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第六幕
しおりを挟むイワン・レイグナー。俺の愛しい人だ。
新聞に載れば写真を切り取って収集しているし、他にも彼が載っている情報紙なども集めている。切り抜きは箱にしまって、従者のカイにも知られない様ひっそりとベッドの下に隠してある。
ちなみに新聞や情報紙を集める名目は「第三歌劇団の情報収集のため」だ。それもやってるから嘘じゃない。
新聞の中で見ていた相手が今、目の前にいた。
ついでにミランダ王女も一緒に居る。なんだこの状態?
俺達は歌劇団の応接室に居た。上客、王侯貴族などを接待する部屋だ。昔はここで貴族と団員で乱交も行われていたという、俺からすればホラースポットである。
多分その時に大活躍したんだろう大きく立派なソファーにミランダ王女が座っており、王女の後ろに立ったままイワン・レイグナーが控えていた。
その正面に団長と俺がならんで座っている。
俺はいつものように表情筋が死んだ顔でその場にいた。
王女はそんな俺を見れば、嬉しそうな、悲しそうな、心配しているのかよく判らないが、表情をころころ変えていた。
ちなみに氷の壁は無表情で見つめてきている。さすが俺と「氷」のあだ名を共にするだけある。お互い表情筋が凍り付いている。
「ですからシャクナの護衛にこちらのイワンをつけると申していますの」
「お言葉ですがミランダ王女、レイグナー卿は第一特務、こういった案件は第三特務の方がするのでは?」
「あらイワンでは頼りなくて?」
「滅相もない」
「なら構いませんわね。わたくしシャクナのファンですの。彼を失うなんて言語道断ですもの」
団長と王女の会話を俺とイワンは黙って聞いているだけである。当事者は俺達なんだけどな。
先日、劇場に現れた魔物に俺は遭遇し食べられかけたところをイワンに助けられた。たまたま王女と観劇に来ていて魔物の気配を察知したらしい。そして颯爽と現れて一撃で葬った。さすがだな。なんで俺あの時目を瞑ってたんだろうと後悔した。
助けてくれたイワンを見て俺は泡を吹いて倒れたが、これは魔物を怖がって気絶したと思われたらしい。それを修正する必要もないのでそういうことにしたままだ。
魔物は自然発生したが、鳥の死骸は残念ながら人間が行ったものだ。つまり俺は悪質な嫌がらせを受けているのである。
今までも嫌がらせはなかったわけではないが、さすがに魔物が湧くほどの嫌がらせは受けていない。事態を重く見たミランダ王女が本日いらしてイワンを俺の護衛に着けると言い出した。
歌劇団が国営である以上、王族の意見は絶対である。俺のファンらしいから、単純に信頼できる者に護衛させたいだけだろう。だからって婚約者を24時間護衛に抜擢するというのはいただけない。イワンがそれではあまりにも可哀想だ。
「拝命いたしました。ではこれよりよろしくお願いします、シャクナさん」
心地よい声に名前を呼ばれて、視線だけイワンへ向けた。無表情がこちらを見ている。
「すみません。話を聞いていませんでした」
素直に俺が言えば、団長が呆れた顔をして王女は心配げに俺を見た。イワンは無表情、変わらず。
「レイグナー卿が今からシャクナの護衛になってくださるんだよ」
この状態でそれ以外の選択はないだろうから、聞くまでもないとは思ったけど。団長の説明に俺はふうっとため息をついて立ち上がる。
「そうですか、よろしくお願いしますレイグナー様。護衛いただけるのありがたいですが、俺に必要以上に近寄らないでいただきたい」
「おいおいシャクナ」
「お話を聞けば先日も下の階で魔物を察知できたんでしょ? なら傍に居る必要ありませんよね?」
「そうはいかない。離れていたら間に合わないかもしれない。前回は貴方が応戦して時間を稼いだから偶然間に合っただけだ」
無表情で言ってきたイワンにもう一度ため息をついた。あまり傍に寄られるとまた気絶しそうだし、写真で見ている分にはいいがこうやって王女と一緒に居るのを目の前で見るのは、結構しんどい。
王女に言われたから俺の護衛するんだろう。王女が居なければ俺なんか見もしないくせに。と、酷く見当違いな糾弾をしたくなる。
これが恋愛第一主義か。自分の気持ちなのに制御できないのが厄介だ。
「……嫌な気持ちになりたくないので俺に近寄らないで」
俺の言葉をどうとらえたか判らないが、イワンは俺の願い通り俺の視界には極力入ってこなかった。
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