138 / 201
第138話【選択と交渉】
しおりを挟む
自分の馬車を購入してノエルを御者に隣国へ向かうか乗り合い馬車などを使うかを選ばなければならなかった。
(どちらもそれなりのリスクがあるが隣国への移動だけならば乗り合い馬車の方が無難だろうか?)
考え込む僕を心配そうに覗き込むノエルに気がついた僕は彼女に相談をすることにした。
「ごめん。
ひとりで考え込んでしまったようだ。
いや、今後の移動に馬車を調達するかとりあえずは乗り合い馬車で移動するかで悩んでいたんだ。
ここまではマリアーナさんの馬車で移動してたからね」
僕の言葉にマリアーナが困った表情でノエルに説明をしてくれる。
「ごめんなさいね。
本当は私も一緒に行動出来たら良かったのだけど、さすがに職務を放棄して隣国へと行くのは立場上かなり問題になるのよ」
「それで、そのふたつだとそれぞれにリスクがあるから良く考えて決めなければならないんだ」
「それぞれのリスクですか?」
「うん。
例えば自分で馬車を買った場合は自由に移動が出来るんだけどマリアーナさんが抜けた事により旅の道中の護衛を新たに雇わなければならないんだ。
これは商業ギルドで紹介して貰えば良いけれど僕たちは当面隣国で活動するつもりだから護衛にあたった人たちがこちらへ戻る馬車や仕事が無ければ片道の報酬では割にあわないことになるんだ。
そして、馬車の維持費もそれなりにかかるだろうし小回りもきかなくなるだろう」
僕はそう説明するともうひとつの方法について話し始めた。
「もうひとつの乗り合い馬車を利用する方法だがちょうど良いタイミングで隣国へ向かう馬車が確保出来るかが問題だし同乗者にスキルを見せて良いかも決めておかなければならないだろう。
どちらも一長一短あるけど僕としては今の状況から自分の馬車を持つのは逆に邪魔になるんじゃないかと思ってるんだ」
「それはつまり乗り合い馬車で移動した方がいいと言うことですか?」
「そうだね。
またはどこかの商隊を紹介してもらってカード収納で荷物運びをする代わりに乗せてもらうのも一つの手ではあると思う」
「そうですね。
商業ギルドに問い合わせれば条件に合う商隊があるかもしれませんね。
さっそく問い合わせてみるとします」
マリアーナはそう告げると商業ギルドへと走って行った。
「とりあえずマリアーナさんが帰ってくるまでいろいろと準備をしておくとしよう」
僕はそう言って近場の商店でいろんなものを買い次々とカード化してポーチにしまい込んだ。
「ミナトさん、おまたせしました」
ひととおりの買い物を済ませた僕たちが集まるのを見越したようにマリアーナが戻ってくる。
「隣国へ向かう商隊をあたったところちょうど1件ほど南方にあるダルべシアへ向かう馬車があるようです。
商隊主ともお会いしてきましたが怪しいところはありませんでしたのでミナトさん自身が会って契約をされたら良いと思います」
マリアーナはたったあの短い時間に商隊を見つけて仮契約まで済ませて来ていたのだった。
「驚きました、凄まじく早い行動ですね」
「今の情報から今日中には王都を出た方が良いとの判断でしたので……。
出発する商隊がいたのは偶然ですよ。
それで今すぐお会いになれますか?」
「もちろん、そうさせてもらうよ。
マリアーナさんが大丈夫だと判断したのだったらそれが今の最良の行動だと思うからね」
僕はノエルの手をとり商隊主と話すために商業ギルドへと向かった。
「――お待たせしました。
こちらが依頼人になります」
「ミナトと申します。
ダルべシアへ向かうつもりで馬車を探していたところにこちらのマリアーナが話を持ってきてくれまして急ぎ来たまでです」
僕は目の前にいる割腹の良い壮年の男性にそう挨拶をした。
「これはご丁寧に。
私はアランガスタ王都と隣国のダルべシア王都の物流を担っているロロシエル商会筆頭御者を務めているトトルです。
この商隊の御者たちのまとめ役を担っております。
先ほどマリアーナ嬢からあなたの事をお聞きして少々興味が湧きましたのでお呼びした次第でございます」
トトルはそう言ってギルドの職員から紙とペンを受け取ってから話を続けた。
「おおまかな話しはマリアーナ嬢からお聞きしておりますので単刀直入にお伺いしますがどの程度の荷物をカード化して運ぶ事が出来ますかな?」
「そうですね。
とりあえず馬車1台分は問題なく出来ますね。
それ以上は試したことがないのでなんとも言えないです」
本当はそれどころではないのだがあまりにも規格外な量を言うと面倒なことになりかねないので僕たちを乗せるスペースに加えてお得ですよとのアピールするに十分かとの判断でそう答えた。
「なんと! 馬車1台だと!?
