荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼

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第104話【運び屋のお仕事】

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「――ではこちらが登録カードになります」

 受付嬢が出来たての登録カードをカウンターに置いて内容の説明をしていく。

「……となりますので絶対に失くさないようにお願いしますね」

 あらかたの説明が終わったころに少し離れた受付の窓口から言いあう声が聞こえてきた。

「――ですからそのような個人情報はお話することは出来ないのです。
 もし、先ほどのようなことが本当にあったのであれば具体的にそれを証明できなければ処分も対処も出来ないのです」

「それは本人をこの場に引き渡せということですか?」

「私どもとしても推測で話をするわけにはいかないと言っているのです」

 聞こえてくる話の内容と片方の声からマリアーナがギルドの職員にアルンの事を問い合わせたが突っぱねられたのだろう。

(いまここで僕が話に混ざってもややこしくなるだけだろうし、本当ならすぐにでも仕事を受けたかったがこの場は見なかったことにして一旦ギルドをでるほうが正解だろう)

 そう考えた僕は受付嬢から登録カードを受け取ると「また明日にでも仕事の話をするために来ます」と言って出口へ向かった。

   *   *   *

「なにあの受付嬢、ぜんぜん融通がきかないったらないじゃないの」

 宿で夕食を食べながらブツブツと文句をいい続けるマリアーナに苦笑いをしながら「で、どうするつもりですか?」と答えは分かっていたが一応聞いてみる。

「一番いいのはあの男をギルドに突き出せばいいのだけどあなたが困るからあそこでカード化しているのを開放するわけにもいかないでしょうし……」

「そういえばあの男が持っていた書類は見せたのですか?」

「いえ、見せてないわ。
 あんなもの見せてしまったらどこから手に入れたのか追及されて本人はどこに行ったのかとなるのは分かりきってるからね」

「つまり、あの男と書類はセットでなければ意味がないってことですね」

「そうよ。
 面倒ったらないわ本当に……。
 いっそのことこのまま無かったことにしたほうがいいのかしらね」

「思ってもいないことを言わないでいいですよ。
 そうは言ってもこのままにしてはおけないって顔をしてますからね。
 でも、とりあえずカード化しておけば死にはしませんから先にやるべきことをやってから街を出るときに木にでも括りつけて放置してやればいいんじゃないですか?」

 僕の提案にマリアーナは「そうね」と一応うなずいたものの、ギルドに問い合わせをしたからには向こうも内部調査をするだろうからこのままずっと放置するわけにもいかないだろう。

「近いうちに動きがあると仮定して決めておかなければならないだろうな」

 僕はそうつぶやいてため息をついた。

   *   *   *

 次の日、僕が仕事を探しにギルドを訪れたときザワザワと内部がざわついていた。

(また何か問題でもあったのか?)

 厄介ごとには首を突っ込みたくないが自分たちも問題を抱えているのでこのざわつきが何なのか気になり昨日対応してくれた受付嬢がいたのでそっと声をかけた。

「なにかトラブルでもあったのですか?」

「貴族の料理長をしている方が商人に食材調達を依頼していたのですがうまく調達出来なかったようでその代替品を探しているようですね」

「商人たちが結構焦っているように見えるけどその食材って珍しいものなんですか?」

「隣の国で採れる『ノーズベリー』と言われるもので保存や輸送の難しさから貴族のあいだで争奪戦がおきるほどの人気なんです。
 私も食べてみたいとは思ってますが私のお給金ではとても手の出るものではないので諦めてますよ」

 受付嬢が苦笑いをしながら僕にそう教えてくれた。

「あ、そういえばあなたカード収納スキルをお持ちで驚くほどの容量をカード化できるのでしたね」

 その受付嬢はひらめいたとばかりに僕に商売の提案をした。

「かなり面倒かもしれないですけど馬でノーズの町まで行ってノーズベリーを買ってカード化して戻ってくれば結構儲かるかもしれませんよ。
 馬車より断然早いでしょうし荷崩れの心配もないでしょうから」

 受付嬢の提案に僕は苦笑いをして「ノーズベリーは基本的に登録商人しか仕入れは出来ないみたいですよ。普通に食べるくらいならなんとかなるでしょうけど」と教えてあげた。

「そう言われれば買い付けに行く商人はいつも同じでしたね。
 それに、現地に行けばこちらよりも安く食べられるのですよね。
 いいなぁ、いつか行って食べてみたいですね」

「確かにあれは美味しいですよね。
 僕も初めて食べたときは感動したものですよ」

「食べられたことがあるのですか?」

「ええ、ちょうどこの町に来る前にノーズの町に行くことがありまして、その時にいくつかわけて頂いたんです。
 そうだ、せっかくですから食べてみますか?」

 僕は話の流れからなんとなく彼女にそう言ってノーズベリーをひとつ開放していた。

「ノ、ノーズベリー!?」

 いきなりノーズベリーを出された女性は思わず周りに聞こえる大きさで叫んでいた。

「なに! ノーズベリーだと!」

 その声は向こうで言いあっている商人と料理長の耳にも届き一斉にこちらを向いた。

「こ、これはまさしくノーズベリー!
 しかもこれほどの鮮度を保ったものは初めてみるぞ」

 真っ先に声をあげたのは料理長と呼ばれる壮年の男性だった。

「確かにこれは自分がノーズで仕入れるものよりさらに鮮度が良さげに見える。
 しかし、鮮度保持の魔道具を使って運んでもここまでの鮮度は保てないはずだが一体どうやって持ってきたんだ?」

「それは僕の仕事に影響するのでちょっと教えられませんね」

「君の仕事? 一体なんなのかね?」

「運び屋です」

「運び屋? それはなんだ?」

「基本的には運送屋と同じなんですが馬車を使わずにものを運ぶ仕事になります」

「馬車を使わない?
 よくわからないが、それよりノーズベリーはまだ持っているのか?
 もし持っていたら売ってくれないか?」

「いくつ必要ですか?」

「最低でも5、できれば10あると助かる」

「10ですね。
 いいですよ、お分けしましょう。
 価格は……」

「うちがいつも商人に払っている金額だとありがたいが今回は急に頼むので2割増しでもいい。
 通常1つ4000リアラだから10で40000リアラ、2割増しだから48000リアラでどうだ?」

(1つ4000リアラか、仕入れ値の8倍だがノーズの商人が利益を上乗せしてニードルの商人がここまで運んで売る利益もあるしこの世界なら妥当なのかな?)

 僕はサンザンで仕入れたベリーの価格を思いうかべてそう思った。
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