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本編
(8)獣人狩り・2
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「何が起きている?」
「わからないけどグリの罠に何かかかった」
「魔族ですか?」
「判らないとはなんだ。ヴェルヘレック様にもしもがあったらどうす」
「エールック黙れ」
俺たちも荷物をまとめ、武器をいつでも使えるように身に着け、グリムラフの帰りを待つ。
数分もしない間にグリムラフは俺たちの元に戻って来た。
グリムラフの仕掛けた罠はそのそばを通ると、手元にある鈴が鳴るというものらしい。遺跡で発見した魔道具なんだそうだ。
「魔族じゃなかったよ。ていうかあれは密輸商品の運搬屋じゃないかな」
「密輸商品? 毒草とかか?」
確かいくつか魔族の国から持ち出しが禁止されている植物などがあったはずだ。魔族の王の支配地では無力だが国外に出てしまうと繁殖し、あまつさえ人を食べるほどに成長するモノなどもあるという。
「うーん、植物とかじゃなくて人身売買だと思うけど」
「獣人狩りか」
「たぶんね、王子様もその位は知ってるんだ、もっと世間知らずかと思ってたよ。で、どうするレーヴン?」
グリムラフは俺の問いかけに答えると、レーヴンに判断を委ねる。
雇い主は俺のはずだが、この場合は仕方ない。経験の多い者が判断した方がいいに決まっている。
「人数は?」
「見えるところだと四人。布袋は二つ動いてたよ」
「こちらのことは?」
「気付いてないと思う、オレの仕掛けは完璧だしね。こっちにも向かってきてないから、明日の進行方向さえ気をつければ出くわすこともなさそう」
「それなら出会わないように進行すればいいだろう。何もわざわざヴェルヘレック様を危険な目に会わせることはない」
グリムラフとレーヴンの会話にエールックが不機嫌そうに参加する。
「……そうだな。ここは気付かれないように」
「まってくれ。その者達はキルクハルグの者達なのか?」
「どこの国のヒトかは判らないけど、この位置ならキルクハルグに運ぶんだと思うよ」
「なら、止めに行こう」
俺の言葉に全員が俺を見る。
「獣人狩り」とは魔族の、特に動物的な特徴を容姿に持つ子どもを商品としてやりとりする人身売買だ。
キルクハルグは奴隷制度がないので人身売買自体も重罪だが、悲しいことに大金を動かせる立場の者達は嗜好品として獣人を囲っているという。そしてそれを商売として大金を得ている者もいる。
魔族というだけで何をしてもいいと思っているヒトも多いのが現実だ。だが俺はキルクハルグの王族として、魔族である竜は俺たちに寄り添ってくださる種族であり、魔族とひとくくりにしてしまう事自体が愚かであると思っている。
子どもが誘拐されて、異国へ売られる。それを助けないで逃げるなんてことはしたくない。
「な、なにを言っているんですかヴェルヘレック様!」
「当たり前のことを言っている。止めに行くぞ」
「お待ちください、ヴェルヘレック王子。エールックさんも言ってますけど、回避できる危険に突っ込む必要ないんですよ」
「自分の保身のために、国民の過ちを見逃すなんて俺は出来ない。それにグリムラフは荷物が動いているといった。ならば生きているのだろう。助けたい」
「うえー、どんだけ無謀なのこの王子様」
「お前が余計な事をヴェルヘレック様の前で言うからっ!」
ホルフ達も反対のようだが、無謀、なんだろうか。
「俺の言っていることは無謀な事なのか?」
魔族の国に侵入しているような者たちだ。手練れではあるのだろうけど人数はこちらの方が多い。グリムラフの方が偵察スキルも上手のようだし、そう考えれば冒険者ギルドのランク的には相手はブロンズより低いんじゃないだろうか。
俺はレーヴンに振り返り問いかける。
瞳を伏せて何事か思案していたが、ゆっくり瞼を開くと俺を見る。
森の中の薄暗い闇の中でもレーヴンの緑の瞳は綺麗に輝き、にっと自信満々に笑った。
「いーや、無謀じゃない。グリ、ホルフ。やるぞ」
「えー、本気なのレーヴン」
「わかりました。もちろん僕たち三人では心もとないですから、ヴェルヘレック王子とエールックさんもお力を貸してくださいね」
「当たり前だ。貸すと言うか、俺がやると言った事だ。お前達だけには任せない」
「ヴェルヘレック様……どうか考え直しを」
エールックが俺の腕をつかみかけては手を引き、オロオロする様子にため息をつく。
「エールック。すまないがお前の力も借りたい。どうか力を貸してほしい」
「っ!!! はい! 勿論です!!!」
まっすぐエールックを見て言えば、あっさりと承諾してくれた。最初から力を貸してくれればいいのに、と思ってしまうのは余りにも俺の勝手が過ぎるな。
俺はこの行動が、どの程度の危険性があるのか判りもせずに皆を巻き込んでいる。
王宮騎士であれば王子である俺の言葉を却下する事は難しいだろう。だがレーヴン達冒険者ならそういうしがらみはない。
無理なら、無謀ならそう言ってくれるはずだ。
冒険者とは自分たちの命を大事にすると聞いている。主君の為に命を投げ出す騎士とは信念が違う。
冒険者であるレーヴンが俺の言葉を無謀ではないと言ってくれた。だから俺はその判断を信じることができる。
その後、グリムラフが偵察に行った場所へ向かったが、そこにはもう誰も居なかった。続けて周囲の偵察を行い、そこから少し離れた川沿いを歩く一団に追いつく。