そのような規模のカード収納など聞いた事もないが本当なのだろうね?」
トトルはマリアーナの方を見て彼女がうなずくのを確認すると「ううむ」と唸った。
「……いいでしょう。
他国とはいえギルドのサブマスターである彼女の推薦があることですし、馬車1台分の荷物を余分に運べるならばあなた方の運賃程度は十分に賄えてお釣りがくるでしょうからね」
「では私と婚約者のふたりをお願いします。
その対価にそちらの運ぶ荷物をカード化してお渡ししますので何をカード化するかを指示してもらえると助かります」
僕たちはお互いにそう言い合ってから握手を交わした。
「では、念のために契約書を交わしておきましょう。
商人たるもの口約束で信用してはならないのが鉄則でしてご容赦ください」
トトルはそう言って紙にスラスラと契約書を書き上げてからお互いに拇印を押して再度握手をした。
「無事に契約出来たようですね。
ロロシエル商会は馬車物流の大手ですから情報も多くお持ちですので道すがらダルべシアの事を聞くのも良いかと思いますよ」
マリアーナはそう言ってから「では、私はこれで。必ずロギナスに戻ってきてくださいね」と言い残して僕と別れた。
「では荷物の所へ案内しますのでついてきて頂けますかな?」
トトルはそう言ってギルドを出ると停めてあった馬車に僕を乗せてから自ら御者として馬車を走らせた。
(どちらもそれなりのリスクがあるが隣国への移動だけならば乗り合い馬車の方が無難だろうか?)
考え込む僕を心配そうに覗き込むノエルに気がついた僕は彼女に相談をすることにした。
「ごめん。
ひとりで考え込んでしまったようだ。
いや、今後の移動に馬車を調達するかとりあえずは乗り合い馬車で移動するかで悩んでいたんだ。
ここまではマリアーナさんの馬車で移動してたからね」
僕の言葉にマリアーナが困った表情でノエルに説明をしてくれる。
「ごめんなさいね。
本当は私も一緒に行動出来たら良かったのだけど、さすがに職務を放棄して隣国へと行くのは立場上かなり問題になるのよ」
「それで、そのふたつだとそれぞれにリスクがあるから良く考えて決めなければならないんだ」
「それぞれのリスクですか?」
「うん。
例えば自分で馬車を買った場合は自由に移動が出来るんだけどマリアーナさんが抜けた事により旅の道中の護衛を新たに雇わなければならないんだ。
これは商業ギルドで紹介して貰えば良いけれど僕たちは当面隣国で活動するつもりだから護衛にあたった人たちがこちらへ戻る馬車や仕事が無ければ片道の報酬では割にあわないことになるんだ。
そして、馬車の維持費もそれなりにかかるだろうし小回りもきかなくなるだろう」
僕はそう説明するともうひとつの方法について話し始めた。
「もうひとつの乗り合い馬車を利用する方法だがちょうど良いタイミングで隣国へ向かう馬車が確保出来るかが問題だし同乗者にスキルを見せて良いかも決めておかなければならないだろう。
どちらも一長一短あるけど僕としては今の状況から自分の馬車を持つのは逆に邪魔になるんじゃないかと思ってるんだ」
「それはつまり乗り合い馬車で移動した方がいいと言うことですか?」
「そうだね。
またはどこかの商隊を紹介してもらってカード収納で荷物運びをする代わりに乗せてもらうのも一つの手ではあると思う」
「そうですね。
商業ギルドに問い合わせれば条件に合う商隊があるかもしれませんね。
さっそく問い合わせてみるとします」
マリアーナはそう告げると商業ギルドへと走って行った。
「とりあえずマリアーナさんが帰ってくるまでいろいろと準備をしておくとしよう」
僕はそう言って近場の商店でいろんなものを買い次々とカード化してポーチにしまい込んだ。
