上 下
99 / 120

第99話【頑張る女の子は応援したくなるもの】

しおりを挟む
「はっはっは。本当に良い鑑定眼を持っている兄さんだな。
 クレリの苦手な工程をここまで言い当てた人は今まで居なかったよ。
 私から見てもクレリの打った剣は綺麗きれいに見えるからな。
 いや、だがやはり兄さんの言う通り剣は命を預けるものだからクレリの腕が一人前になるまではクレリの打った剣は【観賞用】として売る事にするか」

 僕の話にビガントがのっかる感じで話をまとめていった。

「ちょっとお父さん!その話は許諾出来ないわよ!
 武器の神様が作った訳じゃないのに、いい武器ももうひとつの武器もお客さんが自分の目で見て買うんだからこっちが勝手に決めつける事は無いんじゃないの?」

 クーレリアは自分の打った剣が実用に耐えられないと言われた事に憤慨して父にくってかかった。

「いいか、クレリ。
 普通の師弟ならば弟子は師匠の言う事を真摯に受け止めて技術の向上に励むものだぞ。
 たまたまクレリはお父さんが師匠だから反発しても苦言程度で済ませてしまうけど、破門されてもおかしくない態度をとっている事はわかってるのかい?」

 いつもならば本当に苦言程度で軽口を叩いて終わるはずだったが、オルト達が居るのに加えてクーレリアが打った剣の本質まで見抜かれてしまった為に今後はビガントの剣と並べて売る訳にはいかなくなっていた。
 なにせ、オルト達とは初めて会ったばかりでどんな人物かも分からない為、他所でこの事を話す可能性があったからだ。

 もし、実用に乏しい剣を売っていたとの噂がたてば普通の剣も売れなくなる可能性がある。ビガントがこだわった理由はそこにあったのだった。

「とにかく私がそう決めたからクレリはもう少し腕をみがいてからにしなさい」

 ふたりのやり取りを聞いていた僕は話の意図がクーレリアの力量不足にあること。
 クーレリアは見た目活発ではあるがやはり華奢な女の子である為に鍛冶に必要な力が足りない事に問題があると考え、確認のためにビガントに聞いた。

「あの、今のお話を内容だとお嬢さんの鍛冶士としての力量が足りないから実用剣は売ることは出来ないとの事ですよね?」

「ああ、そうだな。
 この後でクレリの打った剣は別の棚にまとめて観賞用としての札をつける事にするから悪いが他所の場所でうちが「なまくら剣を売っていた」とか言わないでくれないか?」

 本来、口下手であるビガントが必死になってお願いをしてきたのを見て僕は本当に申し訳ない事をしたと思い、ふたりにある提案をした。

「もちろんそんな無粋な事をするはずが無いですよ。
 クーレリアさんが打った剣でもカイザックに持っていけば十分通用するレベルですし、剣を買いに来たお客全員が一流の剣を求めている訳ではないと思いますよ。
 ただ、せっかくお嬢さんの鍛冶士レベルを上げる修行をする予定があるならば僕にも少しお手伝いをさせてもらえないかと思いましてね」

「修行の手伝いだって?
 兄さん鍛冶士だったのかい?……ってそんな訳ないか、もしそうならば改修工事の仕事をわざわざうちに持ってきたりしないだろうからな」

「ええ、もちろん違いますけど私の妻が商人でして、先日ちょっと珍しい道具を仕入れたのですよ。
 鉱山の街リボルテならば需要があるかと持ち歩いてました。
 興味がおありならば試してみてはどうですか?
 お嬢さんみたいな非力な人が大の大人並みに扱うことの出来るハンマーと付属品ですけど……」

 僕はそう言うと鞄からハンマーと指輪を取り出した。

 これは実を言うと自分で使おうと思って作っていた品で、良い物が見つからなかったら鉱石を買って自分で加工するつもりで作って持ち歩いていたものだ。

「ハンマーは分かるとして何で指輪が必要なの?」

 やはり真っ先に興味を示したのはクーレリアだった。
 僕は先に指輪を彼女に渡して利き手の中指にはめてもらいその後でハンマーを手渡した。
 それを受け取ったクーレリアはハンマーの握り感や重さなどを確かめていた。

「これ、ものすごく軽いんだけど本当にこれで鋼が打てるの?
 なんか打ってる途中でハンマーのが先に壊れそうなんだけど……」

 クーレリアは不安を口にしながらハンマーを返してきたので僕はそのまま今度はビガントに手渡した。

「なっ!?なんだこのハンマーは?とてつもなく重いぞ。
 本当にこんなもの鍛冶打ちに使えるのか?」

 ハンマーを重そうに持ち上げるビガントを見てクーレリアは不思議そうな顔をして父に言った。

「えっ?お父さんったら冗談は止めてよ。
 そのハンマー凄く軽すぎて使い物にならないんでしょ?」

 クーレリアは父の手から“ひょい”とハンマーを受けると“ぶんぶん”と鋼を打つ真似をした。

「ほらー。こんなに軽いハンマーじゃしっかりと打てないでしょ?」

 その光景を唖然とした表情で見るビガントに僕が説明をした。

「そのハンマーは魔力によって重力負担が変化する特殊なギミックが施されているんだ。
 だからその魔力操作の指輪とセットで使わないと本来の力は発揮出来ないですよ」

 僕がなんでもないかのように説明している横でエスカが呆れた顔をしてため息をついていた。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

処理中です...