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第14話 病原菌スキルの発現

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「これで今受けている依頼分は全部になるわ。暫くの間、新規の依頼は断って特効薬作りに専念するわね」

「はい。こちらがお父様から採取した唾液になります。本来ならばこれを専門の鑑定士に見て貰ってその病原菌の特定をしてから試行錯誤をしながら作り上げていくのですがお嬢様はどうされるつもりなのでしょうか?」

 ロイルは父がやっていた手順の記録帳を見ながら私に説明をしてくれる。

「ふっふっふー。実は先日いろいろと試していたらなんと新しいスキルが発現したのよ」

「前に鑑定してもらった既にの事ですか? あれは確か鑑定スキル系だったとは思いますが何を鑑定出来るかは分かってませんでしたよね?」

「それが分かったのよ。やっぱりロイルの言っていたとおり家の家系に関するもので、まさに『病原菌』を鑑定するスキルだったの!」

 私は嬉しそうにロイルにそう言うと「実際にやってみせるわね」と言って父の唾液の入ったガラス瓶を手に取る。

「病原菌鑑定――」

 私がそう唱えながらスキルを発動させると手の平がぼんやりと光を帯びて頭の中に病原菌の種類とその特効薬に必要な素材が浮かび上がる。

【病原菌:新型イーフルエーザ】

 私は頭に浮かんだ調薬に必要な素材をメモ用紙に次々と書き出していく。

 数分後にはその書く手も止まりメモ用紙にはかなりの種類の素材が羅列されていた。

「素晴らしいです! 本来ならばこれを特定するのに専門の鑑定士に頼んで数日、それから素材を集めるのに更に数日かかるのですが、ここに書かれている素材のほとんどはこの工房にあるものばかりです」

 メモ用紙を見ると種類は多かったが確かに見たことのある素材がほとんどだった。

「すぐに足りない素材を調達して来ますのでお嬢様は調薬の準備をお願いします」

 ロイルはそう言って必要な素材名を書き写すと工房を飛び出して行った。

「まあ、考えてみれば当然よね。いくら新型の病原菌とはいえ流行り風邪の系統は大きく変わっていないのだから使う素材も同じようなもののはずよね」

 私は調薬の組み立て方を考えながらロイルが戻るのを待つ。

「――戻りました。とりあえず今すぐに準備出来るのはこれだけだそうで明日にもまた追加で仕入れて貰えるように手配しておきました」

 ロイルはそう言うと両手に抱えられるギリギリの素材を息を切らせながら持ち帰ってくれた。

「ありがとうロイル。ちょっと集中するから今は休んでいて頂戴」

 私は彼女から素材を受け取ると先ほどから考えていた割合で調薬を始める。

 ◇◇◇

「――なんで上手くいかないのよ!」

 幾度かの失敗を重ねた私は焦りを感じて工房で叫んでいた。薬自体は出来ているのだが今回の新型流行り風邪の特効薬としては不十分な薬品鑑定結果ばかり出ていたのだ。

「やはり素材の配分割合が正確に分からないと特効薬は完成しないようですね。今日はかなり精神力も使ってますのでもうお休みください」

 なかなか完成しない特効薬に私の疲れがピークを迎えそうになったタイミングでロイルがそう声をかけてくれた。

「ありがとう。そうね、これ以上試しても良い結果は出そうにないから今日は休ませて貰うわ」

 私は彼女にそう言って着替える気力もなくベッドに横たわる。その後、精神的な疲労が重なったためか深い眠りに落ちていった。

 ◇◇◇

 ――また、夢を見た。

 まだ私が小さい頃の夢。

 母も元気で笑っている姿が思いだされる。

 父がいつになく真剣な表情で錬金調薬の机に向かっているのが見える。

 なるほど、今なら分かる。

 あれはきっと新しい調薬のレシピを探している時の顔だ。

 父ほどの腕と経験を持ってしても簡単には新しい調薬レシピは完成しない。

 私はなんて傲慢な考えを持っていたのだろう。

 私を置いて治癒魔法士の道へ進んだ父を恨み、それを見返すチャンスとしか捉えられて無かったのだ。

 手遅れになればその父はおろか街全体の人々の命に関わる事だというのに。

「お父さん! 待って!」

 手を伸ばせば届きそうな父の背中が離れて行くのを全力で追いかけようとしたところで夢から覚めた。

 気がつけばその目からは大粒の涙が溢れていた。

「――これじゃ駄目だ。このままだと絶対に後悔したままになる」

 私はこぼれそうになった涙を拭い、目をはっきりと覚ますためにお風呂へ向かう。

(まずは父に会って症状の確認をする。唾液の情報だけでレシピを完成させられると思うなんて思い上がりにも程があったわ)

 湯船に深く浸かりながら私の意識は特効薬の完成にしか向いていなかった。
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