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第104話【クーレリアの新部門の評価】

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「なんだその包丁の切れ味は!?そんな包丁をどこで手を入れた?」

 リボルテの中心地に近い人気の食堂『カクレンガ』の厨房では料理長がセカンドを務める料理人を問いただしていた。
 この店の主力である肉料理はステーキのように厚く切る料理としゃぶしゃぶのように薄く切る料理があったがどちらも肉の旨味を損なわないためにも何を置いても包丁の切れ味が一番重要だった。

「これは昨日の休みに街の鍛冶士の店で購入したものです。
 その店は今まで武器や防具を中心に制作・販売をしていたのであまり行ったことはなかったのですが、たまたま通りかかった時に店先の看板に『料理包丁・鉄製農具の販売を始めました』とあったので興味本位で覗いたんです」

 副料理長の男は肉の下ごしらえを続けながらその時の事を料理長に話した。

「まだ販売も始めたばかりらしくて包丁も1本しかなく、農具もかまおのが2本ずつと本当に商売する気があるのかと疑うような品数でしたね。
 さらに驚いたのが値段です。この包丁いくらだったと思います?」

 副料理長は下ごしらえをする手を止めて買った包丁を料理長に見せながら自慢気に聞いた。

「さあて、普通の包丁なら銀貨1枚ってところだが自分達みたいな専門の料理人が使う特注品ならば銀貨3枚ってところだろう。
 なんだ、それよりも高かったのか?」

「ええ、高いってもんじゃなかったですよ。なんたって銀貨10枚、つまり小金貨1枚ですからね」

「はあっ!?なんだその値段は!それでお前はその値段で買ったのか?」

「最初は私も高すぎると言って値切ろうと考えたんですけど試作品で試し切りをさせて貰いまして、その素晴らしさに値段の事はすっかり飛んでしまって即決で買ってしまいましたよ。
 一応、不満があれば一週間以内ならば返品してもいいと言われましたけどね」

「それで、その包丁には小金貨1枚の価値はあったのか?」

「見ての通りです。この肉の切った断面を見てくださいよ。
 今までの包丁だと切り口がギザギザになって舌触りに不満があったのですけど、こいつで切ったやつはこの通り見事なもんでしょう?
 私は十分値段に見合う品だと思いますよ」

「うーん。確かに見事な断面だ。
 よし、ちょっとそれ貸してみろ。試しに超薄切りにして試食をしてみるから」

「いいですけど、取らないでくださいよ。
 まだ大量生産は出来ないって言ってましたから」

 そう言って料理長は包丁を借りて薄切りスライス肉を神業で切っていった。

「なるほど素晴らしい切れ味だな。
 私の使っている特注品の数倍使いやすいぞ。よし、この肉をお湯に潜らせて……」

 料理長はしゃぶしゃぶ状態の肉を一口食べて固まった。

「料理長?どうかしましたか?」

 料理長の様子に副料理長や他の料理人達が声かけするも返事は帰って来ない。
 不思議に思った副料理長がたった今料理長が食べた肉の残りを試してみた。

「!?これは……うまい!
 初めて食べる食感だが口の中で肉が溶けて消えた……ただ湯通ししただけだぞ?」

 それを聞いた料理人達が口々に副料理長に言った。

「ふたりだけ食べるなんてずるいですよ。私達にも試食させてくださいよ」

 黙って残りの肉を差し出す副料理長に料理人達はこぞって試食をした。

「凄い!こんな肉初めて食べましたよ。
 うちの店の肉料理は一級品だと思ってたけど、これは次元が違いますよ」

 料理人達が口々に絶賛しているといつの間にか料理長が再起動していてニヤリと怪しく笑った。
 その手には副料理長の包丁がしっかりと握られていた。

「あの、料理長?そろそろ私の包丁を返してもらえませんか?
 まだ肉の下ごしらえも済んでませんし、早くしないと開店に間に合わなくなりますよ?」

「・・だ?」

「はい?」

「どこの店で買ったんだ?」

「ビガント鍛冶工務店です。
 武器・防具鍛冶に加えて建築も請け負っている鍛冶士ですが従業員が娘さんしかいないので建築を受けて外出している時は店も閉まってることも多いようです」

「ちょっと行って来るから、後は任せた!」

 料理長はそう言うと準備を副料理長に丸投げして店に向かった。
 副料理長の包丁を持ったまま。

   *   *   *

「店主はおられるか?」

 ビガント鍛冶工務店の入り口で料理長が叫んだ。
 声を聞いたクーレリアが顔を出して見ると、包丁を握った怪しい男が入り口で息を切らして立っていた。

「きゃあー!強盗よぉ!」

 クーレリアの声に驚いた料理長は自分が包丁を持ったまま来てしまった事に今更ながら気がつき、あわてて弁解した。

「まっ待ってくれ!違うんだ!私は包丁を、この包丁と同じものが欲しくて買いにきたんだ!決して強盗なんかじゃないんだ!」

 叫ぶ料理長とクーレリアの声を聞いたビガントが工房から顔を出して娘の頭を軽くはたいた。

「いたっ!?何するのお父さん!?」

「慌てるな。こちらはお客様だぞ。
 ほらよく見てみなさい。あの包丁は昨日料理人のお客様に売った物だろう?
 おそらくこの人は彼の同僚の人だろう。
 包丁の出来の良さに驚いて買いに来てくれたのだろう」

 ビガントは料理長の持っている包丁を一目見ただけでクーレリアが作った品だと分かったのでお客様だと判断したのだ。

「そうでしたか、それは失礼しました。
 そしていらっしゃいませ、ビガント鍛冶工務店へようこそ。
 包丁のご注文ですか?」

 すっかり落ち着いたクーレリアはやり手看板娘の顔になり、笑顔で料理長を迎えた。
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