偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(9)獣人狩り・3

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 密輸の一団はグリムラフの報告通り巨漢の四人組で、そのうち二人が大きな袋を肩に担いでいた。
 袋の大きさからすればどちらも中身は子どもだろう、そんな大きさだ。

 ちなみに暗闇でも目が見えるように全員に肉体強化の魔法をかけている。
 俺は魔法を人より多く覚えることが出来たから、思いつく限りの肉体強化の魔法は習得してきた。
 二年前までは魔法について多く学んでいたからこそできたことだと思う。そう思えば物事に無駄なことなど何一つないんだと実感した。

 俺たちの基本陣形はレーヴン、エールックが前衛。魔法を使うホルフと俺、武器が遠距離のボウガンであるグリムラフは後衛になる。
 まずは目くらましの魔法で強襲し、前衛の二人が敵を引き付ける。その間に俺たちが荷物として運ばれているだろう人たちを救出する手はずだ。

「<我は乞う、太陽の恵み、その力を貸し与えたまえ! いでよ光輪!>」

 作戦通りにホルフが光の魔法を放つ。

「は??? なんだこれ!!?」
「おいっ! 魔族が襲ってきたのか!!? 荷物持って逃げるぞ!」
「させるか!!!」

 光魔法に驚くものの、密輸を行う者達だって手練れなのだろう。対応は早く荷物を担ぐものと俺たちを迎え討つ者とに分かれた。

「逃がさないっよっと!!!」
「<我は乞う、風の精霊! 刃となって切り裂け! 風刃!>」

 荷物を持つ男たちは川へ逃げる。川は浅瀬で対岸へ渡れるようだ。
 ばしゃばしゃと走る男たちにグリムラフの矢とホルフの魔法が後を追う。一人はホルフの魔法を足に受け、川の中に転倒した。それをグリムラフと俺が追いかける。
 グリムラフの矢が当たったもう一人はそのまま川を渡り切り、その先に逃げる。

「このままだと、逃げられるっ! グリムラフ! こちらは任せた」
「えええええ? ちょっとまって!!」

 肉体強化の賜物で、グリムラフよりも俺の方が走る速度が速い。
 川に倒れた男はどうでもいいが、布袋が川に落ちているのが気になり、俺は剣を抜くと通り抜けざまに布袋に剣先をひっかけ切り裂いた。そのまま起き上がろうとした男に剣を振り払い、袋から引き離す。

「王子様!!! 待てってば!! ああああああもう!」

 後ろからグリムラフの叫びが聞こえるが、続けて剣のぶつかる音もする。対岸にたどり着き一瞬振り返ったら、短剣でグリムラフが川に倒れた男と応戦していた。
 こちらは皆に任せておけば問題ないだろう。

 俺は速度を上げる肉体強化魔法を再び自分にかけると、もう一人を追った。
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