荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼

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第55話【アーファの料理とノエルのヤキモチ】

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「ありがとうございます」

 アーファはメトルにお礼を言ってから金色マースの下処理を進める。

 小麦粉をまぶして塩などで下味をつけると持ち込みの油を使って唐揚げにしていく。

「こっちのボア肉も使わせてもらいますね」

 金色マースの唐揚げを揚げながらボア肉の塊を一定の厚さに切り分けていく。

「美味しそうなボアですので本来ならばステーキにするのが良いのですけど、今回はせっかく油を使ったのでこれも揚げて食べましょう」

 どうやらトンカツ揚げのようなものを作るらしいが卵が無いためつなぎとして粘りのある芋を擦ったものをまぶしていた。

「やっぱり手際が良いわね。
 あれ、普通に調理してるように見えるけどスキルの補助無しだとグズグズになるのは目にみえて分かりますからね。
 私も多少は自分で料理をすることがあるからその凄さはよく分かっているつもりです」

 ノエルはアーファの調理する手際の良さを感じながら邪魔をしないようにじっと眺める。

「さあ、そろそろ仕上がりますよ」

 アーファはそう言って荷物から食器を取り出して次々と料理を盛り付けていった。

「これで完成です!
 金色マースの唐揚げとボア肉の摺り芋まぶし揚げになります。
 ……あ、どうしよう。パンを用意するのを忘れていました」

 料理を完成させて満足していたアーファはパンの準備が出来ていない事に気が付きあわてて準備を始めようとする。

「今から作ったんじゃあせっかくの料理が冷めてしまうよ。
 パンは僕が出すからそれで食べることにしないか?」

 僕がそう言ってカードからパンを取り出して料理の側に置いた。

「ありがとうございます。
 では、みなさん食べてみてくださいね」

 アーファはそう言って全員分の料理を配った。

「うおっ!?
 こいつはうめぇ!
 こんな料理を野営で食べられるなんて今回はツイてるよな」

 一番に声をあげたのはヤードだったが他のみんなもお互いに顔を見合わせてうなずき合い「美味しい」を連呼していた。

「確かにこれは……」

 ノエルと一緒にアーファから受け取った食事を一口食べて僕はすぐに納得した。

「いい腕をしてるね。
 まだ若いのに相当に修練を重ねたんだね」

「まあ、私には調理コレしか無かったんでそれなりには頑張ってきた自負はあります」

 アーファは自分も食事を食べながら僕たちの話に入ってきた。

「でも、こうやって作れるのもミナトさんのカード収納のおかげでもあるんですよね。
 あなたの時間経過による劣化が無い収納スキルのおかげで新鮮な食材をここまで運んでくれているんですよね。
 私も早く少しでも多くの物をカード化して持ち運べるようになりたいですね」

 アーファはそう言いながらポケットから取り出した銅貨をカード化した。

「――カード収納ストレージ

「あっ! 今それをしたらマズ……」

 僕が止める間もなくアーファはカード収納スキルを使っていた。

「はれっ?
 なんだか目が回りますぅ?」

 アーファはそう言ってその場にぱたりと倒れ込んだ。

「ちょっと大丈夫なんですか?」

 ノエルが慌ててアーファの状態を確かめるが僕は冷静にウエストポーチからあるカードを探してカード化を開放する。

「あー、言わんこっちゃない。
 それでなくともまだ慣れなくて魔力消費の多いカード収納スキルを消耗してまだ回復していないのに使うから……。
 とりあえず魔力回復の薬を使えば落ち着くからそれで様子をみることにしよう」

 僕はアーファに薬を飲ませてからお姫様だっこで馬車のソファまで運んで休ませた。

「ふう、とりあえずこれで大丈夫だろう。
 起きたら今回の事を説明して今後は気をつけるようにしないといけないな」

 そう思考をしながら僕は視線を感じてふと目線を上げるとそこには頬を膨らませて不満気なノエルの顔があった。

「ん?
 ノエルさん、アーファさんならば少し休ませれば大丈夫ですから安心していいですよ」

 僕がそう言うとノエルはジッと僕の顔を見つめてため息をひとつ吐いて続けた。

「あなたが優しいのはよく分かっているんだけど必要以上に他の女の子と仲良くならないで欲しいな」

 そう言いながらノエルは頬を赤く染めて僕から視線を外す。

(あ、ああそうか……)

「いや、アーファさんにそんな感情は全くないから。
 ただ、あそこで寝かせてはおけなかったからああするしかなかった訳で……」

 ノエルの意図に気がついた僕は慌てて否定しながら言い訳をする。

 その姿があまりにも可笑しかったのかノエルは「ふふふっ」と笑顔になって僕の手を握って言った。

「ごめんなさいね。
 ちょっとだけアーファさんが羨ましかっただけなの」

 次にノエルを見ると舌をペロッと出して意地悪く笑った。

(もしかしてノエルさんって結構ヤキモチ焼きなのか?
 これからはもっと他の女性と接する時は距離感に気をつけないとな)

 僕はそう考えながらも内心ホッとした。

「彼女は大丈夫なのか?」

 僕とノエルの話が一段落つくのを見計らっていたようにヤードが話しかけてきた。

「ええ、ちょっとスキルの使いすぎで魔力不足を起こしていただけてすので薬も飲ませましたし、暫く休ませれば回復すると思いますよ」

「そうか、それならば良かった。
 あんな美味いメシを作れる人に何かあったら大変だからな」

 そう言って心配するヤードを見ながら僕は(この人の大切な人の基準は美味い飯をつくれるかどうかなんじゃないのか?)と思いながら苦笑いをした。

「とりあえず彼女の事はメトルさんかミリーさんにお願いしても良いですか?」

「ん? ああ、そうだな。
 ふたりに交代で様子をみてくれるように指示をしておこう」

 ヤードはそう言うとメンバーを集めて野営中の警備について話し合いをした。

「じゃあ、僕たちも休ませてもらいましょうか。
 ああ、ノエルさんは馬車で休んでください。
 僕はテントをカード収納から出してそれを使いますから……」

 本来ならば一緒に休みたいところだが、まだ結婚どころか婚約もしていない僕たちが同衾どうきんする事など許されるものではない。

「じゃあ、おやすみなさい」

 僕はノエルにそう言って馬車へ乗り込むのを見送るとこれからの事を考えながらテントへと潜り込んだ。
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