104 / 120
第104話【クーレリアの新部門の評価】
しおりを挟む
「なんだその包丁の切れ味は!?そんな包丁をどこで手を入れた?」
リボルテの中心地に近い人気の食堂『カクレンガ』の厨房では料理長がセカンドを務める料理人を問いただしていた。
この店の主力である肉料理はステーキのように厚く切る料理としゃぶしゃぶのように薄く切る料理があったがどちらも肉の旨味を損なわないためにも何を置いても包丁の切れ味が一番重要だった。
「これは昨日の休みに街の鍛冶士の店で購入したものです。
その店は今まで武器や防具を中心に制作・販売をしていたのであまり行ったことはなかったのですが、たまたま通りかかった時に店先の看板に『料理包丁・鉄製農具の販売を始めました』とあったので興味本位で覗いたんです」
副料理長の男は肉の下ごしらえを続けながらその時の事を料理長に話した。
「まだ販売も始めたばかりらしくて包丁も1本しかなく、農具も鎌と斧が2本ずつと本当に商売する気があるのかと疑うような品数でしたね。
さらに驚いたのが値段です。この包丁いくらだったと思います?」
副料理長は下ごしらえをする手を止めて買った包丁を料理長に見せながら自慢気に聞いた。
「さあて、普通の包丁なら銀貨1枚ってところだが自分達みたいな専門の料理人が使う特注品ならば銀貨3枚ってところだろう。
なんだ、それよりも高かったのか?」
「ええ、高いってもんじゃなかったですよ。なんたって銀貨10枚、つまり小金貨1枚ですからね」
「はあっ!?なんだその値段は!それでお前はその値段で買ったのか?」
「最初は私も高すぎると言って値切ろうと考えたんですけど試作品で試し切りをさせて貰いまして、その素晴らしさに値段の事はすっかり飛んでしまって即決で買ってしまいましたよ。
一応、不満があれば一週間以内ならば返品してもいいと言われましたけどね」
「それで、その包丁には小金貨1枚の価値はあったのか?」
「見ての通りです。この肉の切った断面を見てくださいよ。
今までの包丁だと切り口がギザギザになって舌触りに不満があったのですけど、こいつで切ったやつはこの通り見事なもんでしょう?
私は十分値段に見合う品だと思いますよ」
「うーん。確かに見事な断面だ。
よし、ちょっとそれ貸してみろ。試しに超薄切りにして試食をしてみるから」
「いいですけど、取らないでくださいよ。
まだ大量生産は出来ないって言ってましたから」
そう言って料理長は包丁を借りて薄切りスライス肉を神業で切っていった。
「なるほど素晴らしい切れ味だな。
私の使っている特注品の数倍使いやすいぞ。よし、この肉をお湯に潜らせて……」
料理長はしゃぶしゃぶ状態の肉を一口食べて固まった。
「料理長?どうかしましたか?」
料理長の様子に副料理長や他の料理人達が声かけするも返事は帰って来ない。
不思議に思った副料理長がたった今料理長が食べた肉の残りを試してみた。
「!?これは……うまい!
初めて食べる食感だが口の中で肉が溶けて消えた……ただ湯通ししただけだぞ?」
それを聞いた料理人達が口々に副料理長に言った。
「ふたりだけ食べるなんてずるいですよ。私達にも試食させてくださいよ」
黙って残りの肉を差し出す副料理長に料理人達はこぞって試食をした。
「凄い!こんな肉初めて食べましたよ。
うちの店の肉料理は一級品だと思ってたけど、これは次元が違いますよ」
料理人達が口々に絶賛しているといつの間にか料理長が再起動していてニヤリと怪しく笑った。
その手には副料理長の包丁がしっかりと握られていた。
「あの、料理長?そろそろ私の包丁を返してもらえませんか?
まだ肉の下ごしらえも済んでませんし、早くしないと開店に間に合わなくなりますよ?」
「・・だ?」
「はい?」
「どこの店で買ったんだ?」
「ビガント鍛冶工務店です。
武器・防具鍛冶に加えて建築も請け負っている鍛冶士ですが従業員が娘さんしかいないので建築を受けて外出している時は店も閉まってることも多いようです」
「ちょっと行って来るから、後は任せた!」
料理長はそう言うと準備を副料理長に丸投げして店に向かった。
副料理長の包丁を持ったまま。
* * *
「店主はおられるか?」
ビガント鍛冶工務店の入り口で料理長が叫んだ。
声を聞いたクーレリアが顔を出して見ると、包丁を握った怪しい男が入り口で息を切らして立っていた。
「きゃあー!強盗よぉ!」
クーレリアの声に驚いた料理長は自分が包丁を持ったまま来てしまった事に今更ながら気がつき、あわてて弁解した。
「まっ待ってくれ!違うんだ!私は包丁を、この包丁と同じものが欲しくて買いにきたんだ!決して強盗なんかじゃないんだ!」
叫ぶ料理長とクーレリアの声を聞いたビガントが工房から顔を出して娘の頭を軽くはたいた。
「いたっ!?何するのお父さん!?」
「慌てるな。こちらはお客様だぞ。
ほらよく見てみなさい。あの包丁は昨日料理人のお客様に売った物だろう?
