63 / 201
第63話【特訓の小手調べ】
しおりを挟む
ノエルと楽しく食事をした僕は彼女をお店まで送り届けるとギルドの保養施設へと足を向けた。
「――さて、どこから手をつけますかね」
ひとり歩きながら研修の進め方を考える。
(まあ、基本に忠実に進めれば1ヶ月もあればレベル3にはなるだろうからそれからいろいろな事を試してみるかな)
考えがあらかた纏まった時にはちょうど保養施設が目の前にあった。
「ただいま帰りました。
今日はもう遅いので研修は明日からにしたいと思います」
僕はふたりにそう告げるとあてがわれた部屋へと向かい記録簿の準備をしておいた。
* * *
――次の日の朝、食堂へと降りていくと厨房からいい匂いが漂ってくる。
「おはようございます。
もしかして朝食を作ってくれたのですか?」
厨房にはアーファが見事な手さばきで料理をしていた。
「あ、おはようございます。
ええ、昨日市場で買った食材がありましたので皆さんの朝食でもと思いまして……」
アーファはそう言いながらも手はフライパンを器用に操りながら食事を作っていく。
「さあ、出来ましたので食事にしましょう」
アーファの呼びかけでほかのメンバーもぞろぞろと食堂へと集まってくる。
「おはようございます。
今日からの研修宜しくお願いします」
食堂に降りてきたナムルが僕にそう言って頭を下げる。
「あ、おはようございます。
こちらこそ宜しくです。
――そうだ、今朝の朝食はアーファさんが作ってくれたんです。
調理のスキルを持っているのは彼女だけなのでお願いする事が多くなるかもしれませんが難しい時は町の食堂で買ってくるのも研修のひとつになりますのでそう思っていてください」
「アーファさん。
ありがとうございます」
ナムルはそう言ってアーファへお礼を伝えた。
「簡単なものばかりですけどお口に合えば嬉しいです」
綺麗に盛り付けられた料理に感心しながら僕たちはテーブルにつき手をあわせた。
「――今日から研修を始めますがナムルさんはまだレベル1ですのでこの銅貨をカード化する練習をしてください。
アーファさんはレベルが2になりましたのでこちらの水晶体をカード化してみてください」
食事を食べながらふたりに今日からの課題を伝える。
「アーファさんはもうレベル2になったのですか?
昨日ロギナスに到着したばかりでしたよね?」
アーファがレベル2になっていた事に驚いて尋ねるナムルにアーファは少し照れながら「はい。昨日の馬車での訓練で上がりました」と答えた。
「ナムルさん。
レベル2には早ければ数日で上げることが出来ますよ。
アーファさんはたまたまレベル1の時に試しに使った経験値がそれなりにあったのだと思います。
ナムルさんも初めての時は何度か試されたのではないですか?」
「それは……。
サブスキルでしたし周りの評価もよく無かったですから人前ではほとんど使いませんでしたので数えるほどしか使ってないと思います」
なにか悪いことをしてしまったようにおどおどしながら話すナムルに僕は優しく話しかける。
「でも、僕が困っていた時には使って見せてくれたじゃないですか。
大丈夫ですよ、すぐにレベルが上がって使うのが楽しくなりますから」
「すみません。
気を使わせたみたいで……頑張りますので宜しくお願いします」
ナムルは恐縮しながらも前向きの発言をする。
「そうですよ。
ミナトさんの教えてくれるやり方で頑張ればすぐにレベルなんて上がりますよ」
アーファもそう言ってナムルをもりたてる。
「じゃあ、今日は初めてだから僕はナムルさん中心に見ていくからアーファさんは前回同様に水晶体のカード化と開放を繰り返し行ってください。
ただし、頭痛がしたり身体がダルく感じられたら絶対に無理はせずに休憩をとるようにしてください」
僕はアーファにそう告げるとナムルに向きなおりポケットから銅貨を10枚ほど取り出してパチンパチンとテーブルに並べた。
「ちょっと大変かもしれませんが早急にレベルを3まで引き上げたいのでナムルさんにはすこーしだけ無理をしてもらいますね。
あ、念のために魔力の回復薬の準備はしてありますから頭痛が酷くなる前にかならず飲んでください。
僕が目の前で見てますのでなにか分からないことがあれば聞いてくださいね」
僕の言葉に顔を青くしながら一応うなずいたナムルは言われた通りに一枚ずつ銅貨をカード化していった。
「カード収納
カード収納
カード収納」
ナムルはテーブル上の銅貨を一枚ずつ手に取りながらスキルを発動させていく。
気は弱いが根は真面目な性格らしく淡々と指示をされた事をこなすナムルを眺めながら僕もこれからのことを考える。
(今回の物流革命には多くのカード収納スキル持ちの人が必要でそれこそギルドのある町全てを網羅出来なければ効率的ではないだろう。
最終的には僕が中心にいなくてもこの国中の物流がスムーズに回るようにするのが目標だな)
そんな事を考えているとナムルが「すみません。頭痛がするので休憩してもいいですか?」と話しかけてきた。
僕がテーブルの上を見ると10枚全部の銅貨がカード化されておりナムルが肩で息をしながらつらそうにしていた。
「ナムルさんお疲れ様でした。
なかなかハードな特訓でしょ?
