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第21話【街の噂話と悪徳商人の受難】

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 朝になり少し遅めの朝食をシミリと摂っていると噂好きな冒険者達が話しているのが聞こえてきた。

「おい、聞いたか?あのゼクス商会に泥棒が入ったそうだぜ。
 そして盗まれた物はなんと酒だそうだ。
 しかも盗まれ方が普通じゃなくて酒蔵ごと消えたそうだぜ」

「なんだそれは?
 酒樽じゃなくて?酒蔵?
 そんな事どうやったら出来るんだ?」

「だから普通じゃないと言っただろう。
 周りの奴らは天罰だとか悪魔の仕業とか好きな事を言ってるが真実は全く分かってないらしい。
 見回りも確認に行ったら蔵が無かったと言ってるらしいしな」

(よしよし。僕達の仕業とはバレてないようだな。
 おそらく今頃は村に向けて伝令が走っている頃だろうが本人が確認にくるまで早くても5日はかかるだろう。
 奴が呆然とする姿を見たい気持ちもあるが僕達は顔を知られているからリスクが高すぎる。
 暫くの間はこの街を離れていた方が無難だろう)

 そう思い、僕は小声でシミリにそれらの事を伝えたがシミリは即座に首を横に振った。

「このまま街を出たなら両親の敵がどうなったか噂でしか分からなくなります。
 危険は承知ですけど事の顛末をしっかりこの目で確かめたいです。
 駄目ですか?」

 シミリは強い眼差しで僕を見つめて手を握り懇願してきた。

(確かにシミリの言う通りかも知れないな。
 僕には単なる何処にでも湧いて出る金が全てのいやしい奴にしか思ってなかったが、シミリには両親を追い詰めて過労死させた敵だから顛末を見たいと思うのも当然かも知れない)

「分かった。シミリの気持ちを大切にしよう。
 但し僕達は顔を知られているので危険だから変装をするよ。明日から3日以内に旅の準備をした後、変装して奴を隠れて監視しよう」

 これからの行動を決めた後、酒蔵をどうするかを決めかねていた僕は、ふと良い事を思い付いてシミリに相談する事にした。

「シミリ、酒蔵なんだけどこのまま持って行っても邪魔になるだけだから置いていこうと思うんだ。
 僕達の目的はゼクス商会にダメージを与える事であって品物を盗む事が目的では無いのだから。
 だけど普通に返すのは面白くないから少し面倒だけど嫌がらせをしてやろうと思う」

 僕は街を冒険者ギルドのカードを提示して森へ行き、ある場所に酒蔵を取り出して鍵を魔法で開け、貴族に献上するであろう高級な瓶に入っている酒と普通の瓶に入っている酒を僅かな量だが飲み比べてみた。

「味が全然違うのは分かる。
 高級酒はまともに作った酒だと思われるが、明らかに安酒には混ぜ物が入っているのか雑味が多く、水っぽい味がしていた。
 こいつは酷いな、庶民はこんな酒を高値で買わされていたのか。
 本当にろくでもない事をする奴だな」

 僕は収納鞄の能力をフル活用して高級酒の中身を抜き取りかわりに安酒をつめていき、高級酒の中身は蔵の中にあった空瓶につめて今後の交渉に使うために少々徴収しておいた。

「このくらいは酒蔵を運んだ運賃がわりだ。
 僕が飲む訳じゃないけど酒は交渉に有効だから僕達が有益に使ってあげよう」

 僕は自分に言い訳をしながら中の状態を不自然のない状態にしてから、また鍵をかけておいた。

「よし、これでゼクス商会の信用は地に落ちるだろう。楽しみにしていろよ」

   *   *   *

 その頃村ではゼクスが早馬の伝令報告を受けて叫んでいた。

「なんだと!酒蔵が消えただと!?
 馬鹿も休み休み言え!
 なんだ?盗賊でも入って酒樽を盗まれでもしたのか!?」

「いえ!本当に酒蔵が消えたのです!
 建物自体が何も無くなっていたのです!」

「馬鹿言え!そんな事が出来る訳が無いだろうが!!
 ええい!埒があかないから私が直ぐに向かうから馬車と護衛を準備しろ!
 3日後には伯爵様に蒸留酒を献上する予定だっただろう?
 無理ならば私が直接行ってお詫びと説明をしなければならないから絶対に3日で着けるようにするんだ!」

 ゼクスは廻りの者に激をとばしながら自らも準備を完了させて急ぎエーフリの街に向けて出発した。

「全く、何だと言うのだ。
 結局、あの女を捕らえに行かせたゴロツキ冒険者どもからは何も連絡は無いうえに今回の件だ。
 どうも最近事が思い通りに行かないことが多すぎる」

 ゼクスは独り言をぶつぶつと言いながら良い言い訳は無いかと道中考えながら街へ急いだ。

   *   *   *

 その頃、僕達は顛末を見届けた後はここから5日程離れた港町に拠点を移すつもりで準備を進めていった。
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