偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(3)冒険者ギルド

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 「対面の儀」に赴く王族は、王宮騎士を連れていく。それが通例だ。
 だけど俺はそれを断った。帰って来られるかわからない旅だし、俺が竜の加護を得られないのを王宮の者に知られるわけにはいかない。

「戻れエールック。共に来ることは許さない」
「私は絶対に! ヴェルヘレック様とご一緒します」

 だというのに、どうしてもと後をついてくる騎士が居る。
 エールック・シュタイン。
 俺より二歳年上で、伯爵家の三男。マフノリア様の弟だ。
 エールックが新人騎士となって王宮勤めになったのと俺が訓練を始めた時期が同じという事もあって、剣の稽古に一番付き合ってくれていた。

 突き放すような視線を向けても、むしろ気合を入れ直すかのように鼻息荒くこちらを見つめ返してくる。

「うわぁお、本当にこわっ。さすが冷血王子様」

 そんな俺とエールックのやり取りを見ていたのか、横から声が聞こえた。

 今、俺とエールックが居るのは冒険者ギルド、と呼ばれる建物だ。

 国家間にはいくつか共通の組織がある。鍛冶師協会、魔法師ギルド、宗教教会など多岐にわたり冒険者ギルドは職業団体といえるだろう。
 旅の護衛や遺跡の探索、その他屋敷の草むしりから薬草の採取など、その内容はもはや何でも屋でありどの国においても無くてはならない組織だ。

 そして俺はこの冒険者ギルドに「対面の儀」へ連れていく者達を探してもらった。

 王宮騎士を連れていけば「対面の儀」は滞りなく終わると聞いていた。なので冒険者でも大丈夫だろうと俺は思っていたか、魔族の国まで行くという依頼は中々難しいものだった。
 冒険者はそれこそ仕事の内容が色々とあるため、騎士のように戦える者ばかりではなかったのだ。
 
 しかし、俺が探したかった同行者は戦える者というわけじゃない。

 戦闘時には最低限、自分の身は守ってほしいのは確かだが、母の告白の日から二年間、俺はそれこそ血の滲む努力をした。

 俺の身体は筋肉がつきにくく、一撃は女性に比べても軽い。それを補う為に急所への正確な切込みや力の受け流し方を身に着けた。あと、魔法の技術を上げ、剣と同時に扱えるようにもした。

 攻撃魔法もだが、補助魔法の有用性は高く、肉体強化や武器の追加攻撃属性付与、そして一番大事なのは治癒魔法であると知った。

 なので、自分の身を守れるくらいの者達であれば、俺が補助に徹すれば竜の渓谷まで行くことは可能だろう。その道すがらさらに剣技や魔法のスキルを上げればいいと判断している。

 だから、強者である必要はない。冒険者ギルドに同行者を探してもらった目的は他にある。

「グリ、王子に向かってそんなあだ名で呼んだら不敬ですよ」
「偽名って事はないと思ったけど、ヴェルヘレック王子が依頼者ってのは本当なのか。驚いたな」

 俺達に声をかけてきたのは赤毛の三人組だった。それに気付いた冒険者ギルドの女性従業員もこちらにやってくる。

「ヴェルヘレック様。お待たせいたしました。こちらがお話していた三名です」

 女性従業員は俺の隣に立つと、やって来た赤毛の三人を手で示し紹介を始めた。

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