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第79話【目立たずに人助けをする方法】
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ーーーそこは正に野戦場のようだった。
崩れた坑道入り口の瓦礫を何とか掘り出そうとする人。
崩落に巻き込まれて手足や体から血を流して助けを求める人。
それを必死で助けようと治療する人。
そこには無駄な人などひとりもいなかった。
「参ったな。
これじゃあ適当に端っこで傷薬の調薬でもしていようとの目論見は無理なんじゃないか?」
出来るだけ目立たないように行動しようと思っていた矢先、足りてない人数、足りてない治癒士、足りてない薬。
何もかもが不足しているように見えた。
「仕方ない。とりあえず手持ちの薬をあるだけ提供しよう。
あそこに治療が必要な患者を診る臨時の病院が設けられているようだからあそこに持って行こうか」
「そうですね。数量はあとでギルドに報告するとしてまずは怪我人の治療が先ですね」
僕達はすぐさま臨時の病院へ向かい、受付に在庫分の傷薬を提供した。
「ありがとうございます。
患者が多すぎて薬が底をつきかけていたので至急でギルドに発注をしていたところだったんです!
では、こちらをお持ちください。
今回の件が収まったらポイントと報酬が出ますのでギルドの受付に提出してくださいね」
「分かりました、ありがとうございます。
では私も多少の知識をもっていますので患者の治療を手伝いましょう。
シミリ、サポートを頼むよ」
「はい。何でも言ってください」
僕はそう言うと次々と運ばれてくる患者の治療にあたった。
「ーーーはい。これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
何人診察したか忘れた頃、ふと気がつくと隣で回復魔法を何度もかける声が聞こえた。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
しかし、何度唱えても魔法は発動しなかった。
そんな光景があちらこちらで見えるようになり、治癒魔法士達の魔力切れが顕著にあらわれてきていた。
「まずいな。怪我人はまだまだいるのに薬は不足してるし、治癒魔法士も疲弊している。
なんとかしないと共倒れになるぞ」
「そうですね。皆さんの懸命な救助で崩落した坑道からは次々と助けられていますが、まだまだ予断をゆるさない状況ですね」
(エリア・ハイ・ヒールでも使えばかなりの人が助かるだろうが、目立ち過ぎるしギルドへの報告が厄介だから出来れば使いたくないんだよな)
ガラガラガラ、ドドドドドドドド。
「うわぁ!逃げろ!!きゃあー!!」
僕が対策を考えていた時、突然坑道のある方向から大きな音と悲鳴が次々に上がった。
「どうした!?何があった!?」
「坑道の入り口がまた崩れてきたんだ!」
言われるままに坑道を見ると数人が土砂の下敷きになり呻いていた。
そこに見たことのある顔があるのに気がつき僕は慌てて走り出していた。
「大丈夫ですか!?」
そこに居たのは先ほどギルドで一緒に治療にあたった治癒士の女性であった。
名前は聞いていないが顔を覚えていたのは、一生懸命に治療にあたっていたのが印象に残っていたからだ。
「うっ……。痛っ!」
(これは……。足を骨折しているな)
崩落した瓦礫が運悪く当たったのだろう。痛々しく腫れ上がっていた。
「ハイ・ヒール!」
僕は迷わず彼女の足に手をかざして回復魔法を発動した。
魔法は足を淡い緑色の光に包み込むと数秒後には足に吸い込まれるように消えた。
「ここはまだ危険だ!立って歩けるかい?すぐにここから離れるんだ!」
「でも足が……。
えっ!?痛くない?骨折が治ってる!?
ヒールでは痛みは抑えられても完全には治せないのに……」
不思議がる彼女の手を引っ張り安全な場所まで移動させると僕はひとつの決心をしていた。
(このままでは埒があかないからこっそりと魔法を使おう!)
「シミリ、すまないけどちょっと行ってくるから待っていてくれ」
シミリは僕のその言葉だけで何をしようとしているか分かったらしく笑顔で頷いた。
(さすが僕の嫁。
こういった時に察してくれるのは本当にありがたいな)
そんな事を考えながら僕は少し離れた全体が見渡せる場所に移動した。
ほとんどの人は坑道口を見ていたのでこちらを注目する者はいなかった。
(ここならいいな、やるか……。
まずは邪魔な瓦礫の撤去からだな)
僕は瓦礫の山に向かって土魔法を展開した。
本来ならば何処か他の場所に持っていかなければ処理出来ない瓦礫だったが突然人の形に集まり巨大なゴーレムとなり、周りに人達が驚き腰を抜かしているのを尻目に自分で歩いて邪魔にならない広場に向かいそこで大きな土山に戻っていった。
(よし、邪魔な瓦礫は片付いたな。
次は怪我人の対策だ。エリア・ハイ・ヒール!)
有り余る魔力を使い、上級回復魔法をエリア展開して一気に発動させた。
辺り一面を暖かい光が包み込み怪我人のみならず治療にあたって魔力枯渇をおこしていた治癒士達も癒されていった。
(よし、これでもう大丈夫だろう。
あとは見つからないようにこっそりとシミリのそばに戻ればいいだけだ)
僕はそう思いながら治療場で待機していたシミリのもとへ急いだ。
崩れた坑道入り口の瓦礫を何とか掘り出そうとする人。
崩落に巻き込まれて手足や体から血を流して助けを求める人。
それを必死で助けようと治療する人。
そこには無駄な人などひとりもいなかった。
「参ったな。
これじゃあ適当に端っこで傷薬の調薬でもしていようとの目論見は無理なんじゃないか?」
出来るだけ目立たないように行動しようと思っていた矢先、足りてない人数、足りてない治癒士、足りてない薬。
何もかもが不足しているように見えた。
「仕方ない。とりあえず手持ちの薬をあるだけ提供しよう。
あそこに治療が必要な患者を診る臨時の病院が設けられているようだからあそこに持って行こうか」
「そうですね。数量はあとでギルドに報告するとしてまずは怪我人の治療が先ですね」
僕達はすぐさま臨時の病院へ向かい、受付に在庫分の傷薬を提供した。
「ありがとうございます。
患者が多すぎて薬が底をつきかけていたので至急でギルドに発注をしていたところだったんです!
では、こちらをお持ちください。
今回の件が収まったらポイントと報酬が出ますのでギルドの受付に提出してくださいね」
「分かりました、ありがとうございます。
では私も多少の知識をもっていますので患者の治療を手伝いましょう。
シミリ、サポートを頼むよ」
「はい。何でも言ってください」
僕はそう言うと次々と運ばれてくる患者の治療にあたった。
「ーーーはい。これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
何人診察したか忘れた頃、ふと気がつくと隣で回復魔法を何度もかける声が聞こえた。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
しかし、何度唱えても魔法は発動しなかった。
そんな光景があちらこちらで見えるようになり、治癒魔法士達の魔力切れが顕著にあらわれてきていた。
「まずいな。怪我人はまだまだいるのに薬は不足してるし、治癒魔法士も疲弊している。
なんとかしないと共倒れになるぞ」
「そうですね。皆さんの懸命な救助で崩落した坑道からは次々と助けられていますが、まだまだ予断をゆるさない状況ですね」
(エリア・ハイ・ヒールでも使えばかなりの人が助かるだろうが、目立ち過ぎるしギルドへの報告が厄介だから出来れば使いたくないんだよな)
ガラガラガラ、ドドドドドドドド。
「うわぁ!逃げろ!!きゃあー!!」
僕が対策を考えていた時、突然坑道のある方向から大きな音と悲鳴が次々に上がった。
「どうした!?何があった!?」
「坑道の入り口がまた崩れてきたんだ!」
言われるままに坑道を見ると数人が土砂の下敷きになり呻いていた。
そこに見たことのある顔があるのに気がつき僕は慌てて走り出していた。
「大丈夫ですか!?」
そこに居たのは先ほどギルドで一緒に治療にあたった治癒士の女性であった。
名前は聞いていないが顔を覚えていたのは、一生懸命に治療にあたっていたのが印象に残っていたからだ。
「うっ……。痛っ!」
(これは……。足を骨折しているな)
崩落した瓦礫が運悪く当たったのだろう。痛々しく腫れ上がっていた。
「ハイ・ヒール!」
僕は迷わず彼女の足に手をかざして回復魔法を発動した。
魔法は足を淡い緑色の光に包み込むと数秒後には足に吸い込まれるように消えた。
「ここはまだ危険だ!立って歩けるかい?すぐにここから離れるんだ!」
「でも足が……。
えっ!?痛くない?骨折が治ってる!?
ヒールでは痛みは抑えられても完全には治せないのに……」
不思議がる彼女の手を引っ張り安全な場所まで移動させると僕はひとつの決心をしていた。
(このままでは埒があかないからこっそりと魔法を使おう!)
「シミリ、すまないけどちょっと行ってくるから待っていてくれ」
シミリは僕のその言葉だけで何をしようとしているか分かったらしく笑顔で頷いた。
(さすが僕の嫁。
こういった時に察してくれるのは本当にありがたいな)
そんな事を考えながら僕は少し離れた全体が見渡せる場所に移動した。
ほとんどの人は坑道口を見ていたのでこちらを注目する者はいなかった。
(ここならいいな、やるか……。
まずは邪魔な瓦礫の撤去からだな)
僕は瓦礫の山に向かって土魔法を展開した。
本来ならば何処か他の場所に持っていかなければ処理出来ない瓦礫だったが突然人の形に集まり巨大なゴーレムとなり、周りに人達が驚き腰を抜かしているのを尻目に自分で歩いて邪魔にならない広場に向かいそこで大きな土山に戻っていった。
(よし、邪魔な瓦礫は片付いたな。
次は怪我人の対策だ。エリア・ハイ・ヒール!)
有り余る魔力を使い、上級回復魔法をエリア展開して一気に発動させた。
辺り一面を暖かい光が包み込み怪我人のみならず治療にあたって魔力枯渇をおこしていた治癒士達も癒されていった。
(よし、これでもう大丈夫だろう。
あとは見つからないようにこっそりとシミリのそばに戻ればいいだけだ)
僕はそう思いながら治療場で待機していたシミリのもとへ急いだ。
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