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第52話【浮かれた時に起こるもの】

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(えっと、女性専門の服屋さんって何処にあったかしら。
 今までは普通の男女とも扱うお店にしか行ったことなかったから詳しくないのよね。
 しまったな、おかみさんに聞いておけば良かったな)

 シミリは店先の看板を見ながら服屋を探していたがその姿を好色な目で見る人影があった。それは控えていた者に何かの指示を出してから馬車に乗り込んだ。

(うーん。どこにあるんだろ?この辺りはあまり詳しくないからなぁ。
 だけどやっぱりこの胸は大きすぎるよね。
 合うサイズが無かったから胸あてをしてないからかもしれないけれど重いし揺れて痛いし、なんか周りの視線が粘っこい気がするし……。
 早く服屋さんを見つけて胸あてを買わないといけないわね)

 シミリが服屋を探して一つ裏通りに入った時、若い男に声をかけられた。
 チンピラ風では無くどちらかと言えば男前で身なりもまともだった為にシミリは必要以上の警戒をしなかった。

「お嬢さん。何かをお探しですか?」

「ええ、服屋さんを探していますの。
 この辺りにあると聞いていたものですので」

「この辺りの服屋と言うと『ミール女性洋服専門店』ですか?
 あそこはちょっと分かりにくい通りにありますからね。
 せっかくの縁ですので案内しましょうか?」

 普段なら絶対に断っていた。
 でも、この時のシミリは早く服屋に行きたい気持ちで思考が鈍っていた。

「本当ですか?ありがとうございます。
 助かります」

 男はニコリと笑うと服屋に向かって歩きだした。
 シミリはその横をてくてくと付いていった。

「あの店ですね」

 男が指差す先に服屋の看板が見えた。

「ありがとうございます」

 シミリはお礼を言ってお店に向かおうとしたその時。

「ああ、お嬢さん。
 お店に行く前にひとつだけ私の話を聞いて貰えませんか?」

 親切に案内してくれた男性の言葉を無下に断るのも悪いと話だけ聞く事にしたシミリに男性が誘いの言葉をかけた

「私はお嬢さんほどの魅力的な方を今まで見たことはありません。
 この後一緒に食事でもどうでしょうか?」

(ナンパ?もしかして私ナンパされてる!?)

 シミリは今までナンパなどには全く縁が無く同年代の男性から誘われる事など経験がなかった。
 オルトと出会っていなかったら食事くらい誘いにのったかもしれなかった。
 だが……。

「すみません。案内して貰って助かりましたが初対面の男性の方との食事は遠慮させてもらってますので……」

 シミリがやんわりと断っていると物陰から数人のチンピラ風の男達が現れてシミリを囲んでいった。

「なっなんですか!?あなた達は!」

 チンピラ風の男達が出てきた瞬間から先程まで紳士的な態度だった男性も態度が一変し、シミリの体を舐めまわす感じでニヤニヤとシミリに言った。

「ちっ。素直に付いてくれば怖い思いをせずに済んだだろうに。
 今からあんたはあるお方の元に行く事になる。
 素直に従えば三食小遣い付きの宿にご招待だ。
 逆らえば少々痛い思いをしないといけないかも知れないな。
 逆らう気もしなくなる程の教育が待ってるからな」

「ハハハハ、ちげぇねぇ。
 あの人の教育はしつこいからな。
 気が狂う前に素直になった方が賢いぜ」

 男達は好きな事を言いながらシミリの腕を掴み、口を塞いで近くに停めてあった馬車に押し込んだ。

 拉致されながらシミリは自分の軽率な行動を後悔していた。

(何で今日はオルト君と出掛けなかったの。
 私ひとり浮かれて騙されて何処かに連れて行かれて……。
 ごめんなさい。オルト君)

 シミリを乗せた馬車は街の西側に向かって軽快に走っていった。
 ある人物の元に向かって……。



 ーーー暫く走っていた馬車が止まり。
 手を縛られ、目隠しをされたシミリは男に抱えられて何処かの屋敷に連れ込まれた。
 そこは豪華な造りの屋敷で周りの装飾品も高級なものばかりだった。
 シミリはその一部屋で後ろ手の拘束以外を解かれたが部屋の入口では屈強な男達が逃げ出さないように目を光らせていた。

「おお、連れて来たか。よくやった。
 後で褒美を持たせるから下がっておれ」

 入口から恰幅の良い中年の男が現れ見張りの男達に下がるように指示を出していた。
 おそらくこの人物がシミリをさらう指示を出した黒幕に違いなかった。
 人払いをした男はシミリに向かって言いはなった。

「お前、今日から私の愛人になれ。
 さすれば好きな服も装飾品も食事も望むものを買い与えよう。
 ただし、断ったり逃げようとしたら私の『教育』を受けて貰う。
 私の教育は少しばかり激しいぞ。
 大抵は一日と持たずに素直になるがな」

 男は好色な目でシミリの体を見るとニヤニヤと笑いながらシミリの回答を待った。

「お断りします。
 私には大切な人が居ます。
 あなたのような人になびく道理はありません」

「ほう。小娘が言いよるわ!
 まあ、今までにも威勢のいい娘は何人もいたがすぐに泣いて許しを乞うていたわい。
 まあ、私も鬼ではないから少しばかり時間をやろう。
 一刻ほど良く考えるんだな。
 ちょうど昼時だ食事くらいは出してやるからそれを食って結論を出すといい」

 男はそう言うと控えていた男達に見張りと食事の手配を指示して何処かに消えていった。
 残されたシミリはどうすればこの状態から抜け出せるかを必死で考えていた。
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