79 / 120
第79話【目立たずに人助けをする方法】
しおりを挟む
ーーーそこは正に野戦場のようだった。
崩れた坑道入り口の瓦礫を何とか掘り出そうとする人。
崩落に巻き込まれて手足や体から血を流して助けを求める人。
それを必死で助けようと治療する人。
そこには無駄な人などひとりもいなかった。
「参ったな。
これじゃあ適当に端っこで傷薬の調薬でもしていようとの目論見は無理なんじゃないか?」
出来るだけ目立たないように行動しようと思っていた矢先、足りてない人数、足りてない治癒士、足りてない薬。
何もかもが不足しているように見えた。
「仕方ない。とりあえず手持ちの薬をあるだけ提供しよう。
あそこに治療が必要な患者を診る臨時の病院が設けられているようだからあそこに持って行こうか」
「そうですね。数量はあとでギルドに報告するとしてまずは怪我人の治療が先ですね」
僕達はすぐさま臨時の病院へ向かい、受付に在庫分の傷薬を提供した。
「ありがとうございます。
患者が多すぎて薬が底をつきかけていたので至急でギルドに発注をしていたところだったんです!
では、こちらをお持ちください。
今回の件が収まったらポイントと報酬が出ますのでギルドの受付に提出してくださいね」
「分かりました、ありがとうございます。
では私も多少の知識をもっていますので患者の治療を手伝いましょう。
シミリ、サポートを頼むよ」
「はい。何でも言ってください」
僕はそう言うと次々と運ばれてくる患者の治療にあたった。
「ーーーはい。これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
何人診察したか忘れた頃、ふと気がつくと隣で回復魔法を何度もかける声が聞こえた。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
しかし、何度唱えても魔法は発動しなかった。
そんな光景があちらこちらで見えるようになり、治癒魔法士達の魔力切れが顕著にあらわれてきていた。
「まずいな。怪我人はまだまだいるのに薬は不足してるし、治癒魔法士も疲弊している。
なんとかしないと共倒れになるぞ」
「そうですね。皆さんの懸命な救助で崩落した坑道からは次々と助けられていますが、まだまだ予断をゆるさない状況ですね」
(エリア・ハイ・ヒールでも使えばかなりの人が助かるだろうが、目立ち過ぎるしギルドへの報告が厄介だから出来れば使いたくないんだよな)
ガラガラガラ、ドドドドドドドド。
「うわぁ!逃げろ!!きゃあー!!」
僕が対策を考えていた時、突然坑道のある方向から大きな音と悲鳴が次々に上がった。
「どうした!?何があった!?」
「坑道の入り口がまた崩れてきたんだ!」
言われるままに坑道を見ると数人が土砂の下敷きになり呻いていた。
そこに見たことのある顔があるのに気がつき僕は慌てて走り出していた。
「大丈夫ですか!?」
そこに居たのは先ほどギルドで一緒に治療にあたった治癒士の女性であった。
名前は聞いていないが顔を覚えていたのは、一生懸命に治療にあたっていたのが印象に残っていたからだ。
「うっ……。痛っ!」
(これは……。足を骨折しているな)
崩落した瓦礫が運悪く当たったのだろう。痛々しく腫れ上がっていた。
「ハイ・ヒール!」
僕は迷わず彼女の足に手をかざして回復魔法を発動した。
魔法は足を淡い緑色の光に包み込むと数秒後には足に吸い込まれるように消えた。
「ここはまだ危険だ!立って歩けるかい?すぐにここから離れるんだ!」
「でも足が……。
えっ!?痛くない?骨折が治ってる!?
ヒールでは痛みは抑えられても完全には治せないのに……」
不思議がる彼女の手を引っ張り安全な場所まで移動させると僕はひとつの決心をしていた。
(このままでは埒があかないからこっそりと魔法を使おう!)
「シミリ、すまないけどちょっと行ってくるから待っていてくれ」
シミリは僕のその言葉だけで何をしようとしているか分かったらしく笑顔で頷いた。
(さすが僕の嫁。
こういった時に察してくれるのは本当にありがたいな)
そんな事を考えながら僕は少し離れた全体が見渡せる場所に移動した。
ほとんどの人は坑道口を見ていたのでこちらを注目する者はいなかった。
(ここならいいな、やるか……。
まずは邪魔な瓦礫の撤去からだな)
僕は瓦礫の山に向かって土魔法を展開した。
本来ならば何処か他の場所に持っていかなければ処理出来ない瓦礫だったが突然人の形に集まり巨大なゴーレムとなり、周りに人達が驚き腰を抜かしているのを尻目に自分で歩いて邪魔にならない広場に向かいそこで大きな土山に戻っていった。
(よし、邪魔な瓦礫は片付いたな。
次は怪我人の対策だ。エリア・ハイ・ヒール!)
