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第2話 神様候補、親切な女性と巡り会う

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「――それでどんな事を聞きたいのですか?」

 そこは少し広めの喫茶店でビジネスマンが商談や打ち合わせに使えるようにと席にパーテーションが切ってあるお店でお互いに飲み物を注文したあとで彼女からそうきりだしてくれる。

「人の幸せとは何なのでしょうか?」

 青年は単刀直入にそう告げる。

「何か辛いことでもありましたか?」

 彼女は僕の質問には答えずにそう返した。

「なぜそう思うのですか?」

「人に『幸せとは何か』を聞くのは自分が幸せではないと自覚しているからだと思います。人の幸せはその人にしかわからないもので他人が決めるものではないと思うからです」

 見た目にはか弱そうな彼女だったがしっかりと僕の目をみて話す態度に最初に会ったときの印象は真逆に感じられた。

「なるほど、そういうものなのですね。しかし困りましたね」

「どうかされたのですか?」

「実は僕はこの世界ではないところの神候補なんです。そして今は本当の神になるための最終試験のためにここにいるのですがその試験内容が『ひとりの人間を幸せにすること』で、今の答えだと人によって幸せのゴールは違うのですよね?そんなものどうやって達成すれば良いかわからなくなりました」

「神候補……ってそんな冗談を言われても困ります」

「冗談ではないのですが、確かに信じられないのも無理はないです。この世界では神は目に見えない尊い存在であがたてまつることで自らの気持ちの中に神を宿らせるんでしたよね。前にこの世界を管理する神様からそう話を聞きましたので理解はしています」

「本当に大丈夫ですか? なにか危ない薬をやっていたりして幻覚症状があるとかはないですか?」

 僕の話に恐怖をおぼえたか彼女はあからさまに警戒心を見せ、いつでも席を立てるようにと身構えた。

「そう身構えなくても大丈夫ですよ。僕があなたに危害を加えることは絶対にありませんから。それより話を聞いてくれたお礼にあなたの望みをひとつ叶えてあげましょう」

「え、遠慮しておきます。失礼しますね」

 ついにそう言って席を立ちあがった彼女だったが、ふと何かを思い出したように固まると手をギュッと握りしめて椅子に座りなおした。

「望みはなんでも良いのですか?」

「はい。なんでもどうぞ」

「なにか代償的なものは無いのですか?」

「いえ、特にありませんよ」

「ならば――」

 そう言いかけて彼女は「――やっぱりいいです」と話すのをやめた。

「どうされました? 良いのですか? 妹さんの病気を治して欲しいのではないのですか?」

「どうしてそれを!?」

 僕の言葉に彼女は驚き思わずそう叫んでいた。

 ザワザワザワ――。

「ああ、申し訳ありません。少しばかり声が大きかったようですが彼女がびっくりされただけで特に問題はありませんのでご容赦ください」

 周りの席に座っているひとに向けて僕がそう言うと何事もなかったようにあたりは静まった。

「答えてください。そのことはどこで知ったのですか? 私を信じさせるために探偵に調査させたのではないですか?」

 目の前の現実が理解できない彼女は思いつく限りの仮の話を僕に問いかける。

「出会ったばかりでしかもあなたの方から声をかけてくれたのですよ? そのような行為は無理だと思うのですが」

「ならばどうして?」

「僕が神様だからですよ。もっともまだ候補こうほですけどね」

 僕はそう言って優しく微笑んだ。

「――何が望みなのですか? 私の何が欲しいのですか?」

 僕の言動に目の前の彼女は笑顔も見せずにただ下を向いてつぶやくように言う。

「先ほども言いましたがなにも要りませんよ。僕はただ話を聞いてくれたあなたに感謝してそのお礼をしたいと考えただけです。それに、僕はすでに望みに事足りるものを頂いていますので」

「そんなわけないじゃない! ただ話を聞いただけ、それもあなたの話をありえないものだと決めつけた私にそんな権利なんてあるわけないわ」

 なおも食い下がる彼女に僕は「ならば」と条件をだした。

「まず、あなたの大切な妹さんの病気を治しましょう。それを確認できたらあなたは僕の試験につきあってください。
 期限は……そうですね、僕が試験に合格できる条件が揃うまででいかがですか?」

「本当に妹の病気が治るならばそのくらいのことなんでもないわ」

「ふむ。では契約成立ですね」

 僕はそう言って彼女に手を出すように伝え、その手を握りしめてから彼女に告げた。

「病気の妹さんのことをしっかりと思い出してください。どのような病気であろうとも治って欲しいと祈りを込めて妹さんの名前を呼んでください」

 僕の言葉にうなずいた彼女は言われたとおりに目をつむって意識を集中させてつぶやいた。

「お願い、どうか治って――マナ」

 彼女がそうつぶやいた瞬間、スマートフォンのコールが鳴りその音に我に返った彼女は慌ててスマートフォンの画面を確認してフリックする。

「もしもし……」

 それは母親からの電話であり、画面の表示を見る彼女の表情は青ざめ覚悟を決めたようにもみえた。

「お母さんどうしたの? まさか、マナが……」

 彼女の口からはそれ以降の言葉をどうしても発することができない。

「マナが、マナが……」

 電話口の母親も泣いて話がうまく伝わらない。

「お母さん、泣いてちゃ分からないわ! マナがどうしたの!?」

 期待と絶望が入り交じる中で彼女が聞いた言葉は到底信じることができない言葉だった。

「マナが目を覚ましたの。もう3年間も目を覚まさなかったマナが……」

 電話口の向こうで泣きじゃくる母親の声に呆然ぼうぜんとしながら彼女は僕のほうを見る。

「望みはかないましたか?」

 僕がそう言って微笑むと彼女の顔がくしゃくしゃに崩れて目から大粒の涙を流しはじめた。

「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます」

 彼女は涙を拭こうともせずに握っていた僕の手を強く握りしめて何度もお礼を言った。
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