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第8話【出来る人助けと出来ない自嘲】

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 その後、僕は朝食もそこそこにウスビーに連れられて病気の娘が待つ屋敷に向かった。

 バン!

 ウスビーが慌てた様子で勢いよくドアを開いた。

「エーコ!医者を連れてきたぞ!もう大丈夫だ、いま助けてやるからな!」

(いや、僕は医者ではないとさっきもハッキリ言ったはずだけど……まあいいか)

 僕はウスビーに続いて病気の娘が待つ部屋に入るとそこにはひとりの少女がベッドに臥せっていた。

「けほけほけほ!うっ!ゲホゲホ!!カハッ!」

「ああ!エーコ!なああんた頼むよ!エーコを娘を助けてくれ!」

 激しく咳き込む娘を見るとまだ10歳にも満たない小さな女の子だった。

 長く病気を患っていたのか色白で今にも儚い命の灯火が消えようとしていた。

「それでは今から娘さんに幾つか魔法をかけますが治療が終わるまで私に話しかけないでください。
 治癒魔法は他の魔法に比べて集中力を使いますから」

 僕はウスビーにそう言うとエーコにかけてあった布団をめくり、頭から足先まで順に手をかざしてから魔法を唱えた。

「身体探索!」

 僕の魔法はエーコの体の症状を細かく分析していき、サーチが終わった箇所から徐々に淡く光が浮かんでくる。

 頭、胸、腰、手、足、調べ終わると次々に悪い箇所と治療方法が頭に浮かんできた。

(やはり“毒”か、全身に廻っていて特に肺の機能が致命的に衰えている。
 これを治すにはディスポイズン後にハイヒールを施すのが最適か。
 しかし、ここで高度な治癒魔法を見せていいものか?)

 僕が迷っていると、エーコにまた発作が始まった。

「ゲホゲホゲホ!お父さん苦しいよ。
 お願い助けて。ゲホゲホゲホ!」

 目の前の小さな女の子が苦しむ姿を見て、僕の迷いも何処かに消えた。

(馬鹿か僕は?何で自分の保身ばかり考えて迷ってるんだ。
 目の前の苦しんでる人を救えないで後悔するぐらいなら感謝されて口止めした方が万倍マシだ!!)

 僕は迷いを振りほどくとエーコに向かって治癒魔法を唱えた。

「ディスポイズン!」

「ハイヒール!」

 僕の魔法は光の珠となりエーコの体を優しく包み込んだ。

 その光を呆気にとられた様子で眺めるウスビーだったが、しだいに光が薄れてきてエーコの体が確認出来る程に落ち着いた。

「エーコ!?エーコ!?」

 ウスビーが娘の名前を呼ぶとエーコが目を覚ましてベッドに上半身を起こして呟いた。

「あれ?苦しくない……。
 胸が苦しくないわ!手も足も頭も痛く無い!私、生きているの?これは現実?それとも夢?」

「エーコ!!」

 次の瞬間ウスビーは娘の体を強く抱きしめて泣きながら叫んだ。

「エーコ!エーコ!!良かった!!本当に良かった!!」

「お父……さん?私……」

「もう大丈夫だ!父さんはここにいる!エーコの病気も必ず良くなるからな!!」

 ウスビーは娘を抱きしめながら僕に何度もお礼を言ってきた。

「本当にありがとう!君は娘の命の恩人だ!本当に、本当にありがとう!!」

 何度もお礼を言うウスビーに僕は病気の詳細と原因をサーチで得た情報を基に説明した。

「なんと、あの花にそのような危険な一面があるとは!?
 直ぐにギルドに連絡して周知をさせないと娘のような者が出るかも知れない!」

 エーコの命を奪おうとしていた花は“ババーラの花”と言われている花で、とても美しい花を咲かせるが鋭いトゲがあり不用意に触ると怪我をする可能性があった。

 しかし今までにギルドへの報告では、毒の報告は無くて何故今回エーコが毒を受けてしまったのかは“解析”が教えてくれた。

 それはババーラの花が年に一度だけしかも早朝の数時間のみ受粉の為に花の色が変わる時に周囲の外敵から身を守るためにトゲから毒が分泌されると言うものだった。
 エーコは運が悪いことにたまたまその時間帯に傷をおってしまったと言う事だった。

 恐らく今までも同様の事故はあったはずだが全て“原因不明”とされてきたに違いなかった。

「もう大丈夫だと思いますよ」

 僕は念のためにエーコに再度サーチをかけて完全に毒が消えている事を確認するとウスビーに向かって真剣に話しかけた。

「ウスビーさん。申し訳ないのですが、今回の治療の件と僕の事は黙っててもらえませんか?
 実はまだギルドに冒険者登録もしていない身なので勝手にこんな事をしたのがバレると色々と面倒なことになると思うので秘密にして貰えると助かります。
 勿論ババーラの花の事とかギルドに連絡しといた方が良いのですが娘さんを治した件については、旅の冒険者が治してくれて原因ほババーラの花の毒だと話していた。
 お礼をしたいと言ったが名前を告げずに出発してしまった。
 とでも言って欲しいんです」

 僕はアイテムバッグから薬の瓶を取り出して机の上に置いた。

「これは解毒作用のある薬ですが、もし村の人で同じような症状の方がいれば飲ませてあげてください。
 まあ口止め料のかわりとでも思ってください」

 僕の言葉にウスビーは口を開けたまま呆けていたが何とか我に返り僕に言った。

「いったい何を言ってるんですか!?
 助けて貰ったのは私達親子の方なんですよ!
 その恩人が秘密にして欲しいと言われている事をべらべらと話す者が居るものですか!
 それを口止め料と言って高価な薬まで置いて行こうとするなんて!」

 ウスビーは抱きしめていた娘を降ろし、僕に深々と頭を下げてお礼を言ってきた。

「本当にありがとうございました。
 あなたのおかげで娘のエーコも命を落とさずに済みました。
 感謝の言葉しかありません。
 あなたの希望である内容の秘匿は必ず守るようにします。
 運の良い事に私はあなたのお名前を聞いていませんので誰かに聞かれても答えようがありません。
 それは娘も同じです。
 ただ、このまま帰って頂くのは私の気持ちが収まりませんのでこれだけは受け取ってください。
 これからの旅に邪魔になるものではありませんので」

 そう言ってウスビーはお金の入った布袋を差し出した。

 僕は遠慮しようと考えたが先立つ物が無ければ旅は続けられないと思い、有り難く受けとる事とした。
 後で確認したら中に金貨が1枚と銀貨が数十枚入っていたのでかなり驚いた。
 孤児院で貰ったのが銅貨数枚だった事から考えるとかなり凄いお金だと言う事だけは分かるが価値がよくわからないので後で調べることにした。

(やってしまったな……)

 今回はウスビーさんが良い人だったから秘密を守ってくれそうだったがやはり“チート能力の自重はしなければいけない”だろうと思いながら宿に戻っていった。

(しまった、宿の主人もうまく誤魔化しておかないといけないんだった。
 やはりやり過ぎると後始末も大変だし、自重は大切だな)

 出来るはずもない自嘲論を自分の中で納得しながら宿に戻っていった。
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