有り余る魔力を使い、上級回復魔法をエリア展開して一気に発動させた。
辺り一面を暖かい光が包み込み怪我人のみならず治療にあたって魔力枯渇をおこしていた治癒士達も癒されていった。
(よし、これでもう大丈夫だろう。
あとは見つからないようにこっそりとシミリのそばに戻ればいいだけだ)
僕はそう思いながら治療場で待機していたシミリのもとへ急いだ。
崩れた坑道入り口の瓦礫を何とか掘り出そうとする人。
崩落に巻き込まれて手足や体から血を流して助けを求める人。
それを必死で助けようと治療する人。
そこには無駄な人などひとりもいなかった。
「参ったな。
これじゃあ適当に端っこで傷薬の調薬でもしていようとの目論見は無理なんじゃないか?」
出来るだけ目立たないように行動しようと思っていた矢先、足りてない人数、足りてない治癒士、足りてない薬。
何もかもが不足しているように見えた。
「仕方ない。とりあえず手持ちの薬をあるだけ提供しよう。
あそこに治療が必要な患者を診る臨時の病院が設けられているようだからあそこに持って行こうか」
「そうですね。数量はあとでギルドに報告するとしてまずは怪我人の治療が先ですね」
僕達はすぐさま臨時の病院へ向かい、受付に在庫分の傷薬を提供した。
「ありがとうございます。
患者が多すぎて薬が底をつきかけていたので至急でギルドに発注をしていたところだったんです!
では、こちらをお持ちください。
今回の件が収まったらポイントと報酬が出ますのでギルドの受付に提出してくださいね」
「分かりました、ありがとうございます。
では私も多少の知識をもっていますので患者の治療を手伝いましょう。
シミリ、サポートを頼むよ」
「はい。何でも言ってください」
僕はそう言うと次々と運ばれてくる患者の治療にあたった。
「ーーーはい。これで大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
何人診察したか忘れた頃、ふと気がつくと隣で回復魔法を何度もかける声が聞こえた。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
しかし、何度唱えても魔法は発動しなかった。
そんな光景があちらこちらで見えるようになり、治癒魔法士達の魔力切れが顕著にあらわれてきていた。
「まずいな。怪我人はまだまだいるのに薬は不足してるし、治癒魔法士も疲弊している。
なんとかしないと共倒れになるぞ」
「そうですね。皆さんの懸命な救助で崩落した坑道からは次々と助けられていますが、まだまだ予断をゆるさない状況ですね」
(エリア・ハイ・ヒールでも使えばかなりの人が助かるだろうが、目立ち過ぎるしギルドへの報告が厄介だから出来れば使いたくないんだよな)
ガラガラガラ、ドドドドドドドド。
「うわぁ!逃げろ!!きゃあー!!」
僕が対策を考えていた時、突然坑道のある方向から大きな音と悲鳴が次々に上がった。
「どうした!?何があった!?」
「坑道の入り口がまた崩れてきたんだ!」
言われるままに坑道を見ると数人が土砂の下敷きになり呻いていた。
そこに見たことのある顔があるのに気がつき僕は慌てて走り出していた。
「大丈夫ですか!?」
そこに居たのは先ほどギルドで一緒に治療にあたった治癒士の女性であった。
名前は聞いていないが顔を覚えていたのは、一生懸命に治療にあたっていたのが印象に残っていたからだ。
「うっ……。痛っ!」
(これは……。足を骨折しているな)
崩落した瓦礫が運悪く当たったのだろう。痛々しく腫れ上がっていた。
「ハイ・ヒール!」
僕は迷わず彼女の足に手をかざして回復魔法を発動した。
魔法は足を淡い緑色の光に包み込むと数秒後には足に吸い込まれるように消えた。
「ここはまだ危険だ!立って歩けるかい?すぐにここから離れるんだ!」
「でも足が……。
えっ!?痛くない?骨折が治ってる!?
ヒールでは痛みは抑えられても完全には治せないのに……」
不思議がる彼女の手を引っ張り安全な場所まで移動させると僕はひとつの決心をしていた。
(このままでは埒があかないからこっそりと魔法を使おう!)
「シミリ、すまないけどちょっと行ってくるから待っていてくれ」
シミリは僕のその言葉だけで何をしようとしているか分かったらしく笑顔で頷いた。
(さすが僕の嫁。
こういった時に察してくれるのは本当にありがたいな)
そんな事を考えながら僕は少し離れた全体が見渡せる場所に移動した。
ほとんどの人は坑道口を見ていたのでこちらを注目する者はいなかった。
(ここならいいな、やるか……。
まずは邪魔な瓦礫の撤去からだな)
僕は瓦礫の山に向かって土魔法を展開した。
本来ならば何処か他の場所に持っていかなければ処理出来ない瓦礫だったが突然人の形に集まり巨大なゴーレムとなり、周りに人達が驚き腰を抜かしているのを尻目に自分で歩いて邪魔にならない広場に向かいそこで大きな土山に戻っていった。
(よし、邪魔な瓦礫は片付いたな。
次は怪我人の対策だ。エリア・ハイ・ヒール!)
有り余る魔力を使い、上級回復魔法をエリア展開して一気に発動させた。
辺り一面を暖かい光が包み込み怪我人のみならず治療にあたって魔力枯渇をおこしていた治癒士達も癒されていった。
(よし、これでもう大丈夫だろう。
あとは見つからないようにこっそりとシミリのそばに戻ればいいだけだ)
僕はそう思いながら治療場で待機していたシミリのもとへ急いだ。
31
お気に入りに追加
3,236
あなたにおすすめの小説
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す
名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる