上 下
9 / 15

第9話 父親の影響力

しおりを挟む
「ギルドマスターは居るか? ポーションの納品依頼について話がある」

 クナラは受付嬢にそう言ってギルドマスターを呼び出そうとする。

「え? クナラさん。いつこちらの街に帰って来られたのですか?」

「二日前だが、そんな事はどうでもいい。俺の娘に無理な量のポーション調薬の依頼を出した理由わけを聞きたいと思ってな、返答しだいではこの街から錬金調薬師がひとり減ることになるが」

「少々お待ちください。すぐにギルドマスターに聞いて来ます」

 受付嬢はそう言ってから慌ててギルドマスターの執務室へと走った。

 数分後、先ほどの受付嬢が戻ってきて結果を話す。

「ギルドマスターがお会いになられるそうです。申し訳ありませんが執務室へお願い出来ますでしょうか?」

「わかった」

 クナラはそう言うとギルドマスターの執務室へと向かう。

「クナラ様をお連れしました」

 先導した受付嬢がギルドマスター室の前で声をかけると中から入るように返事が返ってきた。

「失礼する」

 クナラはそう言ってドアを開けるとためらいも無く部屋へと入って行った。

「久しぶりだな。街を出たと聞いていたが元気だったか?」

 ギルドマスターはクナラの姿を見るとそう話しかける。

「世間話をしに来たわけでは無いことはわかっているよな?」

 クナラはそう言いながらギルドマスターの前に立つ。

「まあ、少し落ち着いて話そうではないか。まず座ってくれ」

 ギルドマスターはクナラにそう言ってから職員に香茶を出すように指示をする。

「茶など飲んでいる暇はないのだがな。まあいい、理由を聞かせてもらおうか」

 部屋に入って来た時から今にも襲いかかりそうな圧を出しながらクナラがそう問う。

「まず、厳しい納期での依頼を出した事に関してはすまないと思っている。だが、こちらの立場も理解して欲しいのだ。今年は例年より早くに流行り風邪が蔓延しそうな気配がある。そこに初期とはいえ抑え込める可能性のあるポーションがあれば皆殺到するのは仕方ないと思わないか?」

「それにしてもサクラはまだ未熟な調薬師だ。無理をさせれば倒れる可能性もあるのはわかっていたはずだ」

「それは理解している。だから一応の納期は設定したが遅れたとてペナルティを課すつもりは無かった」

「それはサクラには言ったのか?」

「いや、出来るだけ早くに頼むと依頼をした」

「ならば、やはりギルドの……いやアンタの落ち度になるな」

 クナラはさらに圧をかけながらギルドマスターに凄む。

「わかった、わかった。本当にすまなかったと思っている。現状で出来ている数だけで今回は依頼の達成とするから怒りを抑えてくれ」

 クナラの圧にギルドマスターが慌てて条件を変えた。

「ポーションは全て揃っている。百で間違いないな?」

「あ、ああ。間違いないが本当に出来ているのか? いったいどうやって間に合わせたんだ?」

「ああ。俺が少しばかり手伝っただけだ。だが、報酬は娘にやってくれ。それと今後は無茶な数の依頼を出さないようにしてくれればいい」

「それは構わないがアンタはそれで良いのか?」

「娘が頑張って受けた依頼だからな。それよりも俺からひとつ頼みがあるんだがもちろん聞いてくれるよな?」

 ポーションの話が一段落した事でクナラが少し落ち着きを取り戻したところに頼み事を話し始める。

「なんだ? 昔からアンタのお願いはとんでもないものが多かったからな。今度はなんだ? 久しぶりに帰って来た事に関係してるのか?」

 ギルドマスターは苦笑いをしながらそう問いかける。

「実はな……」

 クナラはそう前置きをしてから要望をあげていった。

 ◇◇◇

「――とりあえずポーションの状態を確認するわ」

 私はたった一日で作り上げたとされる追加の五十本のポーションの品質が気になっていた。

「ロイル、薬品鑑定装置を準備してちょうだい」

「わかりました」

 ロイルはそう返事をすると鑑定装置と父親の作ったポーションの準備をしてくれた。

「だいたい予想はつくんだけどね」

 私はそう呟きながら装置にポーションを一滴垂らして結果を確認する。

【風邪の特効薬:中品質】

「あれ? 品質が中になってるわ。てっきり高品質だと思ってたんだけど違うのね」

「それは今回の依頼に求められていた品種が中品質以上だったからです。品質を上げると使う精神力も多く必要になりますし、高品質だからといって報酬が上がることもありませんから」

「そういうことなのね」

 ロイルの説明を聞いて私は父の作ったポーションを手にそう言った。

「いろいろ思うところはあるけど依頼はちゃんと報告して完了だからね。明日はギルドに納品を行くわ」

「私も同席いたしましょうか? お嬢様が倒れられていた情報はお父様がギルドに報告しているでしょうから報酬の配分などの話があるかもしれませんので」

「うーん。まあ、私ひとりでも大丈夫よ。きちんと説明して半分は父に渡すように伝えるから」

「そうですね。それがよろしいかと思います。お嬢様も新人とはいえ一人前の調薬師なのですから父親とはいえ他人の調薬したもので報酬を受け取るのはお嬢様のためになりませんから」

 ロイルはそう私に言って微笑みかけてくれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

追放魔族のまったり生活

未羊
ファンタジー
魔族の屋敷で働いていたメイド魔族は、突如として屋敷を追い出される。 途方に暮れてさまよっていた森の中で、不思議な屋敷を見つけた魔族の少女。 それまでのつらい過去を振り払うように、その屋敷を拠点としてのんびりとした生活を始めたのだった。 ※毎日22時更新を予定しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ
ファンタジー
お転婆娘のセネカは英雄に憧れているが、授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 幼馴染のルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会に引き取られていった。 失意に沈むセネカに心ない言葉をかけてくる者もいた。 「ハズレスキルだったのに、まだ冒険者になるつもりなのか?」 だけどセネカは挫けない。自分のスキルを信じてひたすらに努力を重ねる。 布や皮は当たり前、空気や意識に至るまでなんだって縫ってゆく。 頑張っているうちにいつしか仲間が増えて、スキルの使い方も分かってきた。 セネカは創意工夫を重ねてどんどん強くなっていく。 幼馴染と冒険の旅に出る日を夢見ながらひたすらに己を鍛え上げていく。 魔物から村を守るために命を賭した両親のような英雄になることを目指してセネカは走り続ける。 「私のスキルは【縫う】。  ハズレだと言われたけれど、努力で当たりにしてきた」 これは一途にスキルを磨き、英雄となった少女の物語

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...