「ミナトさん、おまたせしました」
ひととおりの買い物を済ませた僕たちが集まるのを見越したようにマリアーナが戻ってくる。
「隣国へ向かう商隊をあたったところちょうど1件ほど南方にあるダルべシアへ向かう馬車があるようです。
商隊主ともお会いしてきましたが怪しいところはありませんでしたのでミナトさん自身が会って契約をされたら良いと思います」
マリアーナはたったあの短い時間に商隊を見つけて仮契約まで済ませて来ていたのだった。
「驚きました、凄まじく早い行動ですね」
「今の情報から今日中には王都を出た方が良いとの判断でしたので……。
出発する商隊がいたのは偶然ですよ。
それで今すぐお会いになれますか?」
「もちろん、そうさせてもらうよ。
マリアーナさんが大丈夫だと判断したのだったらそれが今の最良の行動だと思うからね」
僕はノエルの手をとり商隊主と話すために商業ギルドへと向かった。
「――お待たせしました。
こちらが依頼人になります」
「ミナトと申します。
ダルべシアへ向かうつもりで馬車を探していたところにこちらのマリアーナが話を持ってきてくれまして急ぎ来たまでです」
僕は目の前にいる割腹の良い壮年の男性にそう挨拶をした。
「これはご丁寧に。
私はアランガスタ王都と隣国のダルべシア王都の物流を担っているロロシエル商会筆頭御者を務めているトトルです。
この商隊の御者たちのまとめ役を担っております。
先ほどマリアーナ嬢からあなたの事をお聞きして少々興味が湧きましたのでお呼びした次第でございます」
トトルはそう言ってギルドの職員から紙とペンを受け取ってから話を続けた。
「おおまかな話しはマリアーナ嬢からお聞きしておりますので単刀直入にお伺いしますがどの程度の荷物をカード化して運ぶ事が出来ますかな?」
「そうですね。
とりあえず馬車1台分は問題なく出来ますね。
それ以上は試したことがないのでなんとも言えないです」
本当はそれどころではないのだがあまりにも規格外な量を言うと面倒なことになりかねないので僕たちを乗せるスペースに加えてお得ですよとのアピールするに十分かとの判断でそう答えた。
「なんと! 馬車1台だと!?
そのような規模のカード収納など聞いた事もないが本当なのだろうね?」
トトルはマリアーナの方を見て彼女がうなずくのを確認すると「ううむ」と唸った。
「……いいでしょう。
他国とはいえギルドのサブマスターである彼女の推薦があることですし、馬車1台分の荷物を余分に運べるならばあなた方の運賃程度は十分に賄えてお釣りがくるでしょうからね」
「では私と婚約者のふたりをお願いします。
その対価にそちらの運ぶ荷物をカード化してお渡ししますので何をカード化するかを指示してもらえると助かります」
僕たちはお互いにそう言い合ってから握手を交わした。
「では、念のために契約書を交わしておきましょう。
商人たるもの口約束で信用してはならないのが鉄則でしてご容赦ください」
トトルはそう言って紙にスラスラと契約書を書き上げてからお互いに拇印を押して再度握手をした。
「無事に契約出来たようですね。
ロロシエル商会は馬車物流の大手ですから情報も多くお持ちですので道すがらダルべシアの事を聞くのも良いかと思いますよ」
マリアーナはそう言ってから「では、私はこれで。必ずロギナスに戻ってきてくださいね」と言い残して僕と別れた。
「では荷物の所へ案内しますのでついてきて頂けますかな?」
トトルはそう言ってギルドを出ると停めてあった馬車に僕を乗せてから自ら御者として馬車を走らせた。
5
お気に入りに追加
882
あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる