まもなく閉館時間です。〜視える司書の平凡な非日常〜

和泉臨音

文字の大きさ
上 下
4 / 11

4.調査方針と通常業務

しおりを挟む
 
 さっそく真織まおりは聞き出した情報をもとに本を探すことにした。
 手順としては青年ゆうれいが借りることができた本の中から、数学関連の洋書を検索するというシンプルなものだ。

 まず確認したのは、第一回目の東京オリンピックの開催年だ。これはインターネットで調べれば簡単にわかる情報だし、色々な公的サイトにも載っていることなので真偽を疑う必要もない。
 開催は1964年、昭和39年である。
 1964年時に青年が何年生だったかは不明だが、留年などしていないならば想定しうる在学期間は1960年から1967年の間になるだろう。

 つまり1960年~1967年の間にこの図書館にあった貸出可能な数学書のいずれかが探している本である可能性が高い。

 そうなれば次は該当年にこの図書館にあった本の確認だ。

田端たばたさん、あとで事務室内のパソコンお借りしてもいいですか?」

 真織は出勤早々事務室内に座る先輩図書館員、田端たばた 和華子わかこ に声をかけた。
 
「いいよ~。じゃあ帰るときにそこのやつ電源切らないでおくね」
「ありがとうございます」

 図書館の仕事は事務室内での作業も多くある。田端は一般利用者が目につくことはほぼない目録業務と呼ばれる仕事を担当しているベテラン図書館員だ。

 図書館を利用したことがあれば、本の背表紙に数字が書かれたシールが貼られているのを見たことがあるだろう。図書館の本はそのシールにより並べられており、それを作成するのが目録業務の主な仕事だ。
 さらにデジタル化が進んだ昨今の図書館では、購入した本を検索データベースに登録することも目録の仕事となっている。
 そのおかげでどのような本があるのか、またいつ入荷したのかなど検索することが容易になった。
 
 勿論、1960年代にこの図書館システムは存在しない。
 導入されたその当時の図書館員が紙の台帳や本の現物を見ながら、何万冊とある蔵書を確認してデータ化したのだ。
 そのおかげもあって蔵書の検索は今やパソコンなどの電子機器で簡単に行うことが出来るのである。

(さすがに貸出開始日は専用端末でないと解らないから、とりあえず続きは休憩時間に調べよう)

 そうと決めれば気持ちを仕事モードに切り替える。
 真織の本日の担当は窓口だ。
 図書の貸出手続きや、館内施設の案内などが主な仕事になる。
 といってもセルフで貸出が出来る機械が窓口近くにあるので、図書館のメインとも言える本の貸出などはほぼ対応することがない。
 どちらかと言えば不具合を起こしたセルフ貸出機を再起動したり、貸出しているタブレットの動作確認をしたりなど、デジタル機器のトラブル対応の方が多いくらいだ。

「ああ~っ! また止まってしまった」

 案の定、セルフ貸出機がエラー画面を表示する。
 動きを止めた機械の前で、白衣を着た背の高い男が愕然と頭を垂れていた。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。

何度死んで何度生まれ変わっても

下菊みこと
恋愛
ちょっとだけ人を選ぶお話かもしれないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

誰も知らない幽霊カフェで、癒しのティータイムを。【完結】

双葉
キャラ文芸
【本作のキーワード】 ・幽霊カフェでお仕事 ・イケメン店主に翻弄される恋 ・岐阜県~愛知県が舞台 ・数々の人間ドラマ ・紅茶/除霊/西洋絵画 +++  人生に疲れ果てた璃乃が辿り着いたのは、幽霊の浄化を目的としたカフェだった。  カフェを運営するのは(見た目だけなら王子様の)蒼唯&(不器用だけど優しい)朔也。そんな特殊カフェで、璃乃のアルバイト生活が始まる――。  舞台は岐阜県の田舎町。  様々な出会いと別れを描くヒューマンドラマ。 ※実在の地名・施設などが登場しますが、本作の内容はフィクションです。

紘朱伝

露刃
キャラ文芸
神女が幻術師を打ち滅ぼしたという伝説が残る村。そこに、主人公たちは住んでいる。 一人は現時点で最後の能力者、朱莉。彼女は四精霊を従えている。そしてもう一人は朱莉の幼馴染の紘毅。 平和に暮らしていた二人だが、ある日朱莉は都へ行かなければならなくなり、二人は離れ離れとなった。 朱莉が出てから村に異常が発生し、紘毅はそれに巻き込まれる。 四精霊の力を借りながら二人は再会し、村の平和の為に戦っていく。

処理中です...