をしながら降りて来た。
いつも無造作な髪型だが今日は寝癖もついていて、こういうところで見ると随分と子どもっぽいんだな、と思ってしまう。
そんな相手に俺は相談しないといけないのか、と少し空虚な思いを抱いたが、どう考えてもこの旅のリーダーはレーヴンだ。
俺の不調を彼に伝え、方針を考えないといけない。
「レーヴン、おはよー。王子様がレーヴンのお目覚め待ちだったよ」
「……アァ? あ、おはよう」
まだ少し寝ぼけているのか、やや低い声でグリムラフに返事をしてから、俺たちの方に気付き慌てたように挨拶をする。
「おはよう。村の人への対応をすべて任せてしまってすまないな」
「あー…こういうのは慣れてるから……、ていうかヴェル王子、ちゃんと食ってるか? なんかここに来る前よりやつれてない?」
グリムラフのテーブルに座ろうとしていた手を止めて、レーヴンは俺の隣までくると眉を寄せ、しかめ顔で問いかけてきた。
「おい! ヴェルヘレック様を見下ろすな!!」
「……エールック、そんな些細な事はどうでもいい。食事はきちんと食べているから問題ない。ただレーヴンの意見を聞きたい事がある、少し時間を作ってくれないか」
「それは全然かまわないってか、これからのことも相談したいし。今日は特に予定はないからいつでもいいけど」
「では、朝食が終わったら俺の部屋に来てくれ」
「それでしたら私も同席いたします!」
俺がレーヴンを見上げて言えば、横からエールックが入ってくる。
「いや、エールックは席をはずしてくれ。レーヴンとだけ話したい」
「そんな、人殺しとヴェルヘレック様をお二人だけになんて…」
ガンっ!! と鈍い音がして、俺の右手に痛みが走った。
自分で自分の行動に驚く。
俺はエールックの言葉に耐えられなかったのか、無作法にもテーブルを叩き、エールックの言葉を制止していた。
睡眠不足で気が立っている。それは間違いない。
こんな状態で人前に出るべきではなかった。
「……先に部屋に戻っている。食事が済んだら来てくれ」
俺は努めて冷静な声でそういうと、その場を逃げるように後にした。
他の三人がどんな顔をしていたのかなど、確かめたくもなかった。
俺は食堂の従業員に飲み物を頼むと受け取り、エールックの前に座ることにする。
「おはようございます、ヴェルヘレック様。お加減が優れないようですが」
俺に気付くとエールックは立ち上がり一礼をする。それを軽く手で着席するよう促すと、俺の顔を見てとても清々しそうな笑顔を向けて来た。
ベッドで続けて寝れるのも久しぶりだから、エールックたちの疲労は回復できているのだろう。とても良いことだ。
俺はいつも通りエールックに視線を送り、無言のままこれ以上追及をしないように命ずる。
「グリムラフ、今日のレーヴンの予定は聞いているか?」
「うん? 今日? まだ寝てたからそろそろ起きてくるんじゃない? あ、ほら、来た」
グリムラフの言葉通り、俺が降りて来た階段からレーヴンが眠そうに欠伸をしながら降りて来た。
いつも無造作な髪型だが今日は寝癖もついていて、こういうところで見ると随分と子どもっぽいんだな、と思ってしまう。
そんな相手に俺は相談しないといけないのか、と少し空虚な思いを抱いたが、どう考えてもこの旅のリーダーはレーヴンだ。
俺の不調を彼に伝え、方針を考えないといけない。
「レーヴン、おはよー。王子様がレーヴンのお目覚め待ちだったよ」
「……アァ? あ、おはよう」
まだ少し寝ぼけているのか、やや低い声でグリムラフに返事をしてから、俺たちの方に気付き慌てたように挨拶をする。
「おはよう。村の人への対応をすべて任せてしまってすまないな」
「あー…こういうのは慣れてるから……、ていうかヴェル王子、ちゃんと食ってるか? なんかここに来る前よりやつれてない?」
グリムラフのテーブルに座ろうとしていた手を止めて、レーヴンは俺の隣までくると眉を寄せ、しかめ顔で問いかけてきた。
「おい! ヴェルヘレック様を見下ろすな!!」
「……エールック、そんな些細な事はどうでもいい。食事はきちんと食べているから問題ない。ただレーヴンの意見を聞きたい事がある、少し時間を作ってくれないか」
「それは全然かまわないってか、これからのことも相談したいし。今日は特に予定はないからいつでもいいけど」
「では、朝食が終わったら俺の部屋に来てくれ」
「それでしたら私も同席いたします!」
俺がレーヴンを見上げて言えば、横からエールックが入ってくる。
「いや、エールックは席をはずしてくれ。レーヴンとだけ話したい」
「そんな、人殺しとヴェルヘレック様をお二人だけになんて…」
ガンっ!! と鈍い音がして、俺の右手に痛みが走った。
自分で自分の行動に驚く。
俺はエールックの言葉に耐えられなかったのか、無作法にもテーブルを叩き、エールックの言葉を制止していた。
睡眠不足で気が立っている。それは間違いない。
こんな状態で人前に出るべきではなかった。
「……先に部屋に戻っている。食事が済んだら来てくれ」
俺は努めて冷静な声でそういうと、その場を逃げるように後にした。
他の三人がどんな顔をしていたのかなど、確かめたくもなかった。
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