上 下
4 / 15

第4話 帰還報告とロイルの料理

しおりを挟む
 街道に出た私たちはその後、無事に街へとたどり着くとダリは門の詰所で報告を済ませる。

「よう、どうだった? 必要な素材は手に入ったか?」

 詰所では報告書を受けつける係の者がそう私に聞いてくる。

「あ、はい。一応ですが必要なものは手に入ったと思います。ただ……」

「お? どうした? まさかダリに何かされたとか無いだろうな?」

「おいおい、待ってくれ。俺が嬢ちゃん相手にそんな事をするはずが無いだろう。そんな話が妻にちょっとでも伝わったら俺は帰る家を失う事になるぞ」

「はっはっは、冗談だ冗談。それよりも本当に何かあったのか?」

 係の男性は先ほどの冗談混じりの表情でなく、真剣な表情でそう確認をしてきた。

「えっと、ダリさんからも報告が上がると思いますが、湖畔までの道程では殆ど獣と遭遇しませんでした」

「それは本当か?」

 男性はダリの方を見て確認をする。

「ああ、本当だ。角ウサギ一匹さえも遭遇しなかった。そして湖畔で異様に育った大蛙に襲われた」

「大蛙? まあ確かに湖畔では数は少ないが目撃情報は上がっているが異様に育った個体だと?」

「ああ、普通の大蛙はせいぜいが体長五十センチ程度だが、アイツは目測で二メートル近くあったぞ」

「はぁ!? 二メートルだって? そんな個体の目撃情報は聞いたことないぞ」

 男性の声が大きくなった事により周りに居た他の者達が集まってくる。

「なんだなんだ? 化け物クラスの大蛙だって? それでそいつはどうした? まだ湖畔に居るのか?」

「いや、確認出来たのは一匹だけでソイツは倒して来たから大丈夫だ。そして大量の肉がある」

「なんだと!? 俺たちの分け前はあるんだろうな?」

 肉と言われて男達は目の色を変えてダリに迫る。

「無くはないが、倒したのは俺だ。それ相応の対価は貰うぞ」

「ちっ、仕方ねぇな。今日の飲み代でチャラにしてくれよ」

「ばかやろう。そんなに飲めるか! あと、最上部位は俺が貰うからな」

 ダリとその同僚達は本当に楽しそうに仕事上がりの事を話す。

「嬢ちゃんも一緒に行くか?」

 ダリは私も肉パーティーに誘ってくれるが私は「いえ、工房にはロイルも居ますし、私も多少なりとも確保していますので」と自前の魔導鞄をポンポンと叩いて笑いかけた。

「そうか。まあ、嬢ちゃんが来たらうちの若いもんがうるさくてゆっくり食べてられないだろうからな。また何かあったら言ってくれ、出来る事ならまた協力させてもらうから」

「ありがとうございます。その時は宜しくお願いしますね」

 私はそう言ってお辞儀をすると詰め所を出て工房へと歩いて帰った。

 ◇◇◇

「ただいまー」

 工房のドアを開けるとそう言いながら自らの部屋に向かう。

「あ、サクラお嬢様。おかえりなさいませ。本日の採取状況はいかがでしたか?」

「うん。一応だけど必要な素材は手に入れたわ。それよりも……」

 私はそう言ってロイルを連れて厨房へと向かう。

「サクラお嬢様、厨房で何をされるのですか?」

 いきなり厨房に連れて来られたロイルは首を傾げながら私にそう問いかけてきた。

「んふふ。実は素材の採取中に出た大蛙を護衛のダリさんが仕留めてくれたんだけど、解体をして素材をとった後のお肉を二人で分けたの。それで私も魔導鞄に入るだけ持って帰って来たから調理して一緒に食べない?」

