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第4話【どこの世界も悪党は身勝手なもの】

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 いよいよ今日は特訓を終えた山を降りて街を目指す朝だ。

 多くの人達が集まる大きな街では身なりによって人の印象が変わると教えられていた僕は自分の姿を見てみたが山籠りで服が結構ボロボロになってしまった僕はかなりみすぼらしい印象を与えることは確実だった。

(このままだと街の門番に止められて面倒な事になるかも知れないな。
 大きな街に行く前にこの服装でも不自然でない小さな村に行って服を調達してから街に向かうようにしよう)

 普通に考えれば、初めての地域の地理など分かる訳がないのだが、支援魔法に探索魔法があったのでこの先に村があることは分かっていたのでまずはそこを目指すことにした。

(ここから獣道に沿って北に半刻くらい歩けば街道に出られるはずだ。暗くなる前に村へ着くように少し急ぐか……)

「おい、そこのヤツちょっと待ちな!」

 声がする方を見ると、見るからに“コイツ盗賊です!”な顔をしたゴロツキが4人組で周りを囲んできた。

「ちっ!完全にハズレじゃねえか!あの服を見てみろよ!どう見ても孤児か奴隷が逃げ出してきたような奴じゃねえか!これじゃあ金目のものなんて持ってる訳ねえしどうするよ?」

「そうだなぁ。だがこっちの姿を見られちまってるし逃げられて街の警備にでもたれ込まれたら討伐隊が組まれる可能性もあるしな。まあ面倒だし殺っとくか!」

「よし。じゃあ誰がとどめを刺すかで勝負しようぜ!勝った奴に皆で酒を振る舞うってのはどうだ?」

「「「いいねぇ!のったぜ!」」」

(ずいぶんと身勝手な事を言う奴等だな。
 まあ盗賊なんてやってる奴等なんてこんなものだろう。

 しかし、山籠りしてから人に会って無かったが久しぶりに会ったのが盗賊とかやはり僕はこの世界に転生しても運が悪いままなのだろうか?

 いや、このチートステータスを上手く使えるようにとの【チュートリアル】と思えばいいのか……)

 僕が武器を持った盗賊達を前にしても全く怯えた様子を見せない事が癇にさわったらしい盗賊達は武器をちらつかせながら僕を脅してきた。

「おい!お前!何をすかしてやがるんだ!ここは土下座して命乞いをする場面だろうがよ!まあ見逃すつもりはねぇけどな!」

「ほら!さっさと逃げた方がいいんじゃねぇのか?尤も腰が抜けて動けないのかもしれねぇがな!」

「ほれ!とっとと走れよ!逃げなきゃ賭けにならねぇだろうが!」

 盗賊達はニヤニヤしながら口々に僕を煽ってくる。どうやら僕をいたぶって殺すのを賭けの対象にして遊ぶつもりらしい。

(ふぅ、やはりどの世界も馬鹿と盗賊は救いようがないんだな。
 どのみちコイツらは生かしておくと善良な民が襲われて不幸な事を撒き散らすに違いないからここで殺しておくか……)

 僕はざっと盗賊達を見てリーダーらしき男に手の平を向けて初期魔法を唱えた。

「ファイアシュート!」

 僕の手の平にソフトボール大の火の玉が現れたかと思うとひとりの盗賊を吹き飛ばしていた。

「ぐわぁっ!?」

 吹き飛ばされた男は木にぶつかり動かなくなり、それを見た残りの盗賊達が叫んだ。

「なっなんだ今のは!?」

「まっまさか『魔法』なのか!?」

「コイツはヤベェぞ!一斉に殺るぞ!」

 僕は当然ながら剣などは持って無く、あるのは特訓で使った棒切れだけだったので魔法を見た盗賊達は接近戦を選んだ。

 その判断は間違いではなかった。相手が僕でなければ……。

 こんなへんぴな場所に出る盗賊達である。

 剣術も我流で集団で獲物を囲んで降伏させ戦力を削いでから皆殺しにする手口しか出来ないレベルの小者であったので、僕は慌てることなく一番近かったひとりの剣を軽く躱すと顔を棒で殴りつけた。

「ぎゃあああ!!!」

 殴られた男は数メートル吹っ飛びそれっきり動かなくなる。

 殴られた顔面は血だらけで恐らく頭蓋骨が砕けて死んだのではないかと思われた。

(あれ?まだ力が強かったかな?喧嘩でこれをやると間違いなく捕まるなぁ気をつけないとな)

 僕は盗賊を殺した事よりも力調整がまだ未熟だった事を気にしながら別の盗賊に意識を向けた。

「やっ野郎!!なにもんだお前は!?」

「盗賊に名乗る名前は持ってないよ。ウォータシュート!」

「ぐわっ!?」

 少し盗賊達との距離が開いた隙に水魔法も試してみた。

 ファイアシュートの水版で水球が敵に向かって飛んでいくのだがこちらは火事にならないので燃えやすい物がある森では使いやすい魔法のようだった。

 因みにファイアボールやウォータボールのように~ボールは火球や水球が目の前に出現するだけなので攻撃するには“行け!”などの追加制御が必要で普通は焚き火に火をつけたり水の給水に使うタイプの魔法だった。

 やはり実践前に試しておいて正解だった魔法のひとつである。

「まっ待ってくれ!降伏する!降伏するから助けてくれ!!」

 全ての仲間が殺されて最後に残った男は腰を抜かして地べたを這いずりまわりながら命乞いをしてきたので僕は男に言った。

「お前達は今までにそうやって命乞いをする人達を何人殺してきた?
 自分より弱い者をいたぶって殺してきたからには当然自分の番になっても文句は言えないよな?
 お前らは僕に“殺す”とはっきり言ったのだから……」

「ひぃっ!!たっ助けてくれ!」

 正直言って戦意を失った者をいたぶって殺す趣味は僕には無かったが、コイツらは盗賊で生かして見逃すことは出来ない。

 もし、僕に盗賊を返り討ちにする力が無くて遭遇していたら盗賊達の思惑どおりに僕はなぶり殺しになっていたからだ。

 また、冒険者となり依頼で盗賊の討伐を受けていたなら生かしたまま捕らえて役人に突き出す方法もあったが、実際に今の僕にはその権限もない。

(やはり今後の憂いを絶つためにも葬るしかないだろう……)

「せめてもの恩情だ。苦しまずに逝かせてやるよ。アイスストーム!」

「・・・・・・!」

 男は声も無く氷づけになり絶命した。

(ふぅ、盗賊とはいえ人との命のやり取りはかなりヘビーな体験だったな。
 しかし、これからこの世界で生きる為には絶対に乗り越えなくてはならない壁だから早くに経験出来て良かったと思うか……)

 僕は魔法で穴を掘ると盗賊の死体を埋葬しておいた。

 やはり人を殺すという前世ではまず経験する事のない事案になんとも言えない後味の悪さと戸惑いの感情は直ぐには消化出来ず“埋葬”する行為に繋がったと考えた。

 僕はその場を離れた所にあった沢で顔を洗い、心を落ち着けてから村に向う街道に続く獣道を進んで行った。
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