2 / 15
第2話 お仕事斡旋ギルド
しおりを挟む
工房を出た私はいつもの所に向かう。
――からんからん。
小気味良いドア鐘の音に気分を貰いながら私は奥のカウンターへと足を向け、そこに居る女性へと言葉をかける。
ここはトウトウの街にあるお仕事斡旋ギルドでポーションなどの納品依頼もここから注文されるのがほとんどだった。
「ユリアーナさん。何か新しい依頼は入ってないですか?」
「あら、サクラちゃん。今日はゆっくりなのね。でも、せっかく来て貰って悪いんだけど今日は新しい依頼はないのよ」
カウンターに居た綺麗なお姉さんは残念そうな表情で私にそう教えてくれる。
「そうですか。なら今日は薬草の採取に行こうと思ってるから何か依頼があったら工房のロイルに伝えてくださいね」
「わかりました。何かあればそうさせて貰いますね」
マリアーナの返事を聞いた私は片手をあげて「じゃあ」と言ってお店を出た。
(まあ、そんな都合よく依頼が入っていることは少ないわよね。それよりもあれだけ失敗しちゃったから中級ポーションの材料を集めておかないと絶対に足りなくなるわよね)
私は採取用の肩がけ魔導鞄を揺らしながら少し早足で北の門へと急いだ。
「すみません。タポポの森に薬草採取に行きたいのですが手の空いている方は居ますか?」
「なんだ、今からか?」
「ちょうど暇してたんだ。俺が行こうか?」
「まあ待て、今回は俺に任せろ」
門の傍にある詰所にそう声をかけると直ぐに数人から声が返ってくる。
その中に私が良く護衛を依頼する男性の姿を見つけると私はニコリと笑って彼に声をかけた。
「じゃあ、今回もダリさんにお願い出来ますか?」
「ん? また俺で良いのか? 俺見たいなオッサンじゃなくても元気のいい若いもんが手を上げてるようだが……」
私が選んだダリという男性は青年の枠を少しばかり過ぎた壮年の渋い男性で今まで何度か護衛依頼を頼んだが、とても紳士的で好感が持てる振る舞いをする人だった。
もちろん妻子持ちであることからそちら方面でも余計な心配をしなくて済む事から良く指名をさせて貰っていたのだ。
「ダリさんは薬草の知識もあって採取護衛としては凄くありがたいのですよ」
私は彼を指名した理由を話すと護衛依頼書を彼の前に差し出した。
「周りの視線が少々痛いが指名されたのなら仕方ないな。いいぞ、これから直ぐに出るんだったな?」
ダリはそう言って依頼書にサインをすると通常の装備に採取用の魔導鞄を追加で持つと私と共に北門を出た。
「――今日のメインは何だ?」
目的の場所へ歩く傍らでダリが私にそう聞いてくる。
「ヒーリング草とアカネバの花ですね。どちらもタポポの森の湖の畔に生息している素材ですね」
「中級ポーションか……。最近はあまり需要が無いんじゃないか?」
「まあ……そうですね。この街にも治癒士の方が幾人か病院を開いていますからね。症状に特化したポーションよりも汎用性のある治癒魔法を頼りたくなる気持ちは分かりますよ」
「だが、魔法での治療費は決して安くない上に病人を動かせない時には往診をして貰わなくてはならないが、そもそも治癒士が足りない状態では来てくれる保証もない。そんな時はやはりポーションに頼らざるを得ないと俺は思うがな」
「ふふっ。気を使ってくれてありがとうございます。まあ、私もまだまだ見習いに毛が生えた程度の実力しかありませんので期待に応えられるように精進していかないと駄目ですね」
「いや、嬢ちゃん頑張ってると思うぞ。お母さんに不幸があってお父さんがあんな事になったというのに立派に工房を廻しているのだからな」
「ありがとうございます。またまだ周りに助けられてばかりですけどね」
ダリとはもう何度も素材採取に付き合って貰っているのでこういった話も出来る間柄で非常にありがたい存在として感謝していた。
「お、そろそろ森に入るが湖の畔で良いんだな?」
「はい。宜しくお願いします」
街から森へはそれなりの道が通っており、森の入口付近までは馬車も通れるくらいには整備されていた。
「今日は珍しく一匹の獣とも遭遇しませんね」
「そうだな。大抵は角ウサギか尾長狼あたりが出てくるんだがな」
大抵、湖の畔まで素材採取に向かうと数回は獣などと遭遇することが多い。その為、わざわざお金を支払って護衛を雇う必要があるのだ。
「まさか大物が潜んでいるから出て来ないって事はないですよね?」
「それは可能性としては低いとは思うが念のため気を引き締めて進むとしよう」
ダリはそう言って腰の剣に手を添えた。
◇◇◇
それから進むこと半刻ほどして目的地である湖の畔へと私たちはたどり着いていた。
「結局、何とも遭遇しませんでしたね」
目的の場所にたどり着いた私はすぐに素材の収集へと動き出す。
「あまり離れてくれるなよ。いざという時に守れなくなるからな」
「分かっています。場所移動をする時は必ず声をかけるようにしますね」
私はそう言って彼の視界から出ない範囲で素材収集を再開する。
「あ、珍しい。オトナリ草がある!」
目的の素材であるヒーリング草とアカネバの花はすぐに見つかったのだが、もう少しだけど希少価値の高いオトナリ草が見つかったことでテンションが爆上がりとなり彼の注意した事を失念していた。
――からんからん。
小気味良いドア鐘の音に気分を貰いながら私は奥のカウンターへと足を向け、そこに居る女性へと言葉をかける。
ここはトウトウの街にあるお仕事斡旋ギルドでポーションなどの納品依頼もここから注文されるのがほとんどだった。
「ユリアーナさん。何か新しい依頼は入ってないですか?」
「あら、サクラちゃん。今日はゆっくりなのね。でも、せっかく来て貰って悪いんだけど今日は新しい依頼はないのよ」
カウンターに居た綺麗なお姉さんは残念そうな表情で私にそう教えてくれる。
「そうですか。なら今日は薬草の採取に行こうと思ってるから何か依頼があったら工房のロイルに伝えてくださいね」
「わかりました。何かあればそうさせて貰いますね」
マリアーナの返事を聞いた私は片手をあげて「じゃあ」と言ってお店を出た。
(まあ、そんな都合よく依頼が入っていることは少ないわよね。それよりもあれだけ失敗しちゃったから中級ポーションの材料を集めておかないと絶対に足りなくなるわよね)
私は採取用の肩がけ魔導鞄を揺らしながら少し早足で北の門へと急いだ。
「すみません。タポポの森に薬草採取に行きたいのですが手の空いている方は居ますか?」
「なんだ、今からか?」
「ちょうど暇してたんだ。俺が行こうか?」
「まあ待て、今回は俺に任せろ」
門の傍にある詰所にそう声をかけると直ぐに数人から声が返ってくる。
その中に私が良く護衛を依頼する男性の姿を見つけると私はニコリと笑って彼に声をかけた。
「じゃあ、今回もダリさんにお願い出来ますか?」
「ん? また俺で良いのか? 俺見たいなオッサンじゃなくても元気のいい若いもんが手を上げてるようだが……」
私が選んだダリという男性は青年の枠を少しばかり過ぎた壮年の渋い男性で今まで何度か護衛依頼を頼んだが、とても紳士的で好感が持てる振る舞いをする人だった。
もちろん妻子持ちであることからそちら方面でも余計な心配をしなくて済む事から良く指名をさせて貰っていたのだ。
「ダリさんは薬草の知識もあって採取護衛としては凄くありがたいのですよ」
私は彼を指名した理由を話すと護衛依頼書を彼の前に差し出した。
「周りの視線が少々痛いが指名されたのなら仕方ないな。いいぞ、これから直ぐに出るんだったな?」
ダリはそう言って依頼書にサインをすると通常の装備に採取用の魔導鞄を追加で持つと私と共に北門を出た。
「――今日のメインは何だ?」
目的の場所へ歩く傍らでダリが私にそう聞いてくる。
「ヒーリング草とアカネバの花ですね。どちらもタポポの森の湖の畔に生息している素材ですね」
「中級ポーションか……。最近はあまり需要が無いんじゃないか?」
「まあ……そうですね。この街にも治癒士の方が幾人か病院を開いていますからね。症状に特化したポーションよりも汎用性のある治癒魔法を頼りたくなる気持ちは分かりますよ」
「だが、魔法での治療費は決して安くない上に病人を動かせない時には往診をして貰わなくてはならないが、そもそも治癒士が足りない状態では来てくれる保証もない。そんな時はやはりポーションに頼らざるを得ないと俺は思うがな」
「ふふっ。気を使ってくれてありがとうございます。まあ、私もまだまだ見習いに毛が生えた程度の実力しかありませんので期待に応えられるように精進していかないと駄目ですね」
「いや、嬢ちゃん頑張ってると思うぞ。お母さんに不幸があってお父さんがあんな事になったというのに立派に工房を廻しているのだからな」
「ありがとうございます。またまだ周りに助けられてばかりですけどね」
ダリとはもう何度も素材採取に付き合って貰っているのでこういった話も出来る間柄で非常にありがたい存在として感謝していた。
「お、そろそろ森に入るが湖の畔で良いんだな?」
「はい。宜しくお願いします」
街から森へはそれなりの道が通っており、森の入口付近までは馬車も通れるくらいには整備されていた。
「今日は珍しく一匹の獣とも遭遇しませんね」
「そうだな。大抵は角ウサギか尾長狼あたりが出てくるんだがな」
大抵、湖の畔まで素材採取に向かうと数回は獣などと遭遇することが多い。その為、わざわざお金を支払って護衛を雇う必要があるのだ。
「まさか大物が潜んでいるから出て来ないって事はないですよね?」
「それは可能性としては低いとは思うが念のため気を引き締めて進むとしよう」
ダリはそう言って腰の剣に手を添えた。
◇◇◇
それから進むこと半刻ほどして目的地である湖の畔へと私たちはたどり着いていた。
「結局、何とも遭遇しませんでしたね」
目的の場所にたどり着いた私はすぐに素材の収集へと動き出す。
「あまり離れてくれるなよ。いざという時に守れなくなるからな」
「分かっています。場所移動をする時は必ず声をかけるようにしますね」
私はそう言って彼の視界から出ない範囲で素材収集を再開する。
「あ、珍しい。オトナリ草がある!」
目的の素材であるヒーリング草とアカネバの花はすぐに見つかったのだが、もう少しだけど希少価値の高いオトナリ草が見つかったことでテンションが爆上がりとなり彼の注意した事を失念していた。
24
お気に入りに追加
140
あなたにおすすめの小説
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
黒猫な俺の異世界生活とおっさんな俺の現代生活が楽しくてたまらない!
TB
ファンタジー
奥田俊樹(42歳)バツイチ子供一人(親権は元嫁)
父が亡くなり、実家の倉庫を整理していると、見慣れない地下室があるのを発見した。
興味本位で降りてみると……
どうなる俺?
いつでも戻れる系ファンタジー作品です。
◇◆◇◆
この物語は、あくまでも作者の妄想作品ですので、現実と似た感じがしても架空のお話ですので、激しい突っ込みはご勘弁ください。
作中では推敲大事と言っておきながら、本作品はあまり推敲が為されておりません。
誤字脱字等ございましたら、報告よろしくお願いいたします。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
【完結】 元魔王な兄と勇者な妹 (多視点オムニバス短編)
津籠睦月
ファンタジー
<あらすじ>
世界を救った元勇者を父、元賢者を母として育った少年は、魔法のコントロールがド下手な「ちょっと残念な子」と見なされながらも、最愛の妹とともに平穏な日々を送っていた。
しかしある日、魔王の片腕を名乗るコウモリが現れ、真実を告げる。
勇者たちは魔王を倒してはおらず、禁断の魔法で赤ん坊に戻しただけなのだと。そして彼こそが、その魔王なのだと…。
<小説の仕様>
ひとつのファンタジー世界を、1話ごとに、別々のキャラの視点で語る一人称オムニバスです(プロローグ(0.)のみ三人称)。
短編のため、大がかりな結末はありません。あるのは伏線回収のみ。
R15は、(直接表現や詳細な描写はありませんが)そういうシーンがあるため(←父母世代の話のみ)。
全体的に「ほのぼの(?)」ですが(ハードな展開はありません)、「誰の視点か」によりシリアス色が濃かったりコメディ色が濃かったり、雰囲気がだいぶ違います(父母世代は基本シリアス、子ども世代&猫はコメディ色強め)。
プロローグ含め全6話で完結です。
各話タイトルで誰の視点なのかを表しています。ラインナップは以下の通りです。
0.そして勇者は父になる(シリアス)
1.元魔王な兄(コメディ寄り)
2.元勇者な父(シリアス寄り)
3.元賢者な母(シリアス…?)
4.元魔王の片腕な飼い猫(コメディ寄り)
5.勇者な妹(兄への愛のみ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる