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第37話【奇跡の瞬間と大粒の涙】
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「セーラ!どっどうだ?見えるのか?」
クロイスは娘に声をかけた。
奇跡を信じて……。
「お父様……」
セーラは部屋をゆっくりと見回してから父クロイスに向いて大粒の涙を流しながら答えた。
「見えます。部屋もベッドもお外も……そしてもちろん、お父様も!」
「セーラ!!」
父クロイスは娘を抱き締めた。
大粒の涙を流しながら……。
* * *
何度裏切られただろうか?
名医と呼ばれた医師や薬師、天才と言われた治癒魔法師。
何人もの治療師を呼んで娘の治療を頼んだ。
『自分に治せない患者など存在しませんよ』
『この治療で治らなかった病気はありません』
『私に分からない病気は存在しないのだよ』
治療を始める前には皆威勢のいい言葉が飛び交ったが、いざ治療を始めると
『そんな馬鹿な!?』
『こんなはずでは!?』
『私に分からない病気が存在するなんて信じられない』
ーーー私には無理です。
皆最後には諦めの言葉を吐き出して見捨てていった。
いつしか私は(娘の病気は一生治らないのではないか?)、(私の領主としての行いに神が罰を下しているのではないか?)とさえ思うようになった。
そんな矢先に駄目もとでギルドに出していた治療依頼に反応があった。
ギルドからの報告によると流れの薬師らしかった。
実績としてはほぼ無名であったが商人付きの重傷だった護衛を助けたとあったので会うだけはしてみるかと繋ぎを頼んだ。
そこに居たのはまだ成人したばかりの若い男女で男が薬師と名乗った。
言葉使いは一応丁寧に話すが私を領主と知っても対等に交渉してくる平民に私は
(無駄足だったか……)
と私が早々に諦めていた時、その男は断言した。
「お嬢さんの病気は僕にしか治せませんよ」
私は耳を疑った。
いや『またか』との思いだったのかもしれない。
何度となく期待を裏切り続けられた私の心は疑う事しか出来なくなっていたのだろう。
しかし、男の聞いた事のない知識と画期的な治療方法の説明に心が揺らいだ。
私が早々に諦めさせる為に言った脅しにも近い条件をあっさりと受けた男を信じてみる気にさせたのだ。
治療の契約をしてからの男の行動は早かった。
見たことも無いはずの特効性治療薬をすぐさま準備し、娘を不安にさせない為の手順を企画して見事に治療を成功させた。
娘を胸に抱き締めながらクロイスは今日起こった奇跡を噛み締めていた。
「お父様。痛いです」
娘の言葉にクロイスは強く抱き締めすぎたと娘を解放して、涙を拭いながら僕に向き直り深々と頭を下げた。
「娘を助けてくれて本当にありがとう。
親として感謝してもしきれない恩を貰ってしまったようだ。
この恩はどう返したらいい?」
領主としてでは無く、一人の父親として平民に頭を下げたクロイスに僕は答えた。
「僕は依頼を遂行しただけですので依頼人である領主様に必要以上の恩を売るつもりはありません。
僕達としては契約通りの報酬と約束を守って頂ければ他に望むもの等ありません。
明日より三日間は点眼薬をお願いしたいのでここに置いておきます。
くれぐれも約束をお忘れなきようにお願いしますね」
「分かった。約束は必ず守ろう。
しかし、我が領地の専任薬師として仕えるつもりはないか?
君の腕ならば間違いなく領地一番の薬師になるだろう」
「その件につきましては最初にお断りしたはずです。
僕達は貴族の子飼になる気はありませんので。それでは失礼します。
セーラ嬢も治ったとはいえ、まだ安定してませんので点眼薬を忘れずにお願いしますね」
「最後まで口の減らないやつだ」
僕はクロイスの話を流しながらセーラ嬢に向き直り点眼薬の説明をした。
「うん。ありがとうお兄ちゃん。
お兄ちゃんが私の目を治してくれたんでしょ?また遊びに来てくれるとセーラ嬉しいな」
「そうだね。
機会があればまた会う事もあるかもしれないね。お大事にね。
それでは失礼します」
僕達は挨拶を済ませると早々に屋敷を後にした。
念のために追っ手が来ないか警戒していたが杞憂に終わった。
「ギルドに使いを寄越してあの薬師に渡す報酬の準備を頼む。
ギルドランクの件もセザンヌに伝えておいてくれ」
「分かりました。
仰せのままに対応いたします」
あの薬師何者だったのだ?『過度の干渉をするな』か、訳ありなのか知らないが娘を助けてくれた事は間違いないので暫くは様子をみるとしよう。
クロイスは領主として領地の繁栄になるオルトを取り込みたい気持ちを抑えて今は娘の回復を素直に喜ぼうと気持ちを切り替えていた。
クロイスは娘に声をかけた。
奇跡を信じて……。
「お父様……」
セーラは部屋をゆっくりと見回してから父クロイスに向いて大粒の涙を流しながら答えた。
「見えます。部屋もベッドもお外も……そしてもちろん、お父様も!」
「セーラ!!」
父クロイスは娘を抱き締めた。
大粒の涙を流しながら……。
* * *
何度裏切られただろうか?
名医と呼ばれた医師や薬師、天才と言われた治癒魔法師。
何人もの治療師を呼んで娘の治療を頼んだ。
『自分に治せない患者など存在しませんよ』
『この治療で治らなかった病気はありません』
『私に分からない病気は存在しないのだよ』
治療を始める前には皆威勢のいい言葉が飛び交ったが、いざ治療を始めると
『そんな馬鹿な!?』
『こんなはずでは!?』
『私に分からない病気が存在するなんて信じられない』
ーーー私には無理です。
皆最後には諦めの言葉を吐き出して見捨てていった。
いつしか私は(娘の病気は一生治らないのではないか?)、(私の領主としての行いに神が罰を下しているのではないか?)とさえ思うようになった。
そんな矢先に駄目もとでギルドに出していた治療依頼に反応があった。
ギルドからの報告によると流れの薬師らしかった。
実績としてはほぼ無名であったが商人付きの重傷だった護衛を助けたとあったので会うだけはしてみるかと繋ぎを頼んだ。
そこに居たのはまだ成人したばかりの若い男女で男が薬師と名乗った。
言葉使いは一応丁寧に話すが私を領主と知っても対等に交渉してくる平民に私は
(無駄足だったか……)
と私が早々に諦めていた時、その男は断言した。
「お嬢さんの病気は僕にしか治せませんよ」
私は耳を疑った。
いや『またか』との思いだったのかもしれない。
何度となく期待を裏切り続けられた私の心は疑う事しか出来なくなっていたのだろう。
しかし、男の聞いた事のない知識と画期的な治療方法の説明に心が揺らいだ。
私が早々に諦めさせる為に言った脅しにも近い条件をあっさりと受けた男を信じてみる気にさせたのだ。
治療の契約をしてからの男の行動は早かった。
見たことも無いはずの特効性治療薬をすぐさま準備し、娘を不安にさせない為の手順を企画して見事に治療を成功させた。
娘を胸に抱き締めながらクロイスは今日起こった奇跡を噛み締めていた。
「お父様。痛いです」
娘の言葉にクロイスは強く抱き締めすぎたと娘を解放して、涙を拭いながら僕に向き直り深々と頭を下げた。
「娘を助けてくれて本当にありがとう。
親として感謝してもしきれない恩を貰ってしまったようだ。
この恩はどう返したらいい?」
領主としてでは無く、一人の父親として平民に頭を下げたクロイスに僕は答えた。
「僕は依頼を遂行しただけですので依頼人である領主様に必要以上の恩を売るつもりはありません。
僕達としては契約通りの報酬と約束を守って頂ければ他に望むもの等ありません。
明日より三日間は点眼薬をお願いしたいのでここに置いておきます。
くれぐれも約束をお忘れなきようにお願いしますね」
「分かった。約束は必ず守ろう。
しかし、我が領地の専任薬師として仕えるつもりはないか?
君の腕ならば間違いなく領地一番の薬師になるだろう」
「その件につきましては最初にお断りしたはずです。
僕達は貴族の子飼になる気はありませんので。それでは失礼します。
セーラ嬢も治ったとはいえ、まだ安定してませんので点眼薬を忘れずにお願いしますね」
「最後まで口の減らないやつだ」
僕はクロイスの話を流しながらセーラ嬢に向き直り点眼薬の説明をした。
「うん。ありがとうお兄ちゃん。
お兄ちゃんが私の目を治してくれたんでしょ?また遊びに来てくれるとセーラ嬉しいな」
「そうだね。
機会があればまた会う事もあるかもしれないね。お大事にね。
それでは失礼します」
僕達は挨拶を済ませると早々に屋敷を後にした。
念のために追っ手が来ないか警戒していたが杞憂に終わった。
「ギルドに使いを寄越してあの薬師に渡す報酬の準備を頼む。
ギルドランクの件もセザンヌに伝えておいてくれ」
「分かりました。
仰せのままに対応いたします」
あの薬師何者だったのだ?『過度の干渉をするな』か、訳ありなのか知らないが娘を助けてくれた事は間違いないので暫くは様子をみるとしよう。
クロイスは領主として領地の繁栄になるオルトを取り込みたい気持ちを抑えて今は娘の回復を素直に喜ぼうと気持ちを切り替えていた。
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