偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

文字の大きさ
上 下
13 / 55
本編

(13)魔族の子

しおりを挟む

 俺を追いかけて、助けてくれたのはレーヴンとグリムラフだった。
 ホルフとエールックは最初に仕掛けた川原で待機していた。
 正確にはエールックは戦闘中に昏倒してしまい、ホルフがエールックと助けた子どもを保護しつつ、密輸団を拘束していた。

 助け出した袋の中にはやはり子どもが入っていた。
 俺が追いかけた袋には、人熊族と呼ばれる熊のような耳が頭上にある少女が押し込められていた。名前はサロ、歳は12歳。服は身ぐるみはがされていたからグリムラフが上着を貸した。
 俺と髭面の男たちとのやりとりを袋の中で聞いていたらしい。自分こそ怖かっただろうに、俺のことを心配しており、無事だと知れば安堵して涙ぐむ優しい少女だ。

 もう一人は髪が緑とも靑ともつかない不思議な色に反射する少年だった。紫色の瞳がキラキラしていて、精巧につくられた人形のようで、こちらも何も身に着けていなかったので俺の服を与えた。体の大きさはサロと同じ位の年齢に思えたが、サロが言うには妖精族の生まれたばかりの子どもだろうとのこと。

 サロは俺たちと同じ言葉を使うので意志の疎通が可能だったが、妖精族の子はホルフを同族だとおもったのかべったりくっつくだけで何も話さなかった。

 子ども達だけで自分たちの家に帰れとも言えず、さらに妖精族の子どもについてはなんの手がかりもない。竜の渓谷に行くには回り道になるが、家族の元に届けるためサロの住む村に向かう事にした。
 当然エールックは反対したが「俺の決定に従えないなら帰れ」と言ったところ、しぶしぶ後をついてきている。

「人殺しの中にヴェルヘレック様をおひとり残すわけにはいきません!」

 俺はあの後、レーヴンに抱えられて川原に戻っただけで、俺を襲った二人の最期を確認していない。
 男二人は仕留めた、とのレーヴンの報告を受けただけだ。

 人殺し、という単語をわざと強調するようにエールックは口にするが、キルクハルグの法にのっとれば密輸の一団は死罪と同等の刑を下されただろう。人身売買でも重罪だが俺にも手を出したのだ。首の一つや二つ差し出して貰わなければならない。
 だからレーヴン達の対応は、俺やサロの救出を考えればひどく妥当だ。もし王宮騎士であっても同じ対応をしただろう。

 川原で交戦した三人は全員傷を負わせて無力化の上、拘束していた。本来は彼ら三人も連れてきて、アエテルヌムの者に差し出すべきなのかもしれないが、子どもが二人加わり俺の傷の治りも良くなかったため、密輸団の三人はその場に放置した。

 武器や道具を全て取り上げ、縛りあげて放置すべきだと主張したエールックに対して、レーヴンは拘束せず、最低限の武器は与えたうえで放置する事を提案してきた。

 エールックは俺たちへ報復してくるかもしれないから安全策をとるべきと主張し、それもそうかと俺は納得しかけたが、レーヴンは拘束し武器もない状態で、ヒトを食う魔族が迫ったら食い殺されるだけだ、そんな処刑の仕方は人道に反すると言った。

 食い殺される。

 そんな事を俺は想像もしていなかった。

 幸いにも俺たちの旅ではヒトを食う人食鬼、と呼ばれる魔族にはほぼ出くわさなかった。
 そう、まったく出くわさなかったわけじゃない。出会ってもレーヴン、ホルフの二人で対応できる数だっただけだ。俺は交戦しなかったので印象があまりなかった。

 それに、食い殺されると聞いた時、あの髭面の男の死んだ顔が目の前に現れた気がして、俺は息を詰めてしまった。
 もちろん、アイツは食い殺されたわけじゃない。そんな事は判っている。

 二人の話を聞いて俺は、レーヴンの提案を採用することにした。

「うわー、嫌味な言い方だなー」
「……ま、事実だから仕方ない」
「でもあいつぶっ倒れてたからなんもしてなかっただけじゃん、それをさー」
「グリ、いちいち言い返すな。ヴェル王子、足は平気か?」

 グリムラフたちのやり取りをぼんやりと聞いてはいたが、レーヴンに声をかけられて意識を戻す。

「ああ、大丈夫だ。……いや、少し痛むかもしれない」
「お兄ちゃん、大丈夫?」

 罠にはまった右足は、治癒魔法で歩行に問題ないくらいには治した。なのになぜかまだピリピリと痛む。
 そんな俺の返事に隣を歩いていたサロが心配げな顔を向ける。
 ちょうど妹のダフィネと年齢も髪の色も同じだからか、サロに声をかけて貰えるのは嬉しい。
 俺はサロを安心させようと微笑む。

「大丈夫だ。心配をかけてすまない。……サロ?」

 俺がサロに答えると、サロの顔がだんだん赤く染まっていく。

「ううん、なんでもない! もうすぐ村だよ! わたし先に行ってみんなに話してくる」

 サロはそういうと俺から逃げるように駆けて行ってしまった。

「獣人の分際で、ヴェルヘレック様になんという失礼をするんだ!!」
「エールック、子どものする事にいちいち声を荒げるな」

 逃げ去られてしまって少し悲しいが、別に無礼だとは思っていない。

「王子様は罪作りだねー」
「俺は何かサロにしてしまったのか?」
「いえいえ、グリの言う事は気にしないで大丈夫ですよ。それよりも、何事もなく僕たちを迎え入れてくれるといいですけど」

 俺の傍に寄って来ればグリムラフが楽しそうに笑い見上げてくる。その様子に苦笑しながらホルフが声をかけてきた。

 なんだか、不穏な事を言われた気がするが、サロがきちんと村人に説明してくれると信じるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

処理中です...