周りから見たら「この程度で?」と思われそうですけど実際にやってみるとかなりつらいですよね。
この魔力回復薬を飲んでから少し休まれてください」
僕はナムルに薬を渡すと休むように伝えてからアーファの方へと立ちあがった。
「むむむ。
カード収納」
アーファはこぶし大の水晶体をカード化しては戻す訓練を繰り返していた。
「なかなか順調のようですね。
どうです?
レベルがあがったことによる感覚の変化はありましたか?」
「そうですね。
なんとなくですけどカード化する時の身体の負担というか精神力の負荷が少なくなったような気がしますね」
「その感覚は間違ってないと思いますよ。
実際にレベルがあがれば最大魔力値も上昇するようですし、大きなものをカード化してるのに魔力消費はほとんど変わらないみたいですからレベルがあがればあがるほどスキルを使うのが楽になると思いますよ」
「そうなんですね。
よーしもう少し頑張ってみますね」
アーファは単調な作業の繰り返しであるルーティーンワークに嫌な顔ひとつせずに笑顔でこなしていった。
(これは思ったよりも早くレベル3に到達するかもしれないな)
僕はそう思いながら彼女に微笑んだ。
「――さて、どこから手をつけますかね」
ひとり歩きながら研修の進め方を考える。
(まあ、基本に忠実に進めれば1ヶ月もあればレベル3にはなるだろうからそれからいろいろな事を試してみるかな)
考えがあらかた纏まった時にはちょうど保養施設が目の前にあった。
「ただいま帰りました。
今日はもう遅いので研修は明日からにしたいと思います」
僕はふたりにそう告げるとあてがわれた部屋へと向かい記録簿の準備をしておいた。
* * *
――次の日の朝、食堂へと降りていくと厨房からいい匂いが漂ってくる。
「おはようございます。
もしかして朝食を作ってくれたのですか?」
厨房にはアーファが見事な手さばきで料理をしていた。
「あ、おはようございます。
ええ、昨日市場で買った食材がありましたので皆さんの朝食でもと思いまして……」
アーファはそう言いながらも手はフライパンを器用に操りながら食事を作っていく。
「さあ、出来ましたので食事にしましょう」
アーファの呼びかけでほかのメンバーもぞろぞろと食堂へと集まってくる。
「おはようございます。
今日からの研修宜しくお願いします」
食堂に降りてきたナムルが僕にそう言って頭を下げる。
「あ、おはようございます。
こちらこそ宜しくです。
――そうだ、今朝の朝食はアーファさんが作ってくれたんです。
調理のスキルを持っているのは彼女だけなのでお願いする事が多くなるかもしれませんが難しい時は町の食堂で買ってくるのも研修のひとつになりますのでそう思っていてください」
「アーファさん。
ありがとうございます」
ナムルはそう言ってアーファへお礼を伝えた。
「簡単なものばかりですけどお口に合えば嬉しいです」
綺麗に盛り付けられた料理に感心しながら僕たちはテーブルにつき手をあわせた。
「――今日から研修を始めますがナムルさんはまだレベル1ですのでこの銅貨をカード化する練習をしてください。
アーファさんはレベルが2になりましたのでこちらの水晶体をカード化してみてください」
食事を食べながらふたりに今日からの課題を伝える。
「アーファさんはもうレベル2になったのですか?
昨日ロギナスに到着したばかりでしたよね?」
アーファがレベル2になっていた事に驚いて尋ねるナムルにアーファは少し照れながら「はい。昨日の馬車での訓練で上がりました」と答えた。
「ナムルさん。
レベル2には早ければ数日で上げることが出来ますよ。
アーファさんはたまたまレベル1の時に試しに使った経験値がそれなりにあったのだと思います。
ナムルさんも初めての時は何度か試されたのではないですか?」
「それは……。
サブスキルでしたし周りの評価もよく無かったですから人前ではほとんど使いませんでしたので数えるほどしか使ってないと思います」
なにか悪いことをしてしまったようにおどおどしながら話すナムルに僕は優しく話しかける。
「でも、僕が困っていた時には使って見せてくれたじゃないですか。
大丈夫ですよ、すぐにレベルが上がって使うのが楽しくなりますから」
「すみません。
気を使わせたみたいで……頑張りますので宜しくお願いします」
ナムルは恐縮しながらも前向きの発言をする。
「そうですよ。
ミナトさんの教えてくれるやり方で頑張ればすぐにレベルなんて上がりますよ」
アーファもそう言ってナムルをもりたてる。
「じゃあ、今日は初めてだから僕はナムルさん中心に見ていくからアーファさんは前回同様に水晶体のカード化と開放を繰り返し行ってください。
ただし、頭痛がしたり身体がダルく感じられたら絶対に無理はせずに休憩をとるようにしてください」
僕はアーファにそう告げるとナムルに向きなおりポケットから銅貨を10枚ほど取り出してパチンパチンとテーブルに並べた。
「ちょっと大変かもしれませんが早急にレベルを3まで引き上げたいのでナムルさんにはすこーしだけ無理をしてもらいますね。
あ、念のために魔力の回復薬の準備はしてありますから頭痛が酷くなる前にかならず飲んでください。
僕が目の前で見てますのでなにか分からないことがあれば聞いてくださいね」
僕の言葉に顔を青くしながら一応うなずいたナムルは言われた通りに一枚ずつ銅貨をカード化していった。
「カード収納
カード収納
カード収納」
ナムルはテーブル上の銅貨を一枚ずつ手に取りながらスキルを発動させていく。
気は弱いが根は真面目な性格らしく淡々と指示をされた事をこなすナムルを眺めながら僕もこれからのことを考える。
(今回の物流革命には多くのカード収納スキル持ちの人が必要でそれこそギルドのある町全てを網羅出来なければ効率的ではないだろう。
最終的には僕が中心にいなくてもこの国中の物流がスムーズに回るようにするのが目標だな)
そんな事を考えているとナムルが「すみません。頭痛がするので休憩してもいいですか?」と話しかけてきた。
僕がテーブルの上を見ると10枚全部の銅貨がカード化されておりナムルが肩で息をしながらつらそうにしていた。
「ナムルさんお疲れ様でした。
なかなかハードな特訓でしょ?
周りから見たら「この程度で?」と思われそうですけど実際にやってみるとかなりつらいですよね。
この魔力回復薬を飲んでから少し休まれてください」
僕はナムルに薬を渡すと休むように伝えてからアーファの方へと立ちあがった。
「むむむ。
カード収納」
アーファはこぶし大の水晶体をカード化しては戻す訓練を繰り返していた。
「なかなか順調のようですね。
どうです?
レベルがあがったことによる感覚の変化はありましたか?」
「そうですね。
なんとなくですけどカード化する時の身体の負担というか精神力の負荷が少なくなったような気がしますね」
「その感覚は間違ってないと思いますよ。
実際にレベルがあがれば最大魔力値も上昇するようですし、大きなものをカード化してるのに魔力消費はほとんど変わらないみたいですからレベルがあがればあがるほどスキルを使うのが楽になると思いますよ」
「そうなんですね。
よーしもう少し頑張ってみますね」
アーファは単調な作業の繰り返しであるルーティーンワークに嫌な顔ひとつせずに笑顔でこなしていった。
(これは思ったよりも早くレベル3に到達するかもしれないな)
僕はそう思いながら彼女に微笑んだ。
5
お気に入りに追加
882
あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる