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第9話【口止めの根回しと金貨の価値】

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 あの後、宿に戻った僕は宿の主人からウスビーさんの娘はどうなったかを当然のように聞かれた。

「それでウスビーさんの娘さんの件はどうなりましたか?
 無事に治ったのでしょうか?」

「その件については話す前にちょっとお願いしたいことがありますがいいですか?」

「あ、ああ別にいいですがなんでしょうか?
 宿代がないからまけてくれとかは勘弁してくださいよ?」

 宿の主人は僕の前にエールを置くと次の言葉を待った。

「まず今から言う事と僕の事、例えば名前や人相を他人に話さない事を約束してください。
 まあ、宿屋の主人がペラペラとお客の情報を他人に話すなんてとんでもない事だから無いとは思いますが、例えば“ギルドのお偉いさん”や“貴族の使い”とかが来てもですよ」

 僕がそこまで言うと宿の主人は急に緊張した顔になり僕の向かい側に座ると声を落として「どういう事なんだい?」と聞いた。

(しゃべらないという言質は取れなかったけど聞くつもりなら大丈夫だろう。
 話して態度が怪しければ力づくで口止めするとしよう)

 僕はそう考え必要な情報を掻い摘んで話す事にした。

「まず、ウスビーさんの娘さんの病気は無事に完治しました。
 病気の原因はババーラの花の毒でしたが、たまたま僕が解毒薬を持っていたのでそれを服薬してもらうと思ったよりも効果があって回復されたんです」

 その話を聞いていた宿屋の主人は怪訝そうな顔をしながら僕に言った。

「あんた一体何者だい?
 病気の究明もそうだが珍しい解毒薬を持ってたとか普通に考えてあり得ないよな?
 まさかあんたが毒を仕込んで……てある訳ないか。
 ずっとこの村で宿屋をやってるがあんたは初めて見る顔だ。
 そんな奴がわざわざそんな事をする意味が無いもんな」

 僕は出されたエールを一口飲むと続きを話し始めた。

「どう思われようと薬は持っていたとしか言えないですね。
 作り方は秘密ですが、そうですねまだもう1本ありますから差し上げましょう。
 どなたか病気で苦しんでいる方が居れば飲ませてあげてください。
 病気の種類にもよりますが大抵の病気なら大丈夫でしょう。
 ああ、怪我には効きませんから注意してください」

 僕は鞄から薬瓶を1本取り出してテーブルに置いた。

 宿屋の主人はそれを手に取ってまじまじと眺めて僕に言った。

「効き目は本物かい?そんな万能薬なんて聞いたこともないぞ。
 俺を担いでるんじゃないだろうな?」

「まあ、そう思われるのが普通ですよね。
 この薬は僕の祖父が長年改良して作り上げた薬ですからまだ知られてはいないと思いますよ。
 ですが作るのが結構大変で大量には作れないんです。
 ここまで言えばさっきの言葉の意味が分かりますよね?
 この事が権力者に知れると僕を探しだして拘束し、薬の作り方を教えるように強制されるに決まってます。
 それは僕にとって非常に都合が悪いんですよ」

 そう言うと僕は銀貨を1枚テーブルに置いて宿の主人に言った。

「宿代1泊小銀貨3枚だったよね。
 昨日の分はデルターさんが払ってくれたからあと2日分先払いしとくよ。
 明後日にはここを出るから宿代の残りで弁当と携帯食料を用意してくれると助かる。
 くれぐれも僕の話を不用意に他人にはしないでくれよ」

 僕はウスビーに貰った巾着袋を鞄に入れながらふと宿の主人に聞いてみた。

「ところで“金貨”ってどのくらいの価値があるんだ?」

「金貨?あんた金貨なんて持ってるのか?
 金貨なんて私達平民は殆んど縁がないものだぞ。
 まあ豪商人が仕入れをするのに持つくらいで何でもない普通の平民が買い物とかで出したら“盗品”扱いですぐに衛兵がとんでくるぞ。
 一応言っとくが1金貨=10小金貨=100銀貨=1000小銀貨=10000銅貨になるからな。
 まあ平民が金貨なんて持つもんじゃないよ出したら通報されて出所吐くまで尋問された揚げ句に因縁つけられて没収が相場だ」

(なんて理不尽な世界なんだ!そこまで権力者達は腐ってるのか?
 若しくは衛兵が屑なのか?
 まあどちらにしてもろくな奴らじゃあないのだけは分かったから気を付ける事にしよう)

 僕は宿の主人にくれぐれもさっきの内容を守るように念をおしてから部屋に戻った。
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