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第53話【悪党には手加減など無用】

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 シミリが出かけてから暫く調薬に没頭していたが何故か胸騒ぎがおさまらずに集中力が切れた僕は部屋にあった紅茶を片手に時間を確認した。

 そろそろ昼食の時間になるというのにシミリが帰って来ない。
 約束を忘れたり破ったりしたことのないシミリが……。

(何かトラブルでもあったのか?
 それとも服を選ぶのに時間がかかりすぎて遅くなっているのか?)

 僕はいつもと違う状態の彼女をひとりで買い物に行かせてしまった事を深く後悔していた。

(ちょっとそこまでの買い物だから大丈夫?明るい時間の街中だから安心?
 ーーー馬鹿か!?僕は。
 元々シミリは偽の借金のかたにされていたし、その後も刺客を向けられた。
 不用意にひとりにさせるのはあまりにも軽率すぎた)

 ーーータイムリミットだ。

 僕はいつも自分の力を抑えるために自分で作ったアクセサリーを着けているが、これを着けていると全ての能力が半分以下になるために今回はあえて外して捜索する事にした。
 嫌な予感が背中を流れる冷たい汗に表れていた。

(ただの杞憂であればいい。
 ただ、選ぶのに時間がかかったから遅くなっただけならいい。
 ちょっと怒ったふりをして諭してやれば終わるからだ。だがそうでないなら……)

 僕は今までになく感覚を研ぎ澄ましてシミリの持つ魔道具ペンダントの軌跡を追った。

 あれは自分が造ったものだから魔石の波動はすぐに分かる。

 シミリが魔道具ペンダントを起動してくれれば一番早いんだが、手を縛られていたりとりあげられていたらどうしようもないと言う弱点もある。
 だが魔道具ペンダント自体がある所が分かれば少なくともシミリの足取りのヒントにはなるだろう。

(ーーー見つけた!西の区画に反応があるがシミリが自分で行ったはずはないから何かトラブルに巻き込まれたか魔道具ペンダントだけ盗まれたかになるだろう。
 すぐに行くから無事でいろよシミリ!)

 僕は周りの事など気にせずに反応のあった場所へ屋根づたいに高速で向かった。
 幸い騒ぎにはならずに目的の西区画に辿りついた僕はある屋敷の前に立っていた。

(ここか……)

 僕はもう一度、魔道具ペンダントの波動とシミリの気配を確認して間違いなく屋敷内に居る事を確信して正面から堂々と入っていった。

「なんだお前は?ここが何処だか分かってるのか?」

 すぐに数人のチンピラ風の男達が取り囲んできたが吠える男達を無視して僕は手近にいた番頭らしき男に向かって言った。

「ここにシミリと言う女の子が連れ込まれたはずだ。
 僕は彼女のパートナーだから悪いが返してもらうぞ。
 今の僕は機嫌がすこぶる悪いから攻撃してきたら殺されても文句を言うなよ」

 僕はそう宣言するとシミリの居る部屋に向かって歩きだした。

「なに勝手してやがる!死ね!」

 チンピラのひとりが刀で切りかかってきたが僕は体をずらして刀を避けたと同時に魔法で作り出した刃で男の首を切り落とした。

「ひっ!?」

 番頭らしき男は荒事は免疫がないらしく切り落とされたチンピラの首を目の前にして腰を抜かしていた。

「この野郎!魔法使いか!?魔法は連発出来ねぇから一斉にかかるんだ!」

 何とも芸のない男達だった。
 まあ、チンピラとはその程度だろうと振り返りもしないで放った風魔法に男達は悲鳴の一つも上げれずに絶命していった。

「そこをどけ!邪魔をするな」

 それからも出るわ出るわ三下どもがわらわらと行く手を阻んできたが怒号と悲鳴を残して全滅していった。

   *   *   *

 ーーーオルトが乗り込むほんの少し前。

「娘、心は決まったか?私としては素直な方が良いと思うがな」

 男は相変わらず好色な顔をシミリに向けて最終確認をしてきた。
 シミリはまだ逃げ出す方法を見いだせていなかったがこの場凌ぎの曖昧な返答は持ち合わせていなかった。

「お断りします。
 何があろうとも絶対に屈したりはしません!」

 それを聞いた男は心底残念そうな顔をし、シミリの顔をはたいた。

「つっ!」

 シミリは痛みに思わず呻き声をあげた。

「仕方がない奴だな。
 まあ無理矢理やるのもそれはそれでそそるものがあるわい。
 小娘のくせにいやらしい体をしおって。
 どれ、その邪魔な服を剥ぎ取ってくれるわ」

 男がシミリの服に手をかけようとしたその時。
 入口側の部屋から怒鳴り声と叫び声が聞こえ、それはどんどん大きくなっていった。

「何事だ!?」

 男はシミリに伸ばした手を止めて入口に待機していた男達に状況を確認した。

「何者かが殴り込んで来たようです!
 どうやらその女を取り戻しに来た様子で今対応をしています。
 ぐわっ!?」

 報告をしていた男が突然反対の壁に激突して倒れこんだ。

「ひっ!?なっ何があった!?」

 男は目の前の状況が把握出来ずにその場で固まっていた。
 そこに怒りを必死で制御しながらシミリを探すオルトが姿を現した。
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