上 下
86 / 120

第86話【エスカートの契約条件】

しおりを挟む
「ふあぁ……疲れたぁ」

 夕食時の混雑も収まり泊まり客以外を見送ったエスカはカウンターの隅でへとへとになっていた。
 途中休憩があるとはいえ、オープンしたての新しい食事処であるため、お客がひっきりなしに来店して超忙しかったのである。

「エスカちゃんお疲れ様。
 はい、これ食べて元気だして。
 食べたら今日は仕事あがっていいからね」

 ディールがエスカの夕食にとちょっと豪華な賄い食をカウンターに置き疲れを労っていた。

「ありがとうございますぅ。いただきます」

 エスカはお礼を言うと食事を食べ始めた。

「!? 美味しい。凄く美味しいです!」

「ははは、そういって貰えると作ったかいがあるよ」

 ディールは優しく笑いながらエスカに飲み物を出した。

「おっ!仕事は終わったのかい?」

 その時、自分の準備を終えた僕はカウンターで夕食を食べるエスカを見つけて声をかけた。

「はい。ようやく終わりました。忙しくてへとへとですよ。
 このあとお風呂を頂いてから休もうかと思って……」

「ああ、ならちょうど良かった。
 この後話しがあるから僕達の部屋に来てくれるかな?」

「お風呂の後でも大丈夫ですか?」

「汗をかく内容ではないから後でもいいけど眠くなるなら先がいいかな」

「ーーー先にお願いします」

「じゃあすぐに用意するよ」

 僕はそう言うと自分の部屋に戻った。
 エスカは食事を終えると自分の部屋で服を着替えてからオルトの部屋に行った。

 ーーーコンコン。

 エスカがドアをノックする。

「エスカです。オルトさん」

「どうぞ、入ってもいいですよ」

 エスカが部屋に入るとオルトとシミリが待っており、テーブルの上には見慣れない道具がいくつか並べられていた。

「えーと、お話ってなんでしょうか?」

「うん。とりあえず座って話をしようか」

 言われるままにエスカが正面の椅子に腰を下ろした。

「えっと、何から話すかな」

「まずはエスカさんの意思の確認ですよ。
 良ければ契約をする。ですよオルト君」

 シミリから話の流れの指摘を受けた僕はエスカに話をきりだした。

「今からいくつか質問をしますので、出来るだけ正直に答えてください。
 ですが、どうしても答えたくない質問にはそう答えてください。いいですか?」

「はい。わかりました」

 エスカは緊張した面持ちで僕の質問を待った。

「今あなたは治癒魔法はヒールしか使えないのですか?」

「はい」

「その効果はどのくらいの怪我を治せるレベルですか?」

「怪我は『打撲、打ち身、擦り傷、切り傷、ねんざ、突き指』くらいで、病気は『頭痛、腹痛、筋肉痛、発熱』くらいですね」

「なるほど、基本的なものは大体治せるようですね。では、この水晶に手をかざしてくれますか?」

 エスカは不思議に思いながらも言われたように水晶に手をかざした。
 水晶は黄緑色に発光して定着した。

「なるほど。ありがとうございました」

「えっと、今の話で何か分かったのですか?」

 エスカは当然の疑問を口にして僕に聞いた。

「ええ、あなたがなぜヒールしか使えないかも、どうすれば上のレベルに達する事ができるかも」

「本当ですか?私はまだ上のレベルに上がれるのですか?本当なら教えてください!どうすればいいのですか?」

「もちろんそのつもりですが、そのためにはひとつだけ僕と契約をしてもらわないといけません」

「契約?」

「なに、簡単なことですよ。
 あなたがこれから習得するスキルについて、どのようなやり方で習得したか、さらに僕に教えてもらって習得出来たと他人に話さない事が条件になります」

「本当にそれだけ……ですか?」

「ええ、本当に」

「それは対外的に『師匠』や『先生』と呼ぶことも禁止ですか?」

「えーと、禁止と言うより控えて欲しいのです。
 僕達しかいない時には良いですが他の人達がいる時は特に控えてください。
 正直、目立ちたくないんで……理由は察してくれるとありがたいです」

 エスカはまだ何か言いたげだったが、グッとこらえて笑顔で答えた。

「よろしくお願いします」

「うん。じゃあこの『契約の指輪』をしてくれるかな?
 これは君がもしも契約に背いたならば凄く恥ずかしいことがおきるかもしれない物だ。
 ちなみに一度はめたら契約に反するまではずせないからね」

「“痛い思い”とか“死ぬ思い”とかではなく“恥ずかしい思い”……ですか?」

「そうだよ、何かおかしいかい?
 あれ?普通に痛い思いとか死ぬ思いとかが良かった?でもあれはかなり痛いよ?辛いよ?それでも変えるかい?」

「い、いえ。このままでいいです」

 エスカは言われるままに指輪をはめると真剣な表情になりあらためて僕に向き合った。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

処理中です...