上 下
109 / 120

第109話【交渉成立と酒豪決闘の結果】

しおりを挟む
「これはどういった食べ物と相性が良いのですかな?」

「まあ、いろいろな物にあわせることが出来ますからそれはそちらで試して貰えると良いかと思いますよ。
 それで先程の条件でよろしいですかね?」

「ああ、お互いの勝利条件と代理決闘を認める件だな?
 分かった。それでいいのでその調味料を試させてくれ!」

「ありがとうございます。
 では日時は明日の夕刻の鐘。
 場所はギルドの酒場にてお願いします。
 では、このマヨネーズはお譲りしますので頑張って新しいメニューを考えてくださいね。
 では本日はお食事のご招待ありがとうございました」

 僕達は一応食事のお礼を伝えるとカクレンガから工房へと帰路についた。

「ごめんなさい。
 なんだか事が大きくなってしまって。
 でも大丈夫なんですか?酒豪決闘ってかなりのお酒を飲むみたいですけど、誰か強い人に知り合いが居るのですか?」

 クーレリアは不安そうな顔で僕の顔を覗き込んできたが、僕はなんでもないかのように答えた。

「ああ、クーレリアの事だったのに僕が勝手に話を進めたことは申し訳ないと思ってるよ。
 でも負ける要素は皆無だから安心していいよ。
 こっちは僕が出るつもりだけど、もし向こうが女性でないと駄目だと言われればエスカに頼もうと思ってるよ。
 彼女は僕と引き分けた実績があるからね」

 僕の言葉に目を丸くするクーレリアだったが笑顔になり「ありがとうございます」と言って頭を下げた。

 ーーー次の日の夕刻時、ギルドで恒例の酒豪決闘の準備が行われていた。
 証人ギャラリーも多く集まり今か今かと盛り上がっていた。

「それで、そちらの代表はその方ですか?」

 ホーリクの側には背は低いがガタイの良いおそらくドワーフ系の男が立っていた。

「ドラブだ。好きなだけ酒が飲めると聞いて引き受けたがあんたが相手か?
 こんな奴だとすぐに決着がついてほとんど飲めねぇんじゃないのか?」

(なるほど、それなりに強そうなのを探してきたな)

「今日はフォルクさんはどうされましたか?」

「フォルク氏は昨日あんたが渡した調味料のせいで試作に夢中になり、まだ起きてこれてないよ」

 どうやらフォルクは僕の妨害作戦にまんまと引っ掛かったらしい。

「じゃあ始めますよ。
 あ、今回は引き分けにはしたくないのでお酒は通常よりもかなり多めに仕入れて貰ってますから在庫が尽きることはないと思いますよ」

 こうして結果の見えている酒豪決闘は幕を開けたのであった。


「次、ゴリゴリエールだ!」

 何杯飲んだのだろうか。
 夕刻の鐘が鳴る頃に始めた対決は夜になっても全く決着がつかなかった。

(このドワーフ男、本当に酒が強いな。だんだん面倒になってきたぞ)

「おぬしかなりやるじゃないか。
 ワシとこれだけ飲める相手は初めてじゃよ。
 どうだ?この辺で敗けを認めないか?
 素人が一気に飲み過ぎると下手すると死ぬかもしれないぞ」

「そうしたいのですが、こちらも大切なものを賭けてますので引く訳にはいかないんですよ。
 そちらこそ、そろそろ諦めないと支払い金額が相当な額になると思いますよ。
 どうせ負ける気は無かったでしょうから依頼料だけでここの支払いは考えてなかったでしょう?」

「当然じゃろ?そっちこそ払えるのか?」

「払えますが払うつもりはありませんよ。妻に怒られますからね」

 お互い腹の探りあいをしながら酒精の強い注文が続く、このまま在庫がきれるまで続くかと思われたバトルも突然終着を迎えた。

「ぐっ!この酒は!?なぜこの酒が置いてあるんじゃ!?」

『ポイズンサーペントの毒袋酒』通称『ポイズンエール』強力な精力剤として一部の有力者に需要がある酒だが、毒性も強く飲み過ぎると命に関わる薬酒だった。

「コイツでケリをつけましょうか」

 僕が不適に笑う。
 実はこの酒は僕が準備をしてギルドの酒場に置いてもらったものだった。
 もちろん酒の特性は知っているし、僕には状態無効のスキルがある。
 負ける要素はない。

(これで退いてくれれば良いが、強引に飲めば倒れるだろう)

「じゃあ先に僕が飲みますね」

 僕はそう言うと酒を一気にあおった。

「この酒を飲んで何ともないとは化け物か?
 いいぞ、勝負してくれよう。
 コイツを飲んでワシが倒れたらお前の勝ちを認めてやろう」

 ドラブは覚悟を決めて酒を一気にあおった。

「ぐっ!?ぐわっ!のどが焼ける!?胃が叫ぶ!?体が燃える!?」

 ドラブは初めての感覚に苦しんだと思うと気を失った。

「あ、やっぱり普通の人がこの量飲むとこうなるのか……」

 僕はそう呟くとポケットから小瓶を取り出してドラブの口に中身を含ませてから気付けの魔道具を使った。

「うっ!?」

 すぐにドラブは気がつき自分の体に異常がないことを確認した。

「仕方ないがワシの負けじゃな」

 状況を把したドラブは素直に敗けを認め、握手を求めてきた。

「決定的なのはその酒じゃったが、どのみちワシも限界じゃったからな。
 卑怯だとかの恨みを言うつもりはないぞ。
 むしろ、いい経験と仲間内に語れる勝負になったと思う」

 ドラブの潔さに感心していると横からホーリクの非難の声があがった。

「負けるなんて聞いてないぞ!一体どうしてくれるんだ!
 鍛冶士の女は手に入らないし買うのも割高になる。
 当然ここの払いはあんたが出すんだぞ!」

 ホーリクの言葉にドラブは冷めた様子で告げた。

「ああ、構わんよ。ただし、今後ワシやワシの仲間内からの包丁の購入は出来ないものと覚えておくがいい。
 もちろん今のセリフを聞いたそこのお嬢ちゃんもおそらくあんたには売ってくれないだろうよ。
 たとえ倍の値段を出してもな」

 それを聞いたホーリクは自分の失言を後悔したが全ては後のまつりだった。

「ーーーありがとうございました」

 僕はドラブと再度握手をしてそっと今回の酒代の半分を手渡した。

「兄ちゃん。いいのかよ?」

「あなたの心意気に感服しました。

 これはほんのお礼ですよ。ああ、妻の事は大丈夫ですよ自分の小遣いで出してますからね」

 ドラブはニヤリと笑うとクーレリアに向かって「良かったらワシの仲間を紹介したい」と告げて後日工房を訪ねると言って別れた。

「よし、僕達も帰るよ。親父さんが心配してるだろうから工房まで送って行くよ」

 僕達は今日の事を話ながら工房へ向かって歩いて行った。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

処理中です...