103 / 120
第103話【改修工事の後の相談事】
しおりを挟む
ビガントの鍛冶屋で改修工事の予約をした翌日、早速ビガントと娘のクーレリアが揃ってデイル亭を訪れた。
「お待ちしておりました。早速ですがこれが希望の間取り図になります。
必要な材料はこちらで準備させて貰いましたので出来るだけ早めに完成させて貰えると助かります」
ビガント達が案内された一階の食堂兼多目的スペースにはシミリが手配しておいた間仕切りに必要な材料が積み上げられていた。
「ほう、これは斬新な使い方ですな。
なるほど、こうすれば必要経費を抑えることができるのか。いや勉強になるな」
ビガントは間取り図と材料をと空間を見比べながらひとりで納得していた。
「わかりました。すぐに取りかかりましょう。
このくらいならば今日中には完成すると思いますよ」
ビガントはなんでもないかのように答えるとクーレリアにも幾つか指示を出して工事に取りかかった。
「凄いですね。あの間取り図と材料を見ただけでこの改修工事が今日中に出来ると言える人はなかなか居ないと思いますよ」
僕の横でビガントの手際に感心したシミリは素直に称賛した。
「ついに私の拠点が出来るのですね。
私みたいな新人が拠点を持つなんて、普通に考えれば相当に裕福な家庭の子供とかでなければあり得ない話ですもんね。
それにしたって実力が無ければ患者は来てくれないですからね」
エスカートはまだ出来てもいない診療室を前にいつもの妄想モードに浸っていた。
僕は工事の邪魔にならないようにカウンターの椅子に座ってふたりの仕事ぶりを観察していた。
「凄いペースだね。まあ、一軒家を建てる訳じゃないから根本的には過剰な強度もいらないし、天井も新たに付ける必要も無いからみるみるうちに形になっているな」
僕が感心しているとディールが紅茶を入れてくれたので皆で飲みながら工事を見守った。
ーーー完成しました。こんな感じてどうですかな?
夕の鐘が鳴る頃にはすっかり診療室は出来上がっていた。
デイル亭の食堂で使っているのと同じ木材を使い、食堂の雰囲気を壊さないように考えられている。
もちろん僕達がそうなるように話し合って材料も揃えたのだから当然でもあるが……。
「見ても良いですか?」
やはりエスカが真っ先に反応してビガントの返事を待ちきれずに部屋のドアを開けた。
中はシンプルな作りでテーブルに椅子とベッドが置いてあり、壁側には書類を置ける本棚と引き出し付きの棚が備え付けてあった。
「素敵!この部屋が私の世界になるのね」
エスカが感激して椅子に座って使い勝手を確かめているのを見てビガントは満足そうにしていた。
「これが依頼料です。良いものをありがとうございました」
僕はビガントにお礼を言って依頼料を手渡した。それを受け取ったビガントは少し考えてから僕に言った。
「すまないが、少し相談があるんだがふたりで話せるだろうか?」
僕は相談の内容は恐らく昨日のハンマーの件だろうなと考えて相談に乗ることにした。
「良いですよ。せっかくなんでこの部屋を使いましょうか。
エスカ悪いけどちょっと部屋を借りるよ」
「はい、わかりました。じゃあ私達はまたカウンターでお話をしてますね」
エスカはシミリとクーレリアを連れてカウンターの方へ移動した。
「それで、相談とはなんでしょうか?」
ビガントは僕とふたりになるとたどたどしく話し始めた。
「昨日のハンマーと指輪の件ですけど、あの後でクレリに指輪を借りて試してみたが、何も変わらずにハンマーは重たいままでした。
私に使えない理由はなんでしょうか?あと、やはりあのハンマーを使ったクレリの剣は出来が良すぎてあなたの心配されるように秘密を探る者が出るでしょうから何か良い知恵があれば教えて貰えると助かります」
「わかりました。では質問にお答えしますね。
まず指輪の件ですが、あの指輪は持ち主を選びます。
それは魔力の質と量によって発揮出来る力が変わるのです。
さらに、一度持ち主が決まると他の人に付け替えても反応しなくなります。今回のようにね。
まあ、魔道具の特性とでも思ってください」
「それではあの指輪はクレリを持ち主と記憶したんですか?」
「ええ、そうなりますね。
次にクーレリアさんの剣についてですが、質の良いものを作れるのにわざわざ粗悪品を作るのは心情的に苦しいでしょうからひとつ提案をしましょう。
まずは“料理包丁”と“農具”を作る事をすすめます」
「料理包丁と農具ですか?」
「ええ、包丁はどの家庭にもあるから需要が見込めますし、よく切れる包丁はありがたがられると思いますよ。
特に料理人には重宝されると思います。
まずは料理人向けに作ってみてはどうですか?
あとは農具ですね。鉈や鎌や鍬など鉄製品は多岐に渡るし、これもよく切れるものは売れると思いますよ。
これらは剣と違って命を預けるものじゃないから比較的受け入れやすいんじゃないかと思いますよ」
「なるほど!わかりました。
まずはその方向でクレリと相談してやってみます。ありがとうございました」
ビガントは喜んでクーレリアと一緒に工房へ帰って行った。
「お待ちしておりました。早速ですがこれが希望の間取り図になります。
必要な材料はこちらで準備させて貰いましたので出来るだけ早めに完成させて貰えると助かります」
ビガント達が案内された一階の食堂兼多目的スペースにはシミリが手配しておいた間仕切りに必要な材料が積み上げられていた。
「ほう、これは斬新な使い方ですな。
なるほど、こうすれば必要経費を抑えることができるのか。いや勉強になるな」
ビガントは間取り図と材料をと空間を見比べながらひとりで納得していた。
「わかりました。すぐに取りかかりましょう。
このくらいならば今日中には完成すると思いますよ」
ビガントはなんでもないかのように答えるとクーレリアにも幾つか指示を出して工事に取りかかった。
「凄いですね。あの間取り図と材料を見ただけでこの改修工事が今日中に出来ると言える人はなかなか居ないと思いますよ」
僕の横でビガントの手際に感心したシミリは素直に称賛した。
「ついに私の拠点が出来るのですね。
私みたいな新人が拠点を持つなんて、普通に考えれば相当に裕福な家庭の子供とかでなければあり得ない話ですもんね。
それにしたって実力が無ければ患者は来てくれないですからね」
エスカートはまだ出来てもいない診療室を前にいつもの妄想モードに浸っていた。
僕は工事の邪魔にならないようにカウンターの椅子に座ってふたりの仕事ぶりを観察していた。
「凄いペースだね。まあ、一軒家を建てる訳じゃないから根本的には過剰な強度もいらないし、天井も新たに付ける必要も無いからみるみるうちに形になっているな」
僕が感心しているとディールが紅茶を入れてくれたので皆で飲みながら工事を見守った。
ーーー完成しました。こんな感じてどうですかな?
夕の鐘が鳴る頃にはすっかり診療室は出来上がっていた。
デイル亭の食堂で使っているのと同じ木材を使い、食堂の雰囲気を壊さないように考えられている。
もちろん僕達がそうなるように話し合って材料も揃えたのだから当然でもあるが……。
「見ても良いですか?」
やはりエスカが真っ先に反応してビガントの返事を待ちきれずに部屋のドアを開けた。
中はシンプルな作りでテーブルに椅子とベッドが置いてあり、壁側には書類を置ける本棚と引き出し付きの棚が備え付けてあった。
「素敵!この部屋が私の世界になるのね」
エスカが感激して椅子に座って使い勝手を確かめているのを見てビガントは満足そうにしていた。
「これが依頼料です。良いものをありがとうございました」
僕はビガントにお礼を言って依頼料を手渡した。それを受け取ったビガントは少し考えてから僕に言った。
「すまないが、少し相談があるんだがふたりで話せるだろうか?」
僕は相談の内容は恐らく昨日のハンマーの件だろうなと考えて相談に乗ることにした。
「良いですよ。せっかくなんでこの部屋を使いましょうか。
エスカ悪いけどちょっと部屋を借りるよ」
「はい、わかりました。じゃあ私達はまたカウンターでお話をしてますね」
エスカはシミリとクーレリアを連れてカウンターの方へ移動した。
「それで、相談とはなんでしょうか?」
ビガントは僕とふたりになるとたどたどしく話し始めた。
「昨日のハンマーと指輪の件ですけど、あの後でクレリに指輪を借りて試してみたが、何も変わらずにハンマーは重たいままでした。
私に使えない理由はなんでしょうか?あと、やはりあのハンマーを使ったクレリの剣は出来が良すぎてあなたの心配されるように秘密を探る者が出るでしょうから何か良い知恵があれば教えて貰えると助かります」
「わかりました。では質問にお答えしますね。
まず指輪の件ですが、あの指輪は持ち主を選びます。
それは魔力の質と量によって発揮出来る力が変わるのです。
さらに、一度持ち主が決まると他の人に付け替えても反応しなくなります。今回のようにね。
まあ、魔道具の特性とでも思ってください」
「それではあの指輪はクレリを持ち主と記憶したんですか?」
「ええ、そうなりますね。
次にクーレリアさんの剣についてですが、質の良いものを作れるのにわざわざ粗悪品を作るのは心情的に苦しいでしょうからひとつ提案をしましょう。
まずは“料理包丁”と“農具”を作る事をすすめます」
「料理包丁と農具ですか?」
「ええ、包丁はどの家庭にもあるから需要が見込めますし、よく切れる包丁はありがたがられると思いますよ。
特に料理人には重宝されると思います。
まずは料理人向けに作ってみてはどうですか?
あとは農具ですね。鉈や鎌や鍬など鉄製品は多岐に渡るし、これもよく切れるものは売れると思いますよ。
これらは剣と違って命を預けるものじゃないから比較的受け入れやすいんじゃないかと思いますよ」
「なるほど!わかりました。
まずはその方向でクレリと相談してやってみます。ありがとうございました」
ビガントは喜んでクーレリアと一緒に工房へ帰って行った。
31
お気に入りに追加
3,236
あなたにおすすめの小説
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる