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第64話【研修の息抜きと考える力】
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「――そろそろお昼も近いのでちょっと市場まで出かけてみませんか?」
もくもくと課題をこなす姿を満足気に見ていた僕がふたりに提案をする。
「いいですね。
ちょっと疲れたので甘いものが欲しくなりました」
アーファがそう言って先に立ち上がる。
「私はもう少し……と言いたいですがきっとこれも研修の一環なのでしょう?
ご一緒させて頂きますよ」
ナムルもそう言って椅子から立ちあがった。
「ではこれから昼食とおやつの買い出しに行きたいと思います。
ふたりとも銀貨をカード化して持って行ってくださいね」
僕の言葉にふたりはうなずいて銀貨をカード化する。
「いいですね。
ふたりともスムーズにカード化出来るようになってます」
僕はふたりを褒めてから保養施設を出た。
「ナムルさん、実際に研修が始まりましたけどどうですか?」
市場へ向かって歩きながら僕がナムルに尋ねる。
「まだ始まったばかりですのでよく分からないけれどこういった地道な繰り返しはあまり苦にならない性分なのでやれるのではないかと思ってます」
ナムルの前向きな発言にうなずきながら僕はアーファにも同じ質問をなげかける。
「レベルが2になってもやることは同じなので今は良いですけどだんだん飽きてきそうですよね。
ときどき変わったやり方を混ぜて頂ければ楽しく訓練が出来るのではないかと思います」
確かに結局のところレベル上げとは地道なルーティングでしかなく簡単な近道など存在しないのである。
「とにかくレベル3です。
そこまでくれば今とは違うアプローチのやり方が出来るのでそこまでは根気よく今のやり方を通してください」
僕は彼女にそう伝えると『今のレベルでなにが出来ただろうか』と頭の中で考えていく。
「うーん。
すぐにはいいアイデアが浮かばないですけど、おそらくナムルさんが数日でレベル2になると思うのでそれまでにちょっと考えておきますね」
そう話しながら歩いていると僕たちはいつの間にか目的の市場までたどり着いていた。
「さて、どんなことも訓練の一環ですのでふたりとも持ってきたお金でカード化出来るものを買ってください。
出来れば食べるものがいいですね」
僕はそう言うとふたりに自由行動を促して自分は全員分の食事の調達のために食事処へと向かった。
「では後ほど待ちあわせの場所に向かいます」
そう言って市場を歩くアーファはこぶし大のサイズまでならばカード化出来るので手頃なパンのお店を見つけて店主に話しかける。
「お兄さん、このパンひとつ貰えますか?」
「おう、ありがとよ。
ひとつ銅貨1枚だ」
それを聞いたアーファは持ってきたカード化さらた銀貨を開放する。
「開放」
「はい。 いまは銀貨《これ》しか持ってきてないからこれで支払いをお願いします」
「へえ、あんたカード収納持ちかい?
最近、ある人物がカード収納スキルを便利に使いこなしていると噂になってたんだが本当に使えるものなのか?」
店主の青年はアーファにパンとお釣りを手渡しながらそう聞いた。
「あははは。
私はまだレベルが全然足りてないので『使えている』とは言えないですね。
でも、せっかく女神様から授かったスキルを無駄にするのは勿体ないですから少し頑張ってみようと思ってるんです」
アーファはそう答えながら受け取ったパンをカード化してカバンに入れた。
「へえ、カード収納スキルっていえば使えないスキルの代名詞だとある冒険者が言ってたけど、そうだよな女神様が授けてくれたスキルにそんなことを言っていたら失礼だよな。
そうだ、レベルがあがったらまた来てくれよ。
どのくらい使えるようになるのか興味があるから見せてくれたらパンをサービスするからさ」
店主の青年が興味を示したのはスキルなのかアーファなのかはわからないが笑顔でそう言った。
「そうですね。
レベル上げの励みにもなりますし、この市場にはよく来ることになりそうですからそのついでで良ければまた寄らせてもらいますね」
アーファは社交辞令程度の受け答えをしてパン屋を後にする。
「とりあえずパンは買えたけど他の食べ物でこぶし大のものといったら……。
うーん。フルーツかな」
アーファはそんな事をつぶやきながら市場をまわっていった。
その頃、ナムルは市場の通りに設置されているベンチに座って呆然としていた。
「いやいや、カード化出来る食べ物を買ってこいと言っても僕はまだ始めたばかりのレベル1だからペンなら1本、硬貨なら1枚が精一杯なんだ。
その容量で食べ物を買うように言われても無理に決まっている。
一体どうしたら良いんだ?」
ナムルはポケットから取り出したカード化された銀貨を眺めながらブツブツと愚痴をこぼしていた。
「あー、このカードを開放した瞬間にレベルがあがってくれないかなぁ。
そしたらいくつか買えそうなものは思いつくんだけど……」
なかなか現実的に難しいことをつぶやきながらナムルはふとあることに違和感を覚えた。
「あれ?
カード収納の容量ってどうやって決まるって言ってたかな?
例えば、レベル1だとこの硬貨をカード化出来るけどこの形しか出来ない事はないよな。
そういえば細長いペンもカード化出来ていたし……。
もしかして容積だけ決まっていて形自体はどうでもいいんじゃないのかな?
……だとしたら買えるものがあるかもしれない」
ナムルはそう結論づけるとベンチから立ち上がり食品市場へと向かった。
* * *
――1時間ほど経過して僕は自分の買い物をすませて集合場所に来ていた。
「あ、もう来てたんですね。
待たせちゃいましたか?」
先に現れたのはアーファでその表情からうまくいったのであろう事がわかるように笑顔にあふれていた。
「いや、今来たばかりだよ。
どうだったかは聞かなくても分かるけれど詳しい事は施設に帰ってから報告をしてもらうよ」
僕が彼女にそう告げていると彼女の後ろからナムルが走って来るのが見えた。
「すみません。
遅くなりましたか?」
「いえ、僕たちも今しがた来たばかりですよ。
では施設に戻って昼食にしましょうか。
報告は帰ってからにしましょう」
僕はそう告げるとふたりと市場の感想を聞きながら施設へと戻った。
もくもくと課題をこなす姿を満足気に見ていた僕がふたりに提案をする。
「いいですね。
ちょっと疲れたので甘いものが欲しくなりました」
アーファがそう言って先に立ち上がる。
「私はもう少し……と言いたいですがきっとこれも研修の一環なのでしょう?
ご一緒させて頂きますよ」
ナムルもそう言って椅子から立ちあがった。
「ではこれから昼食とおやつの買い出しに行きたいと思います。
ふたりとも銀貨をカード化して持って行ってくださいね」
僕の言葉にふたりはうなずいて銀貨をカード化する。
「いいですね。
ふたりともスムーズにカード化出来るようになってます」
僕はふたりを褒めてから保養施設を出た。
「ナムルさん、実際に研修が始まりましたけどどうですか?」
市場へ向かって歩きながら僕がナムルに尋ねる。
「まだ始まったばかりですのでよく分からないけれどこういった地道な繰り返しはあまり苦にならない性分なのでやれるのではないかと思ってます」
ナムルの前向きな発言にうなずきながら僕はアーファにも同じ質問をなげかける。
「レベルが2になってもやることは同じなので今は良いですけどだんだん飽きてきそうですよね。
ときどき変わったやり方を混ぜて頂ければ楽しく訓練が出来るのではないかと思います」
確かに結局のところレベル上げとは地道なルーティングでしかなく簡単な近道など存在しないのである。
「とにかくレベル3です。
そこまでくれば今とは違うアプローチのやり方が出来るのでそこまでは根気よく今のやり方を通してください」
僕は彼女にそう伝えると『今のレベルでなにが出来ただろうか』と頭の中で考えていく。
「うーん。
すぐにはいいアイデアが浮かばないですけど、おそらくナムルさんが数日でレベル2になると思うのでそれまでにちょっと考えておきますね」
そう話しながら歩いていると僕たちはいつの間にか目的の市場までたどり着いていた。
「さて、どんなことも訓練の一環ですのでふたりとも持ってきたお金でカード化出来るものを買ってください。
出来れば食べるものがいいですね」
僕はそう言うとふたりに自由行動を促して自分は全員分の食事の調達のために食事処へと向かった。
「では後ほど待ちあわせの場所に向かいます」
そう言って市場を歩くアーファはこぶし大のサイズまでならばカード化出来るので手頃なパンのお店を見つけて店主に話しかける。
「お兄さん、このパンひとつ貰えますか?」
「おう、ありがとよ。
ひとつ銅貨1枚だ」
それを聞いたアーファは持ってきたカード化さらた銀貨を開放する。
「開放」
「はい。 いまは銀貨《これ》しか持ってきてないからこれで支払いをお願いします」
「へえ、あんたカード収納持ちかい?
最近、ある人物がカード収納スキルを便利に使いこなしていると噂になってたんだが本当に使えるものなのか?」
店主の青年はアーファにパンとお釣りを手渡しながらそう聞いた。
「あははは。
私はまだレベルが全然足りてないので『使えている』とは言えないですね。
でも、せっかく女神様から授かったスキルを無駄にするのは勿体ないですから少し頑張ってみようと思ってるんです」
アーファはそう答えながら受け取ったパンをカード化してカバンに入れた。
「へえ、カード収納スキルっていえば使えないスキルの代名詞だとある冒険者が言ってたけど、そうだよな女神様が授けてくれたスキルにそんなことを言っていたら失礼だよな。
そうだ、レベルがあがったらまた来てくれよ。
どのくらい使えるようになるのか興味があるから見せてくれたらパンをサービスするからさ」
店主の青年が興味を示したのはスキルなのかアーファなのかはわからないが笑顔でそう言った。
「そうですね。
レベル上げの励みにもなりますし、この市場にはよく来ることになりそうですからそのついでで良ければまた寄らせてもらいますね」
アーファは社交辞令程度の受け答えをしてパン屋を後にする。
「とりあえずパンは買えたけど他の食べ物でこぶし大のものといったら……。
うーん。フルーツかな」
アーファはそんな事をつぶやきながら市場をまわっていった。
その頃、ナムルは市場の通りに設置されているベンチに座って呆然としていた。
「いやいや、カード化出来る食べ物を買ってこいと言っても僕はまだ始めたばかりのレベル1だからペンなら1本、硬貨なら1枚が精一杯なんだ。
その容量で食べ物を買うように言われても無理に決まっている。
一体どうしたら良いんだ?」
ナムルはポケットから取り出したカード化された銀貨を眺めながらブツブツと愚痴をこぼしていた。
「あー、このカードを開放した瞬間にレベルがあがってくれないかなぁ。
そしたらいくつか買えそうなものは思いつくんだけど……」
なかなか現実的に難しいことをつぶやきながらナムルはふとあることに違和感を覚えた。
「あれ?
カード収納の容量ってどうやって決まるって言ってたかな?
例えば、レベル1だとこの硬貨をカード化出来るけどこの形しか出来ない事はないよな。
そういえば細長いペンもカード化出来ていたし……。
もしかして容積だけ決まっていて形自体はどうでもいいんじゃないのかな?
……だとしたら買えるものがあるかもしれない」
ナムルはそう結論づけるとベンチから立ち上がり食品市場へと向かった。
* * *
――1時間ほど経過して僕は自分の買い物をすませて集合場所に来ていた。
「あ、もう来てたんですね。
待たせちゃいましたか?」
先に現れたのはアーファでその表情からうまくいったのであろう事がわかるように笑顔にあふれていた。
「いや、今来たばかりだよ。
どうだったかは聞かなくても分かるけれど詳しい事は施設に帰ってから報告をしてもらうよ」
僕が彼女にそう告げていると彼女の後ろからナムルが走って来るのが見えた。
「すみません。
遅くなりましたか?」
「いえ、僕たちも今しがた来たばかりですよ。
では施設に戻って昼食にしましょうか。
報告は帰ってからにしましょう」
僕はそう告げるとふたりと市場の感想を聞きながら施設へと戻った。
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