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本編
(2)旅立ちの日
しおりを挟むキルクハルグ竜王国。
魔族の国アエテルヌムに隣接する我が国は、ヒト族を食糧とする魔族との小競り合いが続く国だ。だが竜の加護を受ける者が王になることで、平和といえるくらい穏やかな日々は守られている。
竜の加護とはそのままの意味で、国というか、加護者に危険が迫ると竜が助けてくれるのだ。
竜族は今は魔族と呼ばれる種族だが、魔族が国を作る以前から我が国では神として崇められている。
竜は魔力や何もかもが桁違いで、何十万というヒト族の騎士が相手をしたところで勝てる事は無いだろう。つまり竜の加護があれば数十万の騎士を所持しているのと同じなのだ。
魔族どころか当然ヒト族の国ですら、我が国に攻め入ろうなどとは思わない。
キルクハルグの王の血筋は、その竜の加護を受けることが出来る。
「では、行ってまいります父上」
「本当にキルクハルグの騎士を連れて行かなくていいのか?」
謁見の間にて、上段の玉座に座る父上であるキルクハルグ王に問われる。
「要りません。連れていく者はすでに選んでおりますので」
俺は答えると礼をし、謁見の間を後にした。
「ヴェル! 今日から「対面の儀」だろう? ルハルグ様にお会いしたら俺の子が生まれるとお伝えしてくれ」
謁見の間を出て、城門へ向かう途中、腹違いの兄上に声をかけられた。
第一王子セダー兄上、赤い髪に緑の瞳の俺より一回りは大きい肉体の持ち主だ。
セダー兄上の隣には王子妃のマフノリア様が大きくなってきたお腹をさすりながら佇まれている。
「セダー兄上、マフノリア様をこのような寒い場所に立たせるなど何をされているのですか」
「え? あ、そうか。いやだって、お前が今日旅立つっていうから」
多分、腹違いの兄上たちは好みが父上に似ているのだと思う。母上に似ている俺やダフィネを兄上たちも大事にしてくれた。
「大丈夫だよ、ヴェル。君に会わないとセダーがずっと煩そうだし、俺が見送りたいって言ったんだ。この身体でなければ俺も一緒に行ったのに」
「マフノリア様、そのお気持ちだけで十分です。ありがとうございます」
「この子が生まれる前に帰って来られそう?」
マフノリア様がカラカラと笑いながら声をかけてくださる。セダー兄上も俺より背が高いがマフノリア様も背が高い。マフノリア様は元々兄上付きの騎士で、幼馴染でもある伯爵家の嫡男だ。俺が剣を学びたいといった時、何度か稽古に付き合っていただいた。
そう、男性である。とても綺麗な方ではあるけど。
キルクハルグは同性の伴侶も認めている。竜は性別を超えて子孫を残すことが出来るから、加護を受けた者もその力を授かれるのだ。
なので、王族でない者が同性で子をもうけることは出来ないが、王族がそういった婚姻をすることも歴史の中で多かったため、結婚も職業も性別にはこだわらない国民性がある。
セダー兄上たちも国民に盛大に祝われた。母上から出生を聞いた直後だったので、俺はちゃんとお祝いを出来ていたか不安ではあったが、変わらずお二人は接してくれるので問題はなかったのだろう。
「少しアエテルヌムを見て来たいと思っていますので無理だと思います」
優しいお二人に、事務的に言葉を返す。戻ってくるかわからないとはさすがに言えない。
「そっか、気を付けて行ってきてね」
「はい、ありがとうございます。マフノリア様もお身体をお大事に。セダー兄上もどうぞお元気で」
「おいおい、なんだそのもう二度と会わないような挨拶」
「失礼いたしました。他意はありません。それでは行ってまいります」
俺は踵を返すと、振り返ることなく王宮を後にした。
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