俺たちは打ち合わせ通り、陣形を組んで彼らに気付かれないよう近寄ることにした。
「わからないけどグリの罠に何かかかった」
「魔族ですか?」
「判らないとはなんだ。ヴェルヘレック様にもしもがあったらどうす」
「エールック黙れ」
俺たちも荷物をまとめ、武器をいつでも使えるように身に着け、グリムラフの帰りを待つ。
数分もしない間にグリムラフは俺たちの元に戻って来た。
グリムラフの仕掛けた罠はそのそばを通ると、手元にある鈴が鳴るというものらしい。遺跡で発見した魔道具なんだそうだ。
「魔族じゃなかったよ。ていうかあれは密輸商品の運搬屋じゃないかな」
「密輸商品? 毒草とかか?」
確かいくつか魔族の国から持ち出しが禁止されている植物などがあったはずだ。魔族の王の支配地では無力だが国外に出てしまうと繁殖し、あまつさえ人を食べるほどに成長するモノなどもあるという。
「うーん、植物とかじゃなくて人身売買だと思うけど」
「獣人狩りか」
「たぶんね、王子様もその位は知ってるんだ、もっと世間知らずかと思ってたよ。で、どうするレーヴン?」
グリムラフは俺の問いかけに答えると、レーヴンに判断を委ねる。
雇い主は俺のはずだが、この場合は仕方ない。経験の多い者が判断した方がいいに決まっている。
「人数は?」
「見えるところだと四人。布袋は二つ動いてたよ」
「こちらのことは?」
「気付いてないと思う、オレの仕掛けは完璧だしね。こっちにも向かってきてないから、明日の進行方向さえ気をつければ出くわすこともなさそう」
「それなら出会わないように進行すればいいだろう。何もわざわざヴェルヘレック様を危険な目に会わせることはない」
グリムラフとレーヴンの会話にエールックが不機嫌そうに参加する。
「……そうだな。ここは気付かれないように」
「まってくれ。その者達はキルクハルグの者達なのか?」
「どこの国のヒトかは判らないけど、この位置ならキルクハルグに運ぶんだと思うよ」
「なら、止めに行こう」
俺の言葉に全員が俺を見る。
「獣人狩り」とは魔族の、特に動物的な特徴を容姿に持つ子どもを商品としてやりとりする人身売買だ。
キルクハルグは奴隷制度がないので人身売買自体も重罪だが、悲しいことに大金を動かせる立場の者達は嗜好品として獣人を囲っているという。そしてそれを商売として大金を得ている者もいる。
魔族というだけで何をしてもいいと思っているヒトも多いのが現実だ。だが俺はキルクハルグの王族として、魔族である竜は俺たちに寄り添ってくださる種族であり、魔族とひとくくりにしてしまう事自体が愚かであると思っている。
子どもが誘拐されて、異国へ売られる。それを助けないで逃げるなんてことはしたくない。
「な、なにを言っているんですかヴェルヘレック様!」
「当たり前のことを言っている。止めに行くぞ」
「お待ちください、ヴェルヘレック王子。エールックさんも言ってますけど、回避できる危険に突っ込む必要ないんですよ」
「自分の保身のために、国民の過ちを見逃すなんて俺は出来ない。それにグリムラフは荷物が動いているといった。ならば生きているのだろう。助けたい」
「うえー、どんだけ無謀なのこの王子様」
「お前が余計な事をヴェルヘレック様の前で言うからっ!」
ホルフ達も反対のようだが、無謀、なんだろうか。
「俺の言っていることは無謀な事なのか?」
魔族の国に侵入しているような者たちだ。手練れではあるのだろうけど人数はこちらの方が多い。グリムラフの方が偵察スキルも上手のようだし、そう考えれば冒険者ギルドのランク的には相手はブロンズより低いんじゃないだろうか。
俺はレーヴンに振り返り問いかける。
瞳を伏せて何事か思案していたが、ゆっくり瞼を開くと俺を見る。
森の中の薄暗い闇の中でもレーヴンの緑の瞳は綺麗に輝き、にっと自信満々に笑った。
「いーや、無謀じゃない。グリ、ホルフ。やるぞ」
「えー、本気なのレーヴン」
「わかりました。もちろん僕たち三人では心もとないですから、ヴェルヘレック王子とエールックさんもお力を貸してくださいね」
「当たり前だ。貸すと言うか、俺がやると言った事だ。お前達だけには任せない」
「ヴェルヘレック様……どうか考え直しを」
エールックが俺の腕をつかみかけては手を引き、オロオロする様子にため息をつく。
「エールック。すまないがお前の力も借りたい。どうか力を貸してほしい」
「っ!!! はい! 勿論です!!!」
まっすぐエールックを見て言えば、あっさりと承諾してくれた。最初から力を貸してくれればいいのに、と思ってしまうのは余りにも俺の勝手が過ぎるな。
俺はこの行動が、どの程度の危険性があるのか判りもせずに皆を巻き込んでいる。
王宮騎士であれば王子である俺の言葉を却下する事は難しいだろう。だがレーヴン達冒険者ならそういうしがらみはない。
無理なら、無謀ならそう言ってくれるはずだ。
冒険者とは自分たちの命を大事にすると聞いている。主君の為に命を投げ出す騎士とは信念が違う。
冒険者であるレーヴンが俺の言葉を無謀ではないと言ってくれた。だから俺はその判断を信じることができる。
その後、グリムラフが偵察に行った場所へ向かったが、そこにはもう誰も居なかった。続けて周囲の偵察を行い、そこから少し離れた川沿いを歩く一団に追いつく。
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