荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼

文字の大きさ
上 下
149 / 201

第149話【旅のお弁当】

しおりを挟む
「料理を持ち帰りたいと言ってるのはあんたたちかい?」

 僕たちが食事を進めていると先ほどの店員が中年の女性を連れて僕たちのテーブルへ戻ってきた。

「あなたがこのお店の店主ですか?」

「ああ、あたしがこの宿の店主をやっているリザだよ。
 それでうちの料理を気に入ってくれたのはありがたいけど、料理ってのは作りたてを食べてもらうのがうちの売りなんだよ。
 だからいくらここで美味かったと思っても持ち帰って冷めた料理を食べて不味かったなんてなれば料理に対して失礼にあたるだろう?
 なんで基本的に持ち帰りはやってないのさ。
 残念だけど諦めて直接食べに来てくれると嬉しいわね」

 リザはそう言うと手をひらひらとして笑顔で戻ろうとした。

「じゃあ、いつでも出来たてを食べられるのなら良いですか?」

「は?」

「ですから、冷めた料理を食べて不味いと思われるのが我慢が出来ないのですよね?
 でしたらいつでも出来たての美味しいままで持って帰るのならばいいんですよね?」

「いったい何を言ってるんだい?
 そんなことそれこそ時間を止めでもしなけりゃ無理な話だよ。
 馬鹿言ってないで出された料理を冷めないうちに食べちまいな」

 リザはそう言って取り合おうとしない。

「料理の時間を止めることくらい出来ますよ」

「なんだって?
 あたしはそんな冗談は好きじゃないんだよ。
 ――しかしあんたもしつこいね。
 分かったよ、じゃあ一品だけ作ってあげるからどうやって持って帰るか見せてみなよ。
 それであたしが納得したならば好きなだけ持ち帰り用の料理を作ってやるさ」

「わかりました。
 ありがとうございます」

 あきれた声でリザがそう言うと「少し待ってな」と言って厨房へと入って行った。

 それから約10分ほど待っていると皿に料理を乗せてリザが厨房から現れ「ほら約束の料理だよ。これをどう保存して運ぶのか見せてもらうよ」と言ってテーブルに置いた。

「実に美味しそうな料理ですね。
 ぜひとも持ち帰って旅の食事に食べたいです」

「そう言ったお世辞はいいんだよ。
 それよりも早く見せておくれその方法とやらを」

 リザは厳しい表情のまま僕にそう言ってから腕を組んで待った。

「わかりました。
 では……この料理をカード化させてもらいますね。
 ――カード収納ストレージ

 僕の手にしていた料理はお皿ごと淡く光を灯すと一枚のカードになり僕の手に収まった。

「これでいつでも出来たての料理を食べることが出来ます。
 もちろんこうしてカード化してある時は時間が停止していますので品質の劣化がありませんので腐ることもありませんし冷める事もありません。
 これで納得してもらえますか?」

 僕は説明と共にカード化したものをリザに渡す。

「それでこれはどうすれば元の料理に戻るんだい?」

「ああ、それはスキルで開放すれば戻りますよ。
 そのカードを貸してください元に戻しましょう」

 僕はそう言ってリザからカードを受け取るとテーブルに置いて開放スキルを発動させた。

 するとカード化された料理が出来たてのままテーブルの上に現れた。

「……こいつはおどろいた。
 今のはカード収納ってスキルなんだろ?
 確かにそんなスキルがあるのは知っていたけど料理を皿ごとカードにするほどの使い手は今まで見たことないよ。
 しかも品質劣化無しとは恐れ入ったね。
 確かにそれならばいつでも、それこそ旅の間でも出来たての料理が食べられると言うのもうなずけるわ」

「納得してくれて良かったです。
 では約束どおり持ち帰り用に料理の追加をお願いしたいです。
 もちろん食器ごとになりますのでその分の料金も上乗せして構いませんので」

「食べた後の食器はどうするんだい?」

「洗ってからカード化して持ち歩く予定です。
 特にかさばるわけでもないですし、もし後日ここを訪れることがあればお返しすることが出来るかもしれませんね」

「わかったよ。
 じゃあ持ってきたら食器代金の半額を返すとするよ。
 それでいいかい?」

「もちろん良いですがいつになるかわかりませんよ?」

「ははは、まあ私が店をやっている間に限っとくよ。
 それで料理はどのくらい必要なんだい?」

「そちらが準備できる範囲になると思いますが最低でも金貨1枚分は欲しいですね」

「金貨1枚かい……それは相当気合いを入れて作らないといけないね。
 約50皿になるが全部違うものを作るのは無理だから10種類の料理を5皿ずつでいいかい?」

「もちろん大丈夫です。
 ありがとうございます。
 では、料金は先にお支払いしておきますね」

 僕はそう言うとポーチから金貨のカードを取り出してカード化を開放しリザへ手渡した。

「……先に料金を支払われちゃあ作らない訳にはいかないね。
 それじゃあ出来たものから運んでくるから持ってきた端からカード化しちまいな」

「わかりました。
 よろしくお願いします」

 僕はそう言って残りの料理を平らげて食後の紅茶を飲みながら料理が出来上がるのを待った。

「ボア肉のステーキ雷麦のパン挟みだよ」

カード収納ストレージ

「カリカリ豆と跳ね鳥の香ばし炒めだよ」

カード収納ストレージ

「春野菜の蒸焼きミルクスープだよ」

カード収納ストレージ

「暴れ牛のテール焼きと香草の和え物だよ」

カード収納ストレージ

 僕の予想以上のスピードで次々と料理が出来上がり僕の前に運ばれてくる。

 ものの1時間もたっただろうか今まで店員が運んできていた料理をリズが自ら持って姿をあらわした。

「こいつで最後だよ。
 黄金豚のロースとガガモ鳥の香辛料まぶしだ。
 どうだい?
 金貨相当に見合う料理だったかい?」

 そう言って自信の笑顔を見せるリズに僕は笑顔を返しながらうなずいて「ええ、もちろん十分に見合うものだったと思ってます」と答えてから彼女の運んできた最後の料理もカード化をした。

 全ての料理をカード化した僕は「ありがとうございました。どれも食べてみたかったですけれどお楽しみは後にして明日の朝は今の料理以外でお願いしますね」と言ってノエルと共に席を立って部屋へと向かった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...