「大蛙の肉ですか。それはまた貴重なものを手に入れられましたね。大蛙は警戒心も強いのでなかなか捕まえられないので肉もそれほど流通してませんから」

「でしょ? 焼いても良いし揚げても美味しいって聞いたけどどうしよっか?」

「そうですね、唐揚げが良いかと思います。直ぐに準備をしますのでお待ちください」

 ロイルはそう言うとお肉を持って厨房へと向かいながら私に声をかけた。

「すみませんがサクラお嬢様はこのお肉をぶつ切りにしておいてもらえますか?」

 ロイルはまな板の上にお肉を置くと包丁を添えて数個ほど見本を切ってから私に包丁を手渡した。

「私は衣ようのパン粉と油の準備をしますので切り分けたらそこの容器に入れておいてください」

 ロイルは私にそう指示をするとテキパキと自分のことをこなし始める。

 私は渡された包丁を手に言われたとおりにお肉をぶつ切りにしていった。

 ◇◇◇

「――あとはこれを油で揚げれば完成です」

 私がゆっくりと切り分けている間にロイルはその他の準備を終えており切り終わったものから次々に油に投下していった。

 ――じゅわっ。

 油の中で弾けるような音が響いてふつふつと細かい泡が衣のついたお肉の周りに纏わりついていく。

「いい感じに揚がりそうですね」

「本当。早く食べてみたいわね」

 唐揚げ自体は当然ながらふたりとも食べた事はあるが大蛙の唐揚げは初めてだったのでどんな味になるのか楽しみでじっと揚がるのをみて笑みがこぼれる。

 やがて衣の色がキツネ色に染まり良く揚がったのを確認したロイルはさっと油切りの上に出来たばかりの唐揚げを並べていった。

「さっそく試食をしてみましょうか」

 どうみてもアツアツの状態だったが食欲と好奇心には勝てずに私は唐揚げをひとつフォークに突き刺してから一口かじる。

「熱っ! でも美味しい!」

 当然ながら熱い油の洗礼を受けた私だったが予想を越えたジューシーさに思わず声が出ていた。

「――これは売れるわね」

 思わずこぼれたその言葉にロイルが苦笑いをしながら「食堂でも開店しますか?」と冗談を言う。

「あはは。まず、食材がまともに仕入れられないわよ。大蛙なんて私じゃとても倒せないから毎回ギルドに発注してたら高いものになるわよ」

 私は初めての味に笑みを浮かべながらそう返したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜

藤花スイ
ファンタジー
お転婆娘のセネカは英雄に憧れているが、授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。 幼馴染のルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会に引き取られていった。 失意に沈むセネカに心ない言葉をかけてくる者もいた。 「ハズレスキルだったのに、まだ冒険者になるつもりなのか?」 だけどセネカは挫けない。自分のスキルを信じてひたすらに努力を重ねる。 布や皮は当たり前、空気や意識に至るまでなんだって縫ってゆく。 頑張っているうちにいつしか仲間が増えて、スキルの使い方も分かってきた。 セネカは創意工夫を重ねてどんどん強くなっていく。 幼馴染と冒険の旅に出る日を夢見ながらひたすらに己を鍛え上げていく。 魔物から村を守るために命を賭した両親のような英雄になることを目指してセネカは走り続ける。 「私のスキルは【縫う】。  ハズレだと言われたけれど、努力で当たりにしてきた」 これは一途にスキルを磨き、英雄となった少女の物語

転生農家の俺、賢者の遺産を手に入れたので帝国を揺るがす大発明を連発する

昼から山猫
ファンタジー
地方農村に生まれたグレンは、前世はただの会社員だった転生者。特別な力はないが、ある日、村外れの洞窟で古代賢者の秘蔵書庫を発見。そこには世界を変える魔法理論や失われた工学が眠っていた。 グレンは農村の暮らしを少しでも良くするため、古代技術を応用し、便利な道具や魔法道具を続々と開発。村は繁栄し、噂は隣領や都市まで広がる。 しかし、帝国の魔術師団がその力を独占しようとグレンを狙い始める。領主達の思惑、帝国の陰謀、動き出す反乱軍。知恵と工夫で世界を変えたグレンは、これから巻き起こる激動にどう立ち向かうのか。 田舎者が賢者の遺産で世界へ挑む物語。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

処理中です...