おそらくこの人は彼の同僚の人だろう。
包丁の出来の良さに驚いて買いに来てくれたのだろう」
ビガントは料理長の持っている包丁を一目見ただけでクーレリアが作った品だと分かったのでお客様だと判断したのだ。
「そうでしたか、それは失礼しました。
そしていらっしゃいませ、ビガント鍛冶工務店へようこそ。
包丁のご注文ですか?」
すっかり落ち着いたクーレリアはやり手看板娘の顔になり、笑顔で料理長を迎えた。
リボルテの中心地に近い人気の食堂『カクレンガ』の厨房では料理長がセカンドを務める料理人を問いただしていた。
この店の主力である肉料理はステーキのように厚く切る料理としゃぶしゃぶのように薄く切る料理があったがどちらも肉の旨味を損なわないためにも何を置いても包丁の切れ味が一番重要だった。
「これは昨日の休みに街の鍛冶士の店で購入したものです。
その店は今まで武器や防具を中心に制作・販売をしていたのであまり行ったことはなかったのですが、たまたま通りかかった時に店先の看板に『料理包丁・鉄製農具の販売を始めました』とあったので興味本位で覗いたんです」
副料理長の男は肉の下ごしらえを続けながらその時の事を料理長に話した。
「まだ販売も始めたばかりらしくて包丁も1本しかなく、農具も鎌と斧が2本ずつと本当に商売する気があるのかと疑うような品数でしたね。
さらに驚いたのが値段です。この包丁いくらだったと思います?」
副料理長は下ごしらえをする手を止めて買った包丁を料理長に見せながら自慢気に聞いた。
「さあて、普通の包丁なら銀貨1枚ってところだが自分達みたいな専門の料理人が使う特注品ならば銀貨3枚ってところだろう。
なんだ、それよりも高かったのか?」
「ええ、高いってもんじゃなかったですよ。なんたって銀貨10枚、つまり小金貨1枚ですからね」
「はあっ!?なんだその値段は!それでお前はその値段で買ったのか?」
「最初は私も高すぎると言って値切ろうと考えたんですけど試作品で試し切りをさせて貰いまして、その素晴らしさに値段の事はすっかり飛んでしまって即決で買ってしまいましたよ。
一応、不満があれば一週間以内ならば返品してもいいと言われましたけどね」
「それで、その包丁には小金貨1枚の価値はあったのか?」
「見ての通りです。この肉の切った断面を見てくださいよ。
今までの包丁だと切り口がギザギザになって舌触りに不満があったのですけど、こいつで切ったやつはこの通り見事なもんでしょう?
私は十分値段に見合う品だと思いますよ」
「うーん。確かに見事な断面だ。
よし、ちょっとそれ貸してみろ。試しに超薄切りにして試食をしてみるから」
「いいですけど、取らないでくださいよ。
まだ大量生産は出来ないって言ってましたから」
そう言って料理長は包丁を借りて薄切りスライス肉を神業で切っていった。
「なるほど素晴らしい切れ味だな。
私の使っている特注品の数倍使いやすいぞ。よし、この肉をお湯に潜らせて……」
料理長はしゃぶしゃぶ状態の肉を一口食べて固まった。
「料理長?どうかしましたか?」
料理長の様子に副料理長や他の料理人達が声かけするも返事は帰って来ない。
不思議に思った副料理長がたった今料理長が食べた肉の残りを試してみた。
「!?これは……うまい!
初めて食べる食感だが口の中で肉が溶けて消えた……ただ湯通ししただけだぞ?」
それを聞いた料理人達が口々に副料理長に言った。
「ふたりだけ食べるなんてずるいですよ。私達にも試食させてくださいよ」
黙って残りの肉を差し出す副料理長に料理人達はこぞって試食をした。
「凄い!こんな肉初めて食べましたよ。
うちの店の肉料理は一級品だと思ってたけど、これは次元が違いますよ」
料理人達が口々に絶賛しているといつの間にか料理長が再起動していてニヤリと怪しく笑った。
その手には副料理長の包丁がしっかりと握られていた。
「あの、料理長?そろそろ私の包丁を返してもらえませんか?
まだ肉の下ごしらえも済んでませんし、早くしないと開店に間に合わなくなりますよ?」
「・・だ?」
「はい?」
「どこの店で買ったんだ?」
「ビガント鍛冶工務店です。
武器・防具鍛冶に加えて建築も請け負っている鍛冶士ですが従業員が娘さんしかいないので建築を受けて外出している時は店も閉まってることも多いようです」
「ちょっと行って来るから、後は任せた!」
料理長はそう言うと準備を副料理長に丸投げして店に向かった。
副料理長の包丁を持ったまま。
* * *
「店主はおられるか?」
ビガント鍛冶工務店の入り口で料理長が叫んだ。
声を聞いたクーレリアが顔を出して見ると、包丁を握った怪しい男が入り口で息を切らして立っていた。
「きゃあー!強盗よぉ!」
クーレリアの声に驚いた料理長は自分が包丁を持ったまま来てしまった事に今更ながら気がつき、あわてて弁解した。
「まっ待ってくれ!違うんだ!私は包丁を、この包丁と同じものが欲しくて買いにきたんだ!決して強盗なんかじゃないんだ!」
叫ぶ料理長とクーレリアの声を聞いたビガントが工房から顔を出して娘の頭を軽くはたいた。
「いたっ!?何するのお父さん!?」
「慌てるな。こちらはお客様だぞ。
ほらよく見てみなさい。あの包丁は昨日料理人のお客様に売った物だろう?
おそらくこの人は彼の同僚の人だろう。
包丁の出来の良さに驚いて買いに来てくれたのだろう」
ビガントは料理長の持っている包丁を一目見ただけでクーレリアが作った品だと分かったのでお客様だと判断したのだ。
「そうでしたか、それは失礼しました。
そしていらっしゃいませ、ビガント鍛冶工務店へようこそ。
包丁のご注文ですか?」
すっかり落ち着いたクーレリアはやり手看板娘の顔になり、笑顔で料理長を迎えた。
31
お気に入りに追加
3,232
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる