偽王子は竜の加護を乞う

和泉臨音

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本編

(4)同行者

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「まずこちらの魔法師がホルフさん。共通ランクはブロンズです」
「初めまして、ヴェルヘレック王子。ホルフと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 ホルフと呼ばれた魔法師は俺よりも少し背が高く、薄茶のローブを身にまとっていた。赤い髪は肩に着くかどうかといった長さだが前髪が長く、青い瞳に眼鏡をかけている。
 フードに隠れているが少し耳が尖っているように見えた。

「そしてこちらの方がグリムラフさん。共通ランクはブロンズの探究者です」
「よろしくね、王子様」

 グリムラフと呼ばれた者は俺よりも頭半分背が低い。ショートカットの赤い髪に黄色い瞳。可愛らしい表情としぐさをする。ショートパンツなので足もかなり露出しているし、腹と肩もでている。
 性別を知っていなければ少女に見える。

「探究者? こそ泥の間違いじゃないのか」
「はぁああ?? 泥棒と一緒にしないでくれる? 何このムカツク人!」
「エールック。これから俺と旅を共にする方だ。無礼なことは言わないでくれ」
「なにを仰ってるんですかヴェルヘレック様! 探究者など遺跡の盗掘を生業とする者たちですよ」
「……エールック。二度は言わせるな」

 俺は意識して低い声で威圧した。威圧したかったエールックは残念ながら俺のこの様子に慣れてしまっているので効果はなかったが、代わりに紹介されたグリムラフとホルフ、女性従業員がびくっと怯えている。
 申し訳ないと思うが冷ややかな目のまま彼らを見る。

「えっと、俺も自己紹介していいか? レーヴンだ。共通ランクはシルバーの剣士。今回の依頼はヴェルヘレック王子をアエテルヌムの竜の渓谷に無事に連れていくことって聞いてるけどあってるか?」

 俺の威圧にもう一人、まったく動じない人物が自己紹介をした。

 邪魔にならない程度に雑に切った赤い髪に緑の瞳。俺より頭半分くらい背が高いからエールックよりも背が高いか。服の上からは細身に見えるが共通ランクがシルバーの剣士ということは、かなり戦えるのだろう。

 共通ランクとは国家間の冒険者ギルドの強さの指標だ。ランクを高い者を雇うと支払いが高くなっていく。ランクは上からクリスタル・ゴールド・シルバー・ブロンズ・ストーンとなっており、その下に見習いというものがある。それぞれランクを上げるには指定された功績をあげる必要があり、一つの国ではブロンズまでしか上げられない。

 この男は俺と同じ歳にも関わらず、他国でもそれなりの仕事をしてきたということだ。

 レーヴンを冷めた視線のまま観察する。
 そんな俺に対してにこやかに微笑んで、あまつさえ握手を求めてきたが、俺はその手を無視した。

「間違いない」
「あのさ、連れて行くだけでいいのか? 帰る時は?」
「……必要であればその時に再契約をする」
「竜の加護を受ければお前たちのような下賤の手を借りずとも、ヴェルヘレック様はお一人でお戻りになれるのだ」
「ああ。エールック、お前も置いていくから着いて来ないでくれ」
「何をおっしゃるんですか。例え置いていかれようとも私はヴェルヘレック様に着いていきます」

 もはや何を言っても無駄か。

「すぐに出発するが、必要なものがあれば街を出る前に揃えてくれ」

 そう伝えると俺は三人にそれぞれ金貨の入った袋を渡した。贅沢しなければ半年は衣食住に困らない程度の金額だ。

「え、ちょっこんなにたくさんはお預かりできません」
「うはっ! やったぁ。報酬以外にこんなにもらっちゃっていいの?」
「使わなかった分は返せばいいんだよな。旅の間は使わせてもらう」

 三者三様とはこのことか。魔法師ホルフは青くなって袋の中身と俺を交互に見ればあわあわしている。探究者グリムラフはあからさまに喜び、完全に私物にした気だ。剣士レーヴンは雇い主からのこういった対応に慣れているのだろう。慌てる事もなくしまっていた。

「ヴェルヘレック様! なぜこのような」
「王宮騎士を三名連れ歩くよりは安い。エールック、本当に着いて来ないでくれないか」
「そーそーちょっとあんた気持ち悪いよ? 冷血王子様がそう言ってんだし着いてくるのやめなよ。オレたちが着いてるし、大丈夫だって」
「お前のような者が一緒という方がよっぽど心配だ! そもそもなんだその冷血王子っていうのは!!」

 なんというか既に打ち解けてると言うべきか、エールックとグリムラフがぎゃーぎゃー言い合っている。
 俺はそれを無視して女性従業員に礼をすると、冒険者ギルドから外に出た。
 そのすぐ後ろをレーヴンがついてくる。

「すまないな、グリはなんていうかその……口が悪くて」
「お前たちは同じ孤児院の出身だと聞いている。間違いないか?」
「え? ああそうだけど」
「それならば仲もいいのだろう。エールックが不和の原因となりそうだが、お前たちは仲違いなどせずよろしく頼む」

 俺は振り返らずにレーヴンに言葉をかける。
 なぜ自分たちを選んだのかと問われた時に、回答が出来るようにいくつか用意した。
 その一つが境遇が似ているから仲良くできるだろう、というもの。顔見知りを集められたのでこの理由は説得力を増したはずだ。

 俺が冒険者ギルドに頼んで探して貰った者達は、両親が判らない俺と同い年、16歳の赤い髪の男。

 選ばれた者達の中で、シシリーが関わっていたなら母上の出身地に近い地域の孤児院だろうとも思いさらに絞った。母上の産んだ子どもがもう生きていない可能性も考えたが、シシリーのことを思い出せば処分するなんてことはないだろうと思う。

 冒険者ギルドに登録していない可能性だってあった。該当者を連れていけないのなら仕方ないとも思っていたが、探していた特徴に三人が合致し、全員同行者の依頼を受けてくれた。

 母上の産んだ子は本当に一度の過ちの相手の子どもかもしれない。
 だけど、セダー兄上も赤毛なのだ。
 父上は濃い茶色の髪、セダー兄上の母である第一王妃は濃い金髪だ。それでも兄上は赤い髪で生まれたし「対面の儀」も無事に終わっている。
 ならば本物の「ヴェルヘレック王子」が父上の子で、赤い髪で生まれる可能性もゼロではないはずだ。

 共に旅する冒険者三人の中に、母上の子が居るのかは判らないが。
 どうせなら本物の「ヴェルヘレック王子」を探そうと俺は思った。
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