病原菌鑑定スキルを極めたら神ポーション出来ちゃいました

夢幻の翼

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第7話 治療薬の納品と新たな依頼

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「ただいまー」

「お帰りなさいませ。話はうまく纏まりましたか?」

 工房に帰るとロイルがそう聞いてくる。

「ちょっと予定よりも納期が短いけど概ね予想どおりね」

「いつまでに何本でした?」

「十日後に百本ね」

「失敗なく調薬しても決して余裕のある日数ではありませんね。すぐに取り掛かられますか?」

「ええ。去年作った薬だからレシピもあるし大丈夫だと思う」

「分かりました。では素材の準備は私が致しますのでお嬢様は着替えてきてくださいね」

 ロイルはそう言うと素材置き場のある部屋へと籠を抱えて入って行った。

 ――十分後。

「それじゃあ、先ずは一本作ってみるわね」

 私はそう言うとロイルが先に仕分けてくれていた素材をひとつずつ丁寧に粉砕していった。

「――出来たわ。やっぱり去年作ったレシピだからまだ手順を憶えてたわね」

 出来上がった薬を瓶に移し替えながら私はそう呟く。

「この調子で今日のノルマを達成してしまうわよ」

 私は自分にそう言い聞かせながら二本目のポーション作成に取り掛かった。

 その後もポーションの作成は順調に進み、精神力(魔力)が尽きる前には予定数の十本を作り上げる事が出来ていた。

「ふう、今日はもう限界。やっぱりまだまだ精神力が足りないわね。もっと成長しなくちゃいけないわね」

「いえいえ、お嬢様は良くやられていると思いますよ。さあ、しっかりと食事を摂られて休んでください。また明日も明後日も暫くは毎日作らなければいけないのですから」

 完成したポーションを前に私がそう呟くのをロイルが労いの言葉と共に現実を突きつけてくる。

「わかっているわよ。今はこんなだけど直ぐにバンバンポーションを作れるようになってみせるわ」

 ロイルの出してくれた食事をつつきながら私は彼女にそう宣言したのだった。

 ――それから十日間はゆっくりお風呂に入る余裕もないくらいにぐったりと疲れ果てていた私だが最後の一本が完成した瞬間、それまでの疲れが嘘のように飛んでいった。

「終わったぁ!! やっとゆっくり寝れるわ!」

 その叫びにロイルは優しく微笑むと「本当にお疲れ様でした。ゆっくりとお風呂に入って今日はお休みください」と労ってくれる。

「ええ、そうさせてもらうわね。明日のお昼にギルドへ納品するから馬車の手配をしておいてちょうだい」

「わかりました」

 私は極度の疲労と間に合った安心感に結局お風呂に入る余裕もなくベッドへ倒れ込んたのだった。

 ◇◇◇

「依頼のポーションを納品に来ました。ギルドマスターをお願いします」

 次の日、予定通りにポーションの納品に来た私はギルドマスターに直接渡すことにして面会を求めた。

「ああ、サクラ君。待っていたんだよ。ちょうど私からも話があったんだ」

 ギルドマスターは顔を見せた途端にそう言って私を執務室へと招き入れる。

「――確かにポーション百本の納品を確認した。ありがとう」

 ギルドマスターはそう言って依頼完了のサインをくれた。

「ありがとうございます。何とか納期を守れてほっとしています。ところでお話とはなんでしょうか?」

 無事に納品した私はギルドマスターからの話は流行した風邪の特効薬の開発のことだろうと予想しながら話を聞く。

「いや、それがな。今年は思ったよりも患者が多くて正直ポーションが全く足りていないんだよ。もちろんこの百本はすぐに各店に配分されるのだが本格的に流行る前にもう百本ほどなんとかならないだろうか?」

「もう百ですか? の、納期はいつでしょうか?」

「一日でも早い方がいいのだが出来れば一週間で頼みたい。素材の在庫はある、報酬も上乗せをするから頼む!」

 正直、無理と言いたかったがまだまだ駆け出しの私を頼ってくれるギルドマスターからの依頼を無下にする事は私には出来なかった。

「確約は出来ませんが精一杯努力してみます」

「すまない、頼む」

 ギルドマスターはそう言って何度も私に頭を下げてきた。

「私は一足先に工房に戻りますので素材の運搬はお願いします」

 私はギルドマスターにそう伝えると急いで工房へと戻った。

「お帰りなさいませ。納品は無事に済みましたか?」

 工房へ戻るとロイルがそう言って出迎えてくれるが余裕の無かった私は「ええ」とだけ言ってすぐに調薬室へと向かう。

「どうされたのですか? まさか不備があって返品、作り直しとかがあったのですか? 全品検査をしていったのに?」

 私の様子からロイルがそう判断して慌てて記録用紙に目を通しなおす。

「心配しないで。納品したポーションに不備は無かったから」

「なら、なぜまた同じ調薬用の素材準備をしているのですか? いったい何があったのですか?」

 焦って心あらずの状態にロイルが心配して私の肩に手を置き、じっと目を見ながら話しかけてくれる。

「もう百本ほど追加でポーションが必要だと言われたの」

 ロイルの気迫に押されて私はギルドで言われた依頼について話し始めた。

「なんですかそれ!? 十日で百ポーションでもギリギリだったのに今度は七日で百本とか無理に決まってるじゃないですか! なぜ断らなかったのですか!?」

「大丈夫。もう少し効率を上げればきっと間に合うわ」

 なんの根拠もない。ただの希望的観測だ。

「とにかく。後で追加の素材がギルドから届くから整理して棚に並べて頂戴。まずはやれることをやる、それが錬金調薬師としての私の信念よ」

 私は自分にそう言い聞かせながら調薬作業に集中した。
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