上 下
75 / 120

第75話【オルトの調薬対価は気分次第】

しおりを挟む
「オルトさん。
 今回は本当にありがとうございました。
 おかげで家族全員無事に新居にたどり着く事が出来ました。
 今回の件をギルドに報告して正当な功績ポイントをオルトさんに付与してもらう為に私が説明に来た所ですよ」

 声の主はディールだった。
 妻と娘は家で片付けをしているとの事だったので一緒には来ていなかった。

(そういえば、冒険者ギルドで待ち合わせをしていたんだったな)

「わざわざ来てもらってありがとうございます。
 では報告を一緒にお願いします」

 僕はディールと一緒に依頼報告のカウンターに行き、盗賊捕縛の報告を行った。

「えっ!?あの守衛室から報告があがっている盗賊捕縛の件はあなたが一人でした事だったのですか?
 本当に?十数人もいたと聞いていましたが……」

「はい。一応そうなんですが、ちょっと声が大きいですよ。
 あまり目立ちたくないのでもう少し小さな声でお願いします」

「あっ、しっ失礼しました。
 あまりにも驚いたものでしたので。
 えっと、現在オルト様はCランク冒険者でしたね。
 今回の功績はギルドポイントに加算しておきますね。
 そしてこちらが盗賊捕縛に対するギルドからの報奨金になります」

「ありがとうございます。
 それでは僕はこれで失礼します」

 僕は出された袋を受けとると早々にギルドを出ることにした。

「オルトさん。
 この後、ご予定はあるでしょうか?」

 ギルドを出た僕達はディールに呼び止められて予定を聞かれた。

「そうですね。
 先ほどの女性と約束をしていますのでそちらに行こうかと思ってますが」

「それでは今夜の宿はお決まりですか?」

「いえ、まだ決めてませんが」

「では出来れば家に泊まっていかれませんか?
 実はまだ着いたばかりですのでまだ営業はしてませんが、この度リボルテで酒場兼宿屋を開く準備をすませてカイザックから引っ越す際に今回の事件があったのです。
 ですので今日は客室全て空いています。
 お礼をしたいので是非泊まっていってください」

 僕がシミリをみると彼女が頷いたのでディールの提案を受けることにした。

「ありがとうございます。
 では先の約束が終わり次第、伺わせてもらいますので場所を教えておいてください」

「わかりました。
 では後程お待ちしております。
 ああ、食事も準備しておきますので他で食べないようにお願いしますね」

 ディールはそう言うと宿の方向へ走って行った。きっと準備を急ぐためだろう。

「さて、約束の時間になりそうだからそろそろ行かないとな」

 ーーーディールと別れた僕達は女性と約束した店に行き話を聞くことにした。
 女性は廻りに聞かせたくない内容との事で個室をとっていた。

「お待たせしました。
 では、お話をお聞かせいただけますか?」

「はい。私の名前はターナといいます。
 このたびは話を聞いてもらってありがとうございます」

「先ほどお話だと古傷の治療をしたいとの事でしたが詳しく聞いてもいいですか?」

「はい。あまり見て気持ちの良いものではありませんが診てもらわなければ話が進みませんね」

 ターナはそう言うと長めに延ばした前髪をそっと持ち上げて額を見せてくれた。
 そこにあったのは大きな切り傷。痛々しく横方向に傷痕が残っていた。

「これは昨年、薬草採取の仕事をしていた時に大型の獣に襲われた時に爪で斬られた跡です。
 その時は近くにいた冒険者が助けてくれたのですが簡易的な薬しかなくて傷痕が残ってしまったのです」

「なるほど、顔の傷痕は気になりますよね。わかりました。
 新たに薬を作りましょう」

 僕の言葉にターナは驚いて身を乗り出しながら質問をしてきた。

「えっ!?この傷痕、治るんですか?」

「そうですね。治せる薬は作れますよ」

「本当ですか?
 あっ!でも調薬って凄く高いって聞いた事があるのですが、あまりお金に余裕がないんです……」

 ターナは傷痕を治せると聞いて一瞬喜んだが、すぐに現実に戻されうつむいた。

「まあ、依頼調薬はそれなりにするものですからね。
 ああ、そうだ。でしたらこの街の話を聞かせてくれるならば無料でもいいですよ。
 僕達はこの街に来たばかりですのでいろいろ知りたいのです」

「話って……そんな事でいいんですか?」

「ええ、情報は対価ですからね」

 僕はニコリと微笑むと軽く頷き、ターナにはシミリと話をしてもらった。
 その間に僕は簡易調薬キットを取り出して塗り薬を作った。

「どうだい?シミリ。
 良い情報は聞けたかい?」

 調薬を終えた僕はシミリに首尾を聞いてみた。

「ええ。いくつか面白そうな話を聞けたわよ。
 後で要点をまとめて話してあげるわね」

「うん。よろしく頼むよ。
 じゃあこれが約束の治療薬だよ。
 量は少ないけどすぐに効果があると思うから試してみるかい?」

 僕は作った薬をターナに手渡して使うように促した。
 ターナはその薬をおそるおそる額の傷痕に塗り込んだ。

「そのくらいで大丈夫ですけど、ご自分で確認されますか?」

 僕は鞄から鏡を取り出してターナに渡した。
 それを受けとるとターナはソッと鏡を覗きこんだ。

「えっ!?ない……。
 傷痕がない?」

 そこあったはずのあれだけ隠したかった大きな傷痕は跡形もなく消えていた。

「ーーー本当にありがとうございました。
 このご恩は一生忘れません」

 店を出た僕達にターナが何度もお礼を言ってきた。
 それを少し照れぎみに受け止めながらディールの待つ宿へ向かって歩いていった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

貴族に転生してユニークスキル【迷宮】を獲得した俺は、次の人生こそ誰よりも幸せになることを目指す

名無し
ファンタジー
両親に愛されなかったことの不満を抱えながら交通事故で亡くなった主人公。気が付いたとき、彼は貴族の長男ルーフ・ベルシュタインとして転生しており、家族から愛されて育っていた。ルーフはこの幸せを手放したくなくて、前世で両親を憎んで自堕落な生き方をしてきたことを悔い改め、この異世界では後悔しないように高みを目指して生きようと誓